第075話目―赤ちゃん―
赤ちゃん、と言うタイトル通りの展開です。
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「なるほど……そのような事が」
どういった経緯でエキドナがこうなってしまったのかを、セルマとの絡みだけは隠しつつ、その他の全てをきちんと伝えた所、アティは戸惑いながらも納得してくれた。
地下の半人半魔の事も、説明するにあたって、隠しきれるものではないので、教えた。
彼ら曰くは秘密にしておいて欲しい、という事だったけれど、アティは信頼が出来るので大丈夫だ。
と言うか、こういった情報は、アティとだけは共有すべきものだと個人的には思っている。
「ままー」
話が落ち着いた所で、エキドナが、アティに抱き着く。
アティがママ、らしい。
そういえば、僕の事も、パパと呼んでいた。
振り返ってみれば、卵から孵化した時にいたのが僕だったし、その後に甲斐甲斐しく世話をしていたのはアティだった。
だから、そういう認識なのかも知れない。
セルマに関しては、自分より後から入ってきた事もあってか、遊び相手とか、そういう感じに思っていそうだ。
エキドナがセルマに初めて伝えた言葉が、「遊んでくれてありがとう」だったのは、その為だろう。
「……私がママですか」
「ままー」
「……そう呼ばれるようになるのは、あと数か月先の事かな、と思っていたのですが」
エキドナの頭の撫でながら、アティが不思議な事を言った。
数か月先になると、ママと呼ばれるようになるって――
――まさか。
僕がハッとしたような表情になると、アティが薄く笑んだ。
「どうされましたか、ハロルド様」
「いや、今数か月先って……」
「はい」
「もしかして……」
「……ハロルド様、少し、お手を借りますね」
アティは、僕の手を掴むと、ゆっくりと自らのお腹に押し当てた。
「ここに、確かに、ハロルド様との間のお子がいます。……分かったのは、本当に、つい最近ですけれど」
頬を朱色に染めながら、アティは俯きつつ、そして眼を優しく細めた。
僕は、一瞬、驚きで言葉を失った。
しかし、驚きはやがて、嬉しさに覆いつくされていく。
「……本当に赤ちゃんが?」
「はい。本当です。ずっと望んでいた事ですので、私は、とても幸せな気分です。そのうちにお伝えしようと思っていた所でしたので」
どう表現すれば良いのだろうか。
僕はどんな言葉を伝えれば良いのか、とても悩み、そしてようやく出て来た言葉が、
「……ありがとう」
ただ、その一言だった。
「……おめでたい事でありますね。私の仕事も増えそうであります」
「……あかちゃん? あかちゃんってなに? よくわかんないけど、ぱぱもままも笑顔だから、きっといい事だよね!」
色々と今回の元凶となってしまった為か、今まで押し黙っていたセルマも、懐妊の報には純粋に喜びを表明してくれた。
どういう事なのか良く分かっていなさそうなエキドナも、雰囲気で察したらしく、良い事が起きたのだと理解したようだ。
ところで、子どもが出来たとなると、考えなければいけない事も増える。
例えば、旅をどのようにするか、だ。
場合によっては、一時旅の中断も考えないといけないかも知れない。
今はまだ大丈夫だとしても、お腹が大きくなってくれば、動くのも辛くなってくるハズ。
となると、そうなる前に、早めに南下する必要もある。
今いるこの国は、気温が低く、寒い場所なので、ここではなく温暖な過ごしやすい気候の場所に行きたい。
ベストは、アティの希望でもあった南大陸に着く事だけれど……それはあくまで可能であれば、かな。
無理にとは言わない。
僕にとって、アティの体調は、何よりも優先すべき事になったのだ。
「お名前も今の内から考えて頂けると……」
「一緒に考えよう」
「は、はい」
いずれ産まれてくる子は、僕の子でもあるけれど、アティの子でもある。
そもそも、お腹を痛めて産んでくれるのはアティであるのだから、名づけからアティを省くなんて事は絶対にない。
アティは優しく自らのお腹を撫でると、
「……産まれて見ないと分からない事ではありますが、男の子と女の子、どちらでしょうかね。ハロルド様はどちらが良いですか?」
と、そんな事を言った。
僕は、間髪入れずに、思ったままを口にする。
「どっちでも元気に産まれてくれたら、それだけで十分だよ」
すると、ぎゅうっとアティが僕に抱き着いてきた。
嬉しそうな表情をしつつも、アティは、薄っすらと涙を浮かべていた。
「……どこか痛いの? 大丈夫?」
「いえ、違います。とても嬉しくて、だから、涙が……」
なんとも可愛らしい理由だった。
僕はアティのおでこにキスをしてあげた。
時期を考えると、初めて肌を重ねた時のが……でしょうか。




