表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

77/114

第075話目―赤ちゃん―

赤ちゃん、と言うタイトル通りの展開です。

※※※※


「なるほど……そのような事が」


 どういった経緯でエキドナがこうなってしまったのかを、セルマとの絡みだけは隠しつつ、その他の全てをきちんと伝えた所、アティは戸惑いながらも納得してくれた。

 地下の半人半魔の事も、説明するにあたって、隠しきれるものではないので、教えた。

 彼ら曰くは秘密にしておいて欲しい、という事だったけれど、アティは信頼が出来るので大丈夫だ。

 と言うか、こういった情報は、アティとだけは共有すべきものだと個人的には思っている。


「ままー」


 話が落ち着いた所で、エキドナが、アティに抱き着く。

 アティがママ、らしい。

 そういえば、僕の事も、パパと呼んでいた。


 振り返ってみれば、卵から孵化した時にいたのが僕だったし、その後に甲斐甲斐しく世話をしていたのはアティだった。

 だから、そういう認識なのかも知れない。


 セルマに関しては、自分より後から入ってきた事もあってか、遊び相手とか、そういう感じに思っていそうだ。

 エキドナがセルマに初めて伝えた言葉が、「遊んでくれてありがとう」だったのは、その為だろう。


「……私がママですか」

「ままー」

「……そう呼ばれるようになるのは、あと数か月先の事かな、と思っていたのですが」


 エキドナの頭の撫でながら、アティが不思議な事を言った。

 数か月先になると、ママと呼ばれるようになるって――


 ――まさか。


 僕がハッとしたような表情になると、アティが薄く笑んだ。


「どうされましたか、ハロルド様」

「いや、今数か月先って……」

「はい」

「もしかして……」

「……ハロルド様、少し、お手を借りますね」


 アティは、僕の手を掴むと、ゆっくりと自らのお腹に押し当てた。


「ここに、確かに、ハロルド様との間のお子がいます。……分かったのは、本当に、つい最近ですけれど」


 頬を朱色に染めながら、アティは俯きつつ、そして眼を優しく細めた。

 僕は、一瞬、驚きで言葉を失った。

 しかし、驚きはやがて、嬉しさに覆いつくされていく。


「……本当に赤ちゃんが?」

「はい。本当です。ずっと望んでいた事ですので、私は、とても幸せな気分です。そのうちにお伝えしようと思っていた所でしたので」


 どう表現すれば良いのだろうか。

 僕はどんな言葉を伝えれば良いのか、とても悩み、そしてようやく出て来た言葉が、


「……ありがとう」


 ただ、その一言だった。


「……おめでたい事でありますね。私の仕事も増えそうであります」

「……あかちゃん? あかちゃんってなに? よくわかんないけど、ぱぱもままも笑顔だから、きっといい事だよね!」


 色々と今回の元凶となってしまった為か、今まで押し黙っていたセルマも、懐妊の報には純粋に喜びを表明してくれた。

 どういう事なのか良く分かっていなさそうなエキドナも、雰囲気で察したらしく、良い事が起きたのだと理解したようだ。


 ところで、子どもが出来たとなると、考えなければいけない事も増える。

 例えば、旅をどのようにするか、だ。

 場合によっては、一時旅の中断も考えないといけないかも知れない。

 今はまだ大丈夫だとしても、お腹が大きくなってくれば、動くのも辛くなってくるハズ。

 となると、そうなる前に、早めに南下する必要もある。

 今いるこの国は、気温が低く、寒い場所なので、ここではなく温暖な過ごしやすい気候の場所に行きたい。


 ベストは、アティの希望でもあった南大陸に着く事だけれど……それはあくまで可能であれば、かな。

 無理にとは言わない。

 僕にとって、アティの体調は、何よりも優先すべき事になったのだ。


「お名前も今の内から考えて頂けると……」

「一緒に考えよう」

「は、はい」


 いずれ産まれてくる子は、僕の子でもあるけれど、アティの子でもある。

 そもそも、お腹を痛めて産んでくれるのはアティであるのだから、名づけからアティを省くなんて事は絶対にない。

 アティは優しく自らのお腹を撫でると、


「……産まれて見ないと分からない事ではありますが、男の子と女の子、どちらでしょうかね。ハロルド様はどちらが良いですか?」


 と、そんな事を言った。

 僕は、間髪入れずに、思ったままを口にする。


「どっちでも元気に産まれてくれたら、それだけで十分だよ」


 すると、ぎゅうっとアティが僕に抱き着いてきた。

 嬉しそうな表情をしつつも、アティは、薄っすらと涙を浮かべていた。


「……どこか痛いの? 大丈夫?」

「いえ、違います。とても嬉しくて、だから、涙が……」


 なんとも可愛らしい理由だった。

 僕はアティのおでこにキスをしてあげた。

時期を考えると、初めて肌を重ねた時のが……でしょうか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
作者ついったー

こちら↓書籍版の一巻表紙になります。
カドカワBOOKSさまより2019年12月10日発売中です。色々と修正したり加筆も行っております。

書籍 一巻表紙
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ