第074話目―エキドナ、喋ります―
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「なんじゃ一体……」
中に入ると、白衣の老人――先生が、すぐさまに、僕とセルマに視線を移した。
だが、隣にいた半人半魔の子どもたちに気づくと、無表情のまま後頭部を引っ掻く。
僕たちが敵や侵入者の類ではない、と察したようだ。
「新しい友達か?」
「友達っていうか、なんていうか。先生……あのさ、へびを見なかった? この人たち探しているらしいんだよ。わるい人たちじゃないから、もし見かけてたら……」
「蛇……?」
はて、と先生は首を捻り――ぽん、と手を叩く。
「蛇の魔物は見たのう。この部屋に居たんじゃよ。なぜ居たのかは分からんが……」
「それだ! 先生多分それだよ! どこに行ったか分かる?」
先生の視線が、大きなガラス容器を向いた。
その中にいたのは小さな女の子である。
肌の所々に蛇の鱗のようなものがあり、それは、エキドナの鱗に凄く良く似ている――というか、そのものなのだけど……。
……まさか。
嫌な予感がした。
そして、それは当たってしまう。
「助けなければいけない子がおった。手遅れかも知れん子だったが、僅かな希望に縋りたくてな。そんな時に、なぜかは知らんがこの部屋に丁度良く魔物がおったから――使ったが?」
先生の口から発せられたのは、衝撃の事実だった。
「そんな……」
「なんということでありますか……」
僕だけではなく、セルマも驚いている。
当たり前だ。
冷静でいろ、という方が無理がある。
半人半魔になる、ということは、エキドナがエキドナでは無くなってしまうかも知れないのだ。
ここまで案内してくれた半人半魔の子たちも、目を大きく見開いて、「どうしよう」と言った面持ちになった。
僕らの様子に戸惑いながらも、先生は、ゆっくりとガラス管に近づいて中の水を抜き始める。
「……ともかく、この子が助かっていれば良いのだが」
完全に水が抜けると、ガラス管の中の女の子が、目を覚ました。
ぱちり、と瞬きを繰り返す。
「どうじゃ。自分の名を言えるか?」
「えきどなだよ?」
「なんと……。この子の名はそうではない。となると、魔物の方が勝ってしまったのか。駄目であったか。残念だが……元から助かる見込みは少ない子じゃった。今の自分に出来るだけのことはやった。仕方あるまい」
エキドナの意識が消えたということはなく、無事なようだ。
いや、無事と言って良いのかは分からないけれど。
半人半魔になってしまったワケだし……と、僕が混乱しているとエキドナが駆け寄って抱き着いてきた。
「――ぱぱ」
え、えぇ……。
僕どうしたらいいんだろうか。
悩んだ末に意見を求めるべくセルマを見る。
が、セルマはすぐに顔を逸らした。
「うん? なんだお主ら、この魔物と何か関係があるのか?」
「……先生が勝手に使っちゃった蛇の、飼い主さんかな」
「な、なんと……」
エキドナは、ひとしきり僕をぎゅうっと抱きしめると、次にセルマにも抱き着いた。
「ど、どうしたでありますか」
「いつも遊んでくれて、ありがとね!」
「御主様……これはどうしたら」
とりあえず、セルマにやられた事と同じ事を僕はした。顔を逸らした。
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僕は先生に事情の説明をした。
そのうえで、エキドナを元に戻せないかと聞いて見たのだけれど……。
「無理じゃな。元には戻せない」
どうやら、一度半人半魔になると分離する事は出来ないそうだ。
……困ったね。
このままエキドナを連れて帰るとなると、アティに説明しないといけなくなる。
でも、どう説明すれば良いのか。
「どうしたの? えきどな、だめなの?」
「駄目じゃないけど……」
「せるまは?」
「別に構わないでありますが……。ただ、調子が狂うでありますね……」
「にしても、アティになんて言おう」
「御主様に一任するであります」
逃げたな……。
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元に戻す事は出来ないけれど、このままずっと地下に居るわけにも行かない。半人半魔になったエキドナを連れて帰ることにした。
そうする以外に出来る事が何もないからである。
「俺たちのことは、ひみつにしておいてくれよな」
「分かったよ」
そんな約束を交わしつつ、半人半魔の子たちに案内をして貰い最短ルートで外へと出る。
そして宿へと戻り――
「……」
――翌朝、言葉を失い目を丸くするアティを見る事になった。




