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第070話目―見せつけるのは逆効果だったという―

本日はクリスマス・イブですね。

ということで、私から読者の皆様へ、最新話と言う名のクリスマスプレゼントを。(..◜ᴗ◝..)

※※※※


 宿に戻った後、(くだん)の半人半魔についてアティとセルマに話をしたところ、二人とも落ち着いた様子で理解してくれた。

 今日明日にも僕たちに何かしらの被害があるかも知れない、みたいな状況であれば、対策や対処を考えなければいけないけど、これ関係の問題は北東大陸内だけで収まる可能性も高いから、慌てることもなく冷静なのだ。


 少しのことで色々と考えてしまう僕と違って、二人の芯は強い。

 以前に比べれば、僕もかなりメンタルが強くなった気はするけど、こうした落ち着き払った二人を見ると、そうでもないような気もしてくる。


 見習わないといけないね……。


※※※※


 今夜もきちんとアティを抱く。それから、すっかり疲れて寝入ったアティを確認してから、僕は壁に立て掛けていた白銀の槍を手にし、一人外へ出ることにした。


 まばらに見える通行人がいるものの、総じて静かな町並みだった。

 ガラス容器の街灯の中にある焔が、ちらちらと陰り、舞った粉雪がそこに近づいては溶けていく。


 今先ほどに宿から出る前に、たまたまフロントにいた従業員から、こんな話を聞いた。

 粉雪の時は一番寒いので、あまり外に出られない方が良い、と。

 その言葉は正しいと思う。

 何せ、この国に入ってから今が一番寒い。


 転倒しないように、凍っていそうな場所を避け、あえて積雪の上を歩く。

 明かりが薄っすらとしか届かなくなった。

 もう周囲には人影もない。


 僕以外の足音が聞こえなくなって、それからまもなくして、開けた場所に出た。


 丁度いい場所だと思った。


「ここなら大丈夫かな……」


 僕がどうして一人でこんな人気の無い所に来たかというと、試したいことがあったからだ。

 次力と銀。

 頭の片隅にずっとあったそれについて、試したいことが出来たのだ。

 僕にとって、次力の制御はとても難しい。容易ではない。

 けれど、幾らかは出来たこともあった。

 ミーシャと戦った時に、銀粘土にギリギリ収めるぐらいは出来ていたあの感触を、今でも体が僅かに覚えている。

 あの時は、いつも以上に制御を効かせることが出来ていた。


 その理由については、無我夢中であったから深く考えていなかったけど、今になって思うのは、もしもそれが――銀粘土を通したから(・・・・・・・・・)、だとしたら? という点だ。

 僕にとって、次力と銀の相性が良い可能性がある。

 それを確かめたくなっていた。

 もっとも、次力を使う以上は多少なりとも危険が伴う可能性があるので、周囲には誰もいない状況が良く、だからこそこんな所に足を運んでいる。


「……」


 手にした槍を見る。

 これはそう簡単に溶けない、見たいなことをあの黒騎士は言っていた気がするし、実際に溶けてはいなかった。

 でも、それが僕にも当てはまるとは限らない。

 あの黒騎士も次力を使うようだけれど、僕と同じ使い方かどうかまでは確かではないし、それに、僕にとって銀はとても馴染みのある代物なのだ。

 何かが違うかも知れない。

 そんな気がする。


「とりあえず、やってみよう」


 一息吐いてから、少しずつ次力を流していく。

 集中して落ち着いてやっているから、というのもあるだろうけれど、それにしても特別に体の負担を感じない。

 不思議なものである。

 とかく、僕が次力を使うに当たっては、銀を通すのが非常に相性が良いのだということが、確信に変わった。


 少しずつ流量を増やしていく。

 槍はまだ溶けない。

 普通なら、とっくの昔にドロドロになっているぐらいには、次力を流しているのにも関わらずだ。

 特別製というだけはある。


 ところで、この槍が一体どういった銀によって創られているのか、実は僕でも分からなかった。

 色々な銀を見て触れて、細工してきた経験と知識はあれど、該当しそうなものが無い謎が多い銀なのだ。

 分かっているのは言葉通りに”銀”であるということだけ。


 気づいたら、出力がさらに上がっていた。

 いつもなら体が悲鳴を上げて、耳か目から血飛沫でも出るぐらいまでに。

 しかし、不思議なことに僕の体に異変は何もない……。

 そして――やがて融解点が訪れた。

 薄っすらと、それは絵の具が滲むように、槍が溶け出し始める。

 恐らく、これぐらいの出力ならば、本来この槍は耐えられるハズ。いや、ハズではなく、実際に耐えられるのだ。あの時の黒騎士の一撃は、間違いなくこれ以上の出力だったから。

 では、なぜ今こうして溶けているのか?

 僕が次力を使って(・・・・・・・・)流したから、溶け出したのである。

 親和性の高さ、とでも言えばいいのかな。


 白銀の槍は、すっかり溶けると、その姿を銀水球に変え僕の周りに浮かんだ。

 溶けて蒸発する、ということはなかった。

 そして、この銀水球はどうやら、僕の思うがままに動いてくれるらしい。

 動かしたいように動かせてしまった。

 なので、とりあえず、地面に向かって直進させてみることに。

 すると、銀水球は積雪を蒸発させながら、その下にある地表に穴を開け、どこまでも深く抉って潜っていった。

 数分が経つ。

 どこまで進んだのか少し怖くなってきた。

 僕は銀水球を引っ張りあげると、これまた数分をかけて手元に戻したそれを、次力でこねくり回して槍の形に戻す。


「ふぅ……」


 少しだけ疲労が襲って来たものの、以前のように、血肉が裂けて飛ぶようなことはない。

 銀を通せばあるいは、と思ったから試したことだけれど、思ってた以上の成果だった。

 けれども、これはなんだか、異様な次力の使い方のような気もする。

 まぁ、僕が持ちえる力をどう使うかは僕が決めることだから、気にするだけ無駄ではあるけどね……。

 体への負担はかなり軽くなるし、良い事ではあっても悪い事は何一つとしてない。


※※※※


 それは、僕が宿に戻る途中の事だった。

 更に夜が更けて、まばらだった人の気配も、一切が無くなっている。

 しぃんとした張り詰めた音さえ聞こえそうな静寂の頃。

 目の前に、見覚えのある人影が見えた。

 良く見るとセルマだった。


「……御主様」

「どうしたの、こんな時間に外に出て」

「……窓から、御主様が出かけられたのが、見えたので」


 セルマの部屋は宿の前方だ。

 入り口や前面の道は確かに見えるかも知れない。

 しかし、見えたからといって、普通こうして待ち伏せのようなことをするだろうか?

 ……。


「そっか」

「はい」

「……僕はもう戻るけど。眠くなってきたしね。セルマも、いくらある程度の寒さは大丈夫だって言っても、冷えるのは良くないんじゃない?」


 欠伸をしながら帰宅を促す。

 しかし、セルマは一向に動こうとせず、細めた眼で僕をじぃっと見ている。


 ――と、次の瞬間。


 突如として現れた糸によって、僕の手足が一気に縛られた。


 しまった、と思った。


 嫌な予兆は感じていた。

 けれど、いくら往来の人や気配が無くなった頃合とはいえ、ここは街中のド真ん中だ。

 そんな場所で、まさかこう来るとは、予想だにしていなかったのだ。


「……申し訳ありません。私もどうして自分がこのような暴挙に出てしまうのか、そこの所の説明が、上手く出来ません。けれど、なんと言いますか、御主様と奥様との愛し合いをこの目で見る度、耳で聞く度に、どうしても私もそれが欲しくなって来てしまうのです」

ハンドリングを微妙にミスりましたね、ハロルド君。

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作者ついったー

こちら↓書籍版の一巻表紙になります。
カドカワBOOKSさまより2019年12月10日発売中です。色々と修正したり加筆も行っております。

書籍 一巻表紙
― 新着の感想 ―
[良い点] セルマさん、初手から緊縛プレイとはなかなかの上級者だなっ!
[良い点] ハロルドの爆発が見れると思ったら、もっと危険な状況が(笑)
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