書籍第一巻発売記念SS【この物語はつまり】
今回は、家燃の書籍の第一巻発売を記念しまして、応援し支えて下さった読者の皆さまへの感謝のSS投稿になります。
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雲ひとつない快晴の中に、ぽつんと浮かんだ太陽がありました。
そこから放たれる明かりがどこまでも届いて、その温もりを浴びて育った花々が辺り一面を彩っています。
その中に、一人の女の子がいました。
ほんの少しだけ、よく見なければ分からないぐらいの尖った耳を持つその女の子は、お花の中でも、一際に綺麗に育ったものだけを集めて冠を作っていました。
「できた!」
作った花冠は二つです。
一つはお爺ちゃんに、もう一つはお婆ちゃんにあげる為に作ったのです。
喜んでくれるかなぁ……。
女の子はそんなことを思って、にこにこと笑いました。
普段は離れて暮らしているから、今日のような、両親の里帰りにくっついて来た時には、祖父母の喜んだ顔が見たくて何かしてあげたくなるのでした。
自分のやったことで微笑む姿が見たいのです。
「もどらないと……」
ててて、と花の園を駆けて、女の子はお家まで向かいますが――少し急ぎすぎてしまったようで、「あう」と転げてしまいました。
膝が少しだけ擦りむけて、血が滲んで来てしまいます……。
「……痛い」
じわり、と涙が浮かびました。
痛いのは苦手なのでした。
涙が頬を伝って流れて、けれども、その涙は誰かの指で拭われます。
顔を上げると、優しく微笑むお婆ちゃんがいました。
「どこに行ったのかと思えば、こんな所に……。あ、あら? 転んで傷が出来てしまったのですか。しようがありませんね。痛いの痛いのとんでゆけ~」
お婆ちゃんがそう言って傷口に触れると、あっという間に傷口が塞がりました。
魔術を使って、治してくれたようです。
女の子は嬉しくなって、にぱっと笑いました。
淡褐色の肌に尖った耳を持つお婆ちゃんは、ダークエルフです。暖かな温もりを持つその色合いの肌を見て、女の子は抱きつきました。
「……甘えん坊ですね」
「おばあちゃん!」
「さぁ戻りましょう」
「うん! そうだ! ねぇねぇ! お花の冠つくったの!」
「あら?」
「おじいちゃんとおばあちゃんに!」
「素敵ですね。ありがとう」
そう言って、おばあちゃんは花冠を頭の上にのせます。
「おばあちゃんかわいい!」
「ふふふ」
「おじいちゃんも喜んでくれるかな……?」
「きっと喜びますよ」
手を繋いで二人で家まで戻ると、そこには皆がいました。
叔父さんや叔母さん、従兄弟たちに女の子の両親。それに、薄紫色の髪を持つメイドさんも端の方でひっそりと立っています。
みんなが女の子を待っているようでした
「おや? 戻ってきたようだね。それじゃあ、そろそろ話を始めようかな……」
「俺たちが産まれる前の話か……」
「色々あったのは漠然と聞いたことあったけど、こうして最初から話してくれるっていうのは、何気に私も初めてな気がする。まぁ色々あったっていうのは、別に私たちが産まれる前に限った話でもないケドさぁ。ちょくちょく何かあった記憶ばっかだし」
「確かに……。いっつも僕ら何かに巻き込まれてたよね……」
「わ、私はあんまり大変な目にあった記憶はないけど……」
「それはアンタが末っ子で一番下だったからでしょ。アンタが物心ついて以降は面倒ごともほとんど無くなってたの」
お爺ちゃんは、何か全員に話したいことがあるようです。
それに合わせてなのか、女の子のお父さんに叔父さん、それと二人の叔母が懐かしむように過去を振り返っているようでした。そして、それを見て、お爺ちゃんが片眼鏡を掛け直しながら笑います。
「こうして孫も揃っていることだし、そこらへんの話もしようか。折角昔話をするのだから……」
「「「――俺たち――僕たち――私たちのことは話さなくていい!」」」
「どうして? 聞きたがっていると思うけれども」
「うん!」
「ききたい!」
従兄弟たちは、祖父母や自身の両親の昔について、興味津々なようで……それを見ていると、なんだか女の子も急に聞きたくなってきました。だから、勢い良く駆け出して、お爺ちゃんの膝の上に乗りました。
「おおっと……」
「混ぜて!」
「ははっ……」
「あと、これプレゼント!」
女の子は、お爺ちゃんの頭にお花の冠を載せてあげました。
すると、お婆ちゃんの言った通りに、お爺ちゃんはとても喜んだ顔をして、
「ありがとう。嬉しいなぁ。……そうだ、実はお爺ちゃんからも渡すものがあるんだ。これをあげよう。皆の分を、それぞれに似合いそうなのを、お爺ちゃんが作ったんだ」
そう言うと、銀で出来た髪飾りで、女の子の髪を結いました。
お爺ちゃんは昔、銀細工職人をやっていたことがあるらしくて、こういった小物を作るのがとても上手です。
とても綺麗で可愛い髪飾りで、女の子は脚をパタパタさせて、嬉しくて嬉しくて笑顔が満開になりました。
他の従姉妹たちも、お爺ちゃんやお婆ちゃんが大好きなので、女の子に負けじとお爺ちゃんの膝の上に乗ったり、席に座ったお婆ちゃんの膝の上に乗ったりし始めました。
ワイワイしながら、みんながお爺ちゃんのお話を待ちます。
「さて……」
ゆっくりと息を吐いて、それから、お爺ちゃんは話を始めました。
それは、お婆ちゃんと出会ってからの、お爺ちゃんが今まで生きてきた軌跡の物語でした。
幸せで平和な、そんな今日に至るまでの物語でした。
つまるところ、ハッピーエンドを迎えた後に、ハロルドが過去を振り返っている回顧録のようなものが実は本作です。




