第062話目―あしながおじさん―
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迷宮の攻略は結果的に成功した。
所要した日数はせいぜい二日程度だ。
本当にあっという間の出来事だったと言えよう。
とかく、終わったのであれば、あとは持ち帰ったお宝がどの程度の金銭になるかだけど――
「――全て即金でお支払いは無理です」
この街の一番に大きな商会に行ってみたところ、7割方のお宝が換金できないと言われてしまった。
理由は単純で、そこまで金庫にお金がない、とのことだった。
「……その、高くなりそうなものだけ、選びましたので」
アティが視線をそらした。
別に悪いことではないから、そんな失敗したみたいな表情はしなくてもいいんだけど……。
原因は高いものを選びすぎたせいではなくて、この街が元々が小さい、というところにあるのだ。
一見しただけでも、僕が住んでいたラマイスト王国の王都の百分の一以下ぐらいの規模なのは間違いがないし、先日に発った茨の港街と比べても明らかに貧相だった。
村に近い街とでも言えば良いのかな。
そのせいで、金銭のやり取りがある程度大きくなると、こうして詰まってしまうこともあるようで。
「……複数回払い、であれば出来なくはないのですが。全て払うのに数ヶ月は掛かるかと」
受付の人がそんなことを言う。
複数回払いとは……。
ここに住んでる人ならそれでも構わないだろうけど、僕らは旅をする身だ。
そこまでこの街に滞在する気はない。
「そんなに掛かるのであれば、僕らもここには長居はしませんので、今回は縁が無かったということで。これらは別の場所で売ろうと思います」
うーん、と僕は頭を引っ掻く。
すると、ふと窓の外に黒頭巾の少女を見た。
崩れた迷宮の後片付けをする町民を眺めつつ、意気消沈した表情で長椅子に座って足をブラブラさせていた。
家が大破したことをひきずって、何もやる気が起きないんだろうね……。
そういえば、お宝が手に入ったら、分からないように幾らかは渡そうと思っていたのだった。
僕は少しの間だけ思案して、
「……すみません。前言を撤回します」
「……え?」
「半分……5割ほどお売りします」
「よろしいのですか? 3割は即金で出せますが、残り2割は後払いになりますが……。長く滞在する気はないと仰っていませんでしたか?」
「えっと……なんというか、僕はお金は要りません」
「は、はぁ? それは、どういった意味でしょうか……?」
「窓の外にいる、黒頭巾被ってる女の人なんですけど、その人に全部あげてください。彼女はここに住んでいるようですし、残りの2割分の後払いも普通に受け取れるでしょうから。僕からというのは伏せておいて下さい」
「そ、それでよろしいのであれば、はい、そのようにいたします」
5割――半分ほどを黒頭巾の少女に渡すのは、少しやりすぎだろうか?
いや、僕はそう思わない。
一番の理由はこの片眼鏡だ。
これを手に入れることが出来たのは、マッチがあったからなのだ。
で、そのマッチを売ってくれたのは、どういった経緯であれ、他ならないあの黒頭巾の少女だった。
この目が色を取り戻したことに、感謝しないわけもない。
「ハ、ハロルド様……?」
「御主様……太っ腹でございます」
アティとセルマが少し驚いたような顔をしていた。
まぁ、この片眼鏡が僕にとって、どれだけの価値があったかは分からないから、そういう反応になるのも無理はないだろう。
「……家も無くなって可哀想だし、僕らもあんまり荷物パンパンで進むのもね。せっかく高いものをって選んだくれたアティには悪いけど」
「いえ、私のことは……」
アティは少し面白くなさそうな表情をして、けれど、すぐにハッとしたように僕を見た。
「……そういえば、その片眼鏡を手に入れるのにマッチを使いましたね。そのマッチはあの方から購入したものでした」
「うん」
「なにか特殊な効果が付いていたり……とかですか? 対価の像を完全に満足させたのですから、ただの片眼鏡だということもないです。今回の成果の半分を渡しても良いと思えるほどの効果がついていたのでしょうか?」
「……僕にとってとても大事な効果だったよ」
「……詳細を教えて頂いても?」
「秘密かな?」
僕が微笑みながらいうと、アティがぷぅと頬を膨らませた。
つつきやすそうな頬になったので、つついてみる。
「ご、誤魔化そうとしても……」
「大丈夫だよ。悪い効果ではないから」
「……そういうことでは」
「ね?」
「……ずるいです」
「じゃあ秘密にする代わりに、何か一つアティの言う事を聞こう。僕に出来る範囲のことで、になるけど」
「……」
「……駄目?」
「……何か考えておきます」
納得してくれたようだ。
けれど、まだ頬を膨らませている。
取りあえずもう一回突いてみようかな……と指を伸ばしたら、ぱくっと優しく食まれてしまった。
あらら……。
「……見ているこちらが恥ずかしくなるようなやりとりでございます」
ぼそっとセルマがそんなことを言った。
いやまぁ、僕も恥ずかしくはあるんだけど、ただ、アティが相手だからこうしたくなるだけなんだ。
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一夜を過ごしてから、僕らは次の街へ向かって出立することにした。
準備を済ませて街を出る。
その時にふと黒頭巾の少女の大声が聞こえた。
商会の方からだった。
「――えー! なんかよくわからないのですが! も、貰って良いのですか!? お家が駄目になって、死のうかなとか考えてたのに、こ、こんな幸運が……っ! どこのあしながおじさんか分からないのですが、ありがとうなのです! 日頃から真面目に生きてきたおかげですかねぇ~!」
お宝は全額で280万ドゥ程という事だったから、その半分となると140万ドゥになる。普通に生きる人からすれば大金であろう。
黒頭巾の少女も驚いて当たり前だ。
身元不明の人間がいきなり結構なお金をプレゼントしてくれた形になるからね……。
まぁ、喜んでくれたようでなによりである。
なにはともあれ、次の街に行くとしようか。




