表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

62/114

第061話目―移動式迷宮 攻略⑤―

今回はまさかの人物が登場。ヾ(*'∀`*)ノ

※※※※


「ふむ。何がしたいのかね?」


 懸念が当たってしまった。

 悪い方向での懸念が当たってしまった。


「このような玩具で私と対峙しよう等とは……私を笑わせたいのかね?」


 迷宮の主は、人差し指と中指で僕の向けた切っ先を挟む、いとも簡単に槍を奪い取り、ぐしゃぐしゃと紙を丸めるように握り潰した。

 そして、僕に見せてきた。

 小石のような大きさになってしまった槍を。


 せっかく買ったのに、またすぐに失ってしまうことになるとは……。

 運が無さ過ぎるだろう、僕も。


「さて、武器が無くなったが、どうする青年」

「どうすると言われましてもね……」


 アティとセルマには分体を抑えて貰っている。

 僕でどうしようもなかったら、交代して貰うつもりではあったけれど……迷宮の主はあからさまなまでに強い。

 アティとセルマでも厳しいのではないかと思う。

 使いたくはないんだけど……【穿たれしは国溶の槍】を出すしかないのかも知れない。

 しかし、それを使う為の槍をたった今失ったばかりだしね……。

 以前にミーシャに使った銀粘土はもう余っていないし、どうしたものか。


「……来ないのか? では、我輩から行かせて貰おう」


 迷宮の主がゆっくりとこちらへと近づいてくる。

 この威圧感は、どことなく、以前にヴァレンと対峙した時に感じたそれにも似ていた。

 もっとも――本気でもなかったヴァレンの方が重々しく安定感があったが。

 この迷宮の主は明確にヴァレン以下ではあるのは確定だ。

 だがしかし、そうだとしても、それでもなお僕らの手に負える相手ではない強さなのもまた事実ではあった。

 僕は改めて迷宮の主を見据える。


 ……ここで終わりとかになるのかな。せっかくアティとの将来とか、そういう事とかも考えていたのに。


「――ハロルド様!」

「――御主様!」


 アティとセルマの二人がこちらの異変に気づく。

 けれど、迷宮の主の分体がいささか厄介なようで、こちらにまでは手は回らないようだ。

 アティの銃弾は全て弾き返され、セルマの糸はいかような手段なのかは分からないが、断ち切られている。

 こうなっては不用意に動くことも出来ず、僕はただ立ち尽くす他に無かった。


「力量差を解したか。まだまだ我輩には手の内があるのだが、それを披露出来ぬのは少々残念ではあるな。とはいえ、潔の良いその意気は賞賛に値する。……せめてもの情けである。一撃で逝け」


 迷宮の主の腕が伸びる。

 大きく開かれた手のひらが僕の顔に向かってくる。





 奔ったのは漆黒の紫。





 次空を捻じ曲げるそれは、僕の【穿たれしは国溶の槍】に非常に酷似していた。

 いや酷似ではなく――同質のものと言っていい。

 移動式迷宮を天井から貫き通ったそれが、迷宮の主の体を縦に二つに裂いた。

 白銀に輝く槍が地に突き刺さった。


「な、なんぞ、これは――ごふっ」


 大量の体液を流しながら、迷宮の主はやがて微塵も動かなくなる。

 そして、本体が死んだことによって、分体も消えさり、慌てた様子でアティとセルマが僕の傍に駆け寄ってきた。


「ハロルド様! ご無事で……」

「なんとかね。それより……」


 僕は移動式迷宮に突如して出来た天井の穴を見つめた。

 空が見えて、覗き込むようにこちらを窺う存在がいることに気づいた。

 黒い甲冑と顔全体を覆う兜。


「……たまたま昔馴染みの山羊人族とそこで会って、俺にしか届かない声が届くヤツがいる、と言われて探して見たは良いが」


 声を兜と鎧が反響させているせいで、くぐもったように聞こえる。

 顔は分からず、しかし、男の声だということが分かった。

 加えて、どこか懐かしさを感じさせるようなそんな声でもあった。

 黒い甲冑の男は、僕の方に顔を向けると、


「……おめぇには戦いの才能はねぇって言ったろうに。しかもロクに制御も出来ねぇくせに次力をポンポン使ったな? その片目も色を失っていると見える。ったく……まぁいい、やりてぇようにやればいい。俺の人生じゃあねぇからな。だが、そうだな……おう、その槍使っていいぞクソガキ。よっぽど荒く使わねぇ限り溶けねぇ(・・・・)特別製だ。できねぇならできねぇなりに、身にあまる力をなんとか自分のものにするこったな」


 まるで僕のことを知っているかのような口ぶりだ。

 僕は悠然と地に突き刺さる槍を見た。

 一切の変化が見られない。

 次力を纏わされたというのに溶けていない(・・・・・・)

 それだけで、かなりの業物だということが分かる。

 引っこ抜いてみると、かなり軽く、そして強固な造りであることが分かった。

 よくは分からないけど、これをくれる……らしい。


「今の方は……」

「御主様のお知り合い……でしょうか?」

「さぁ、誰だろう……」


 今一度に天井の穴を見ると、黒い甲冑の人物の姿はもう見えなくなっていた。

 怪訝に思いながら、しかし、何はともあれ迷宮の主は消えた。

 ならば、やる事があった。


「……ともかく主はどうにかなったし、当初の目的のお宝を探そうか」

「――そうでした! 早くしましょう!」

「え?」


 アティが思い出したかのように、お宝を探すことを急いだ。

 理由を尋ねてみると、移動式迷宮のお宝は、迷宮が瓦解する前に持ち運ぶか抱えるかしていないと瓦解に巻き込まれて消失してしまうらしい。

 移動式迷宮の中は外から見たよりも明らかに広い。その原因は、原理はともかくとして、空間が拡張されているからであり、瓦解はそれの崩壊も意味する。それにお宝も飲み込まれてしまうそうだ。

 だから、迷宮の主を倒してからお宝を得る場合には、時間との勝負になるそうで。


 こういうことは最初に言って欲しかったんだけれど、どうにもアティも忘れてしまっていて、今になって思い出したらしい……。

 急ごう。



※※※※



 宝物部屋は広間の奥にあった。

 中には抱えきれないほどの財宝があった。

 それらの目利きをアティにして貰い、高い品から順に持ち帰れるだけを鞄に突っ込み、「ぎぅ」とエキドナの潰れそうな声を聞きながら、僕らは慌てて迷宮からの脱出を図った。

 移動式迷宮が揺れ、壁が剥がれていく。

 僕らは全力で来た道を逆走し、出口を出す為のレンガを見つけて外に飛び出ると、そのまま離れるように距離を取った。

 振り返ると、がらがらと音を立てて移動式迷宮が崩れ落ちて行くのが見えた。

パパありがとう……ってか生きてたのね。

そして強すぎるよパパ……。

ということでパパの登場の回でした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
作者ついったー

こちら↓書籍版の一巻表紙になります。
カドカワBOOKSさまより2019年12月10日発売中です。色々と修正したり加筆も行っております。

書籍 一巻表紙
― 新着の感想 ―
察し悪すぎん?流石に
[一言] 女の子なら「パパ」の一言で振り返るはず。男に生まれた事を恨m…って、こんなハーレム形成してる時点で羨m…ファッキュー(#º言º)
[一言] すごく面白くて好きだからこそ 気になる 次元の力 って気づいてるのに、槍をくれた人への関心がなさすぎる? これは父親が認識力をさげてるのかな?神のみ技的な 忘れてるだけにしては不思議すぎ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ