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第059話目―移動式迷宮 攻略③―

ヽ(`・Д・´)ノお宝ー

※※※※


「ウム……」


 十箱分のマッチを使い切った。

 もうこれ以上はあげられない。

 対価の像は、最後の火を噛みしめるようにして食すと、


「満足」


 と言った。

 どうやら、丁度よくお腹が満たされたらしい。

 対価の像は目尻を下げ、落ち着いた表情になると大きく口を開いた。

 口中の奥には見えたのは質素な部屋だった。

 そこに小箱が一つ置いてある。


「サァ、持ッテユケ! 捧ゲシ者ヨ、貴殿ガ、今一番ニ必要トスル物ヲ、ヤロウ!」


 僕が一番必要としているものをくれるらしい。

 それが本当なら、棚からぼた餅だ。

 素直に嬉しい。

 でも、口の中に続く部屋って、見た目からして何か怖い感じがある。

 罠とか無いよね……?

 少し不安だったので、確認の意味でちらりとアティを見る。

 すると、「大丈夫です」との答えが返ってきた。

 アティがそう言うのなら、問題はないのだろう。

 あくまで見た目が怖いだけであって、何かしらの脅威があるわけでは無さそうだ。

 ならば、と僕は中に入って小箱を開けた。すると、中に入っていたのは、ツルのついた小さな円形のレンズだった。


「……片眼鏡かな、これ」


 レンズが一つのみで、ツルが左側にだけついている。

 左目専用の片眼鏡だ。

 今一番に必要としているもの――その意味が、僕には分かった。

 僕の左目は色を失っていた。

 つまり、これはそれを補完する代物であるのかも知れない。

 試しに片眼鏡を着けてみると、失っていたハズの色が戻ってきた。

 世界の彩りが戻ってきたのだ。

 どうやら、僕の推測は当たっていたらしい。


「……」


 眼鏡を外すと色が消える、

 しかし、再び着けると色彩が確かに感じ取れるようになる。

 感動だった。

 色覚の異常は奥の手の後遺症だから、使った僕が悪いのだからと割り切ろうと思っていたけれど、でも、心底から諦める事が実は中々出来ていなくて……。

 だから、これは確かに、僕が今一番に必要と思うお宝だった。


「眼鏡、ですか……?」


 きょとん、とした顔でアティが首を傾げた。

 僕の色覚異常を知っているのは、僕自身以外にはいないから、当然の反応だった。黙っていたから、他の誰も知らないのだ。

 僕が一番に必要なものとしてこれが出てきたら、疑問も抱く。


「そ、そうだね。その、ほら、僕にもお洒落な小道具が必要なんじゃないかなーとか思ってた所で……」


 取りあえず、バレないようにそう言ってお茶を濁す。

 アティがくすりと笑った。


「欲がないのですね」

「……そんな事ないよ。欲もちゃんとある。必要なものとは別に、欲しいものだってあるし」

「……欲しいもの、ですか? それは一体」

「前に言ったと思うけど、アティとの子ども」


 ウソ偽りのない本音を漏らす。

 すると、アティはいつものように頬を真っ赤に染め上げて、


「そ、それは……ハロルド様に励んで頂ければ、いずれ……」


 言われるまでもなく、それは頑張るつもりだよ。



※※※※



 迷宮を進んでいく内に、僕は、片眼鏡に色彩を取り戻す以外の機能もある事に気づいた。

 魔物を見た時、ちょうどその体の中心の辺りに見えたものがあったのだ。

 白い焔であり、それは魔物だけが持っているものでは無かった。

 アティや――果ては人形のセルマの内にもそれがあるのが見えるのだ。

 これは一体何なのだろうか?

 大きさや揺らぎ方が、それぞれで違っているのだけど、魂か何かとでも思っていれば良いのだろうか……?

 謎の機能である。

 まぁ、今はこの機能についてよりも、迷宮に専念するべきだろう。

 僕らは更に奥へ奥へと進む。



※※※※



 魔物が段々強くなってきた……と言って良いのだろうか?

 基本的に、セルマがほぼ全てを倒すようになったので、僕の出番は無くなった。

 セルマの糸は凄い。

 ほぼ一瞬で魔物を粉々にするのだ。

 ただ、そろそろ、段々にその威力に陰りが見えてきたのである。

 耐えるような魔物が出てきたのだ。


「……」


 セルマが首を傾げて、自らの指の動きを確認する。


「……糸の切れ味が悪くなったわけではないですので、どうやら、魔物が硬くなって来ているようです」

「そのようですね。そろそろ、中層クラスの魔物が出始める頃合かも知れません」


 足元を掬われないようにしましょう、とアティが注意喚起をする。

 どうやら、徐々に僕らは深部まで近づいているようだ。

 このまま、最終到達地点まで着いてしまうのだろうか?

 対価の像を経て以降、お宝にはありつけていなかったから、少しだけ残念な気持ちになった。

 一番の目当てはお宝だったからね……。

 僕が軽く息を吐くと、アティがゆっくりと眼を細めて、


「……ここまでお宝の気配が少ないとなると」

「うん?」

「もしかすると、迷宮の主の趣向かも知れません。産み落とされたお宝を回収して、自らで保管している可能性が高いです」


 移動式迷宮は、普通の迷宮とは比べ物にならないくらいに狭い。

 だからこそ出来る芸当なのだろう。

 面倒くさい事をするものだ……。

 いや、良く捉えれば、それを見つけさえすれば一気に手にお宝が入ると言う事でもあるわけだ。


「だとすると、宝物庫みたいな場所がどこかにあるのかな……」

「恐らくは」

「どこらへんにあると思う?」

「こういったケースの場合、大体が主の住処にありますね」


 つまり、この移動式迷宮においては。

 お宝が欲しければ、主を倒せと。

 そういう事らしい。

ヽ(`・Д・´)ノ子宝ー

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作者ついったー

こちら↓書籍版の一巻表紙になります。
カドカワBOOKSさまより2019年12月10日発売中です。色々と修正したり加筆も行っております。

書籍 一巻表紙
― 新着の感想 ―
[一言] 果たしてお宝は何が手に入るのやら…そして、黒頭巾の少女は絶望から復帰して性格が変わるのか………←
[良い点] いつも楽しく読ませていただいてます┏○ペコッ ハロルドとアティの子宝やりとりはすきですわ(´∇`)ケラケラ まぁ人形?の3角関係も( ´艸`) のんびり楽しみにしてまーす┏○ペコッ
[一言] お宝も子宝もゲットだぜ! 魔物にも人間にも有る白い焔が意味深ですね 力の代償の事をアティが知ったら怒るだろうな… 書籍化おめでとうございます(*´ω`*)
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