第004話目―僕の奴隷―
競売が終わったあと。
奴隷の購入者は、一人一人個別に別室まで案内された。
そこで、スタッフが来るまでのあいだ待機しているように、とのことであった。
することも特に無い中で、ただ待つというのも意外と大変だ。僕は思わず欠伸をする。と、その時、扉が開いた。
やっと来たらしい。
部屋の中に入ってきたのは、先ほど舞台の上で見たダークエルフと――見覚えのある男が一人。
「あらら、お兄さん? 見学だけって話だったのに結局参加したんだね」
男は看板を持って客引きしてたあの人だった。
まさかの再会である。
競売中には姿が見えなかったから、多分もう会えないんだろうな、と思っていたよ。
「少し気が変わったんだ。買えそうだったし」
「15万ロブで落札したんだってね。ははっ、ダークエルフが15万ロブとか普通ありえないよ。良い買い物したね、お兄さん」
普通ありえない、か。
「良い買い物、ね。本来の価値を聞いても?」
「別に構わないよ。ただ本来の価値と言ってもねえ……。安くない事は確かだけど、あんまり出てこないから相場みたいなものが無いんだ。だから、その時で変わる。参考程度にだけど、私が知っている限りの最新のもので、海を越えた先にある西大陸のコルツェル連合王国で10年前に売りに出された5億ドゥがある。ロブに換算すると10億ちょっとだね」
金額を聞いて僕は噴き出す。
おかしい数字が出てきたからだ。
エルフの二倍とか。
「私の知らないうちに為替レートが大幅に変わってなきゃ、ではあるけども。まあコルツェルで戦争があったとか体制が変わったとか言う大きな動きも聞かないから、そう変わってないとは思うけどね……って、お兄さん何を噴き出してるの?」
「い、いや金額が」
「だから良い買い物したねって言ったじゃん」
「……取引中止とか言い出さないよね?」
僕は思わずそんなことを聞いてしまった。
実売価格との差が激しすぎたのだ。
その金額じゃやっぱり売れないよ、とか言い出されてもおかしくない。
だから、急に不安になってくる。
「この商売は信用が大事なんだ。『あそこは何かにつけてケチをつけて取引の成立した商品を出さない』、なんて言われるようになったら終わりだよ。今回は我々の読みが大はずれ、お兄さんは大儲け、それだけさ。こういう事もあるから商売ってのは面白いんだ。それに――他のが結構良い値で売れたようだからね。粗利はちゃんと出てると思うよ」
大丈夫なようだ。
少しほっとした。
「じゃあ支払いに移ろうか」
「分かった」
僕は手早く15万ロブを差し出した。
もとより全て使い切るつもりだったからか、あるいはダークエルフを格安で手に入れた高揚感からか、特に全財産を失う事に対して名残惜しさを感じない。
不思議なものである。
「ひぃふぅみぃ……。よし、きちんと15万ロブある」
お金を数え終わると、男はどこからか真っ白な首輪を取り出した。
何それ?
「ところでお兄さん、ちょいと血を貰いたい」
「血?」
「この首輪に垂らして欲しい」
「なぜ?」
「この首輪に主人はお兄さんだと刻む為さ。この首輪は隷属の首輪と言って、これをつけられた者が首輪に主人として刻まれた人物の命を狙おうとした場合、深い針が飛び出すようになっている」
「それってつまり……もしも僕の命を狙おうとしたら」
「奴隷は死ぬ。ちなみに、この首輪は主人――つまりお兄さん以外は外せないようになってるよ」
怖い首輪もあったものだ。
まあでも、奴隷と主人だなんて場合によっては凄い怨まれそうだし、抑止力としては妥当と言った所かも知れない……。
僕は説明に頷きながら、首輪に血を垂らす事にした。
「針使う?」
と、男が小さい針を差し出してくれたので、僕は有難くそれを借りると指先に当てた。
ぷくっと浮かび上がった血玉を首輪に垂らす。
首輪は僅かに落ちた僕の血を吸い込むと、真っ白な色から赤黒い真朱色へと変わる。
「よし、これで取引は終わりだ。そうそう、首輪はお兄さんが自分でつけてね」
「え?」
「主人の最初の仕事だよ。それとも他人が自分の奴隷に首輪つけても良いの? まあゲン担ぎ見たいなものだよ」
「わ、分かった」
急かされるようにして、僕はダークエルフの少女と向かい合う。
「……」
ダークエルフの少女は何も喋らない。
ただ、その深い森のような翡翠色の瞳で、ジッと僕の目を見つめて来た。
嫌がってるようでもなく、怖がっているようでもなく、まるで観察でもしているかのようだ。
「この首輪をつけた瞬間から、君の主人は僕だ」
まあでも、この子がどう思っていようが関係無い。
この子はもう僕のものだ。
僕の奴隷なのだ。
「……はい、よろしくお願いします」
ダークエルフの少女がそう返事をすると同時に、その細く柔らかい首に、僕は主従を決定付ける隷属の首輪をカチリとはめた。
どれい を げっと した!