第043話目―今回の結末は―
今回は説明回っぽくなります。すみません。文章やストーリーに関してですが、いずれ、色々と見直して補足や修正をして行きたいです。
※※※※
なぜ人魚が猫になるのか。
人の姿を取った時と同じような要領で、
それで猫の姿にでもなっているのだろうか?
「……いいえ、それは違うわ。人魚の特性でなれるものは、あくまで人間の姿だけ。猫になんてなれない。もちろん魔術でも無いわよ」
「じゃあなんで……」
その返答に、当然に僕は戸惑った。
すると、アンナネルラがぽつりぽつりと全ての事情を話し始めた。
その話は、とある猫と人魚が出会った所から始まった。
人目に隠れたあの場所で出会った二人。
アンナネルラとショバンニ。
たまたま島をうろついていた猫と、
何の気になしに海面に顔を出していた人魚。
それが初めての出会い。
最初の頃、人魚は猫を警戒をしていた。
自分は魔物だし、不用意に近づけば誰かを呼ばれるかも知れない。
あるいは戦いになるのかも知れない。
けれど、話をしていく内に不信感は解け、
徐々に仲を深めていったのだ。
少しお馬鹿だけれど、明るくて優しい猫のショバンニ。
魚をあげるだけで喜ぶ猫のショバンニ。
接しているだけで、心を豊かにしてくれる猫のショバンニ。
そんな彼に、気づけば人魚であるアンナネルラは思慕の情を寄せた。
しかし、想いを寄せると同時に――アンナネルラはある事にも気づいた。
隔った種族の壁は越えられない、と。
一方は魔物で人魚。
一方は猫の賢獣。
そんな二人の距離が、今以上に近づく事は無い。
それは誰の目から見ても明らかな差であって、熱に浮かれたアンナネルラにだって、それぐらいは考えずとも理解出来ていた。
そしてある時、魔物の大行進の予兆を感じた。
――大勢の魔物がこちらに来るかも知れない。
――私の大事なショバンニが危ない。
アンナネルラは、例え一緒にはなれなくても、ショバンニを守りたいと思ったらしい。
だから彼女は、打開策を求めて近海を彷徨った。
たった一人でも、出来る事があるに違い無い、と。
しかし、たゆたう海面のように、流れてはあざ笑う現実と言う波。
そんな折に、ふと、あの海底城を見つけた。
その入り口に見えたのは、あの動く鎧人形である。
――そこに何かがあるから、動く鎧人形を置いているに違い無い。
アンナネルラはそれを察すると、動く鎧人形を煙に巻き、中に忍び込んだらしい。
そして、あの杖を見つけたのである。
魔術に幾らかの造詣があるアンナネルラには、それが一体どういう効果を秘めているものなのか、一目で分かったそうだ。
あの杖には、非常に強固な魔物避けの結界が埋め込まれている、と。
あれがあれば――。
アンナネルラの手が伸びて、その時に現れたのがあの老人だった。
僕らと相対した時と同じように、老人はアンナネルラにも攻撃を加えてきた。
攻撃手段に乏しいアンナネルラは、不利を感じて一時退散を決断する。
それから、その途中に――あの宝物庫のような場所に隠れた時に、僕らと居た時に飲み込んだ玉の存在を発見したらしい。
それは――種族を変える事の出来る秘法。
一度死を経る必要があるが、新たに望む種族になれる秘法。
この世界に二つとない、非常に稀有なもの。
迷宮の深部ですら、見つかる事はまずありえない。
一体なぜそんなものがここにあるのか、それは分からない。
ただ、とにかくそういう秘法だ。
だが、アンナネルラはそれを見つけつつも、逃げる事に手一杯で、拾う事無くその場を去ってしまった。
売れば値万金だったのかも知れないが、
魔物であるアンナネルラに金銭的な価値は分からないし、
ショバンニへの土産物にするにしても、
魔物の大行進が起きてしまえば金になど何の意味も無い。
しかし――城から脱出して少し経ってから、アンナネルラはその秘法の可能性に思い当たった。
あれがあれば、自らも猫になれる。
ショバンニとの間にある種族の壁が取り払われると。
杖を使い、結界を張る時の危険性には、実は気づいていた。
その杖は無くなり、同時に恐らくは自らは死ぬ。
だけれど、あれを手に入れてさえいれば、魔物の大行進を止めた上で、自らがショバンニの傍に寄り添える存在へとなれる。
勿論、これらが全て上手く行く保障はどこにも無い。
ただ、そこに可能性があるのならば、それに賭けたい気持ちになるのが心と言うもので。
もっとも、思い描いた全てを進めるには、戦う力が必要だった。
自らの存在に気づいた以上、あの杖の傍から老人が離れる事は無いだろう。
つまり、戦わなければならない。
対峙しなければならない。
当然、やられてしまえば全てが駄目になる。
ショバンニを守る事が出来ないし、自らが猫になる事も叶わない。
あるいは、杖より先に秘法を先に手にしたならば、殺されたとて猫になれる。
けれどそれは、今より更に戦う力が無くなる事を指していた。
それでは、ショバンニもこの場所も守る事が出来ない。
魔物の大行進も止められない。
猫になった途端にもう一度殺され、全てが失敗だ。
つまり、最終的に帰結する答えは杖の優先だった。
とは言え、秘法もどうにかして手に入れたい。
そんな思いもあって。
せめて、戦う力を持つ他が居るのであれば……。
そう願いはしたものの、そんな都合の良い存在はそうそう現れるものでは無い。
いよいよとなってきて、アンナネルラは一人で戦う覚悟を決めた。
秘法まで手が回るかは分からない。
状況次第ではあるものの、限りなく絶望的。
そして、そんな時に僕とアティが現れた。
僕らの参戦は、アンナネルラにとって僥倖だった。
当初は微妙に半信半疑ではあったものの、入り口の動く鎧人形を撃破出来た所で、確信する事が出来たそうだ。
事を上手く進められる可能性が、ぐっと高くなったのだ、と。
「――そこから先は、もう言わなくても分かるわよね。
誘導するようで悪いのだけれど、最初にわざと宝物庫に向かうような足取りで城内を進んでた。
……あなた達が強いのがすぐに分かったから、なんとかなると思って、先に秘法飲んじゃう事にしたのよ。
だって早めに手に入れないと、何かの拍子に無くならないとも限らないし。
後で飲む事にして持ち歩いても良かったんだけど、途中で落としたりしても嫌だなって思わないでもなくて」
説明をしきって、アンナネルラは「にゃん」と鳴いた。
鳴き声はどうでも良いとして、これが、アンナネルラが後で言うといった事情の顛末だったようだ。
こういう背景があったとは、思いもよらなかった。
中々に想定外……。
僕はなんとも言えない表情になり、しかし、その一方でアティの眼がきらきらとしていた。
「素晴らしい事だと思います。異種族であっても、心惹かれてしまえば、そこに愛が芽生えるものですから」
そういうものなのかな?
ああいや、まあでも……考えても見れば、僕とアティも似たような感じかも知れない。
人間とダークエルフなのだから。
とは言え、体の違いなんて耳だけだし、猫と人魚ほどは離れてない。
似たようなって言うのも、やっぱり何か違うかな……。
「お、俺も今の話で色々と初めて知る事が多かったにゃ。び、びっくりしたにゃ……」
ショバンニが目を丸くして、尻尾をゆらゆら動かす。
現状の全てに戸惑っているような、そんな様子が見て取れる。
その態度でなんとなく分かった。
恐らく、彼が元々知っていた裏事情はほとんど無く、僕らと大差が無い。
思い返せば、魔物の大行進の話を聞いた時点で驚いてたしね。
……ちなみにこれは余談だけれど、僕の奥の手を目撃しつつも、アンナネルラがその事について何も言わなかったのは、アティが上手く誤魔化してくれたかららしい。
もっともその際に、あまり多用しない方が良い技だと思う、とは伝えられたようだ。
技の本質に気づいた、と言うワケではないと思う。
使用後の僕の状態を見る限り、誰だって危険だって事くらいは分かるだけだ。
でも、それは言われるまでも無い。
後遺症のような事情もあるし、頻繁に使うつもりは僕にない。
「……本当にありがとう。お二人さん」
僕らに深々と頭を下げると、
アンナネルラは無理やりにショバンニと腕を組んだ。
「にゃにゃにゃ! なんにゃ!?」
「行きましょう、ショバンニ」
「待つにゃ! ま、まだ色々と状況に対する心の整理がついてないにゃ!」
「……私の事嫌いなの?」
「……にゃあ。その言い方はズルいにゃ。嫌いじゃないにゃ」
「じゃあ好きって事でしょう」
何か良く分からない。
けれど、幸せそうな感じで二人が退室して行った。
はてさて、今回の件はこれで全てが終わったようだ。
ところで。
入り口の扉の脇に、いつの間にか置かれていた鞄がある。
――アンナネルラを助けてくれて、ありがとうにゃ。
そう書かれた文と、幾らかのお金と、高そうな魚の干物が入った鞄。
僕らがそれを発見出来たのは、少し後の事だった。
幸せそうな二人の雰囲気に、実は少しだけ当てられてしまって。
アティと幾度も口付けを交わして、愛し合って、その後に見つける事が出来たのである。
今回はなんとか幸せに終われた気がします。




