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第041話目―二度目―

※※※※



 入り口で使ったような、魔術の付与による撃破は望めない。

 鎧人形一体だけが相手ならば、後は目的を果たして帰るだけなのだから、その手も考慮する。

 けれども、この状況下では気がかりな事があった。

 それはあの老人である。

 魔術付与の一撃には、準備に時間が掛かる。

 僕が鎧人形を抑えたとしても、準備をしている間に、あの老人に横槍を入れられたら失敗に終わってしまう。


 先に老人をアティに殺って貰って、と言う手もあるけど……、でも、それは僕が言うまでもなく、既にアティが試してくれていた。

 ただ、結果は芳しくは無く。


「ふんっ、小癪な。その手の攻撃への対策など持っておるわい!」

「……どうにも厄介な魔術を使うようですね」


 見事に銃弾は弾かれていた。

 あの老人はどうにも魔術が得意なようで、障壁のようなものを張り続けているらしい。

 しかもそれに加えて、火球のような魔術も行使している。

 アティは上手くそれを避けていた。


「――しかし、硬いのばっかりだなあ、最近の相手」

「――ギギッ……」


 動く鎧人形に一撃を加える度に、掌から腕にかけて痺れが伝わる。

 まるで石か岩に攻撃しているみたいだった。

 しかも、生物では無いからか、その動きは非常に不自然で不規則。

 それでも上手くやれているのは、僕が昔に近づいているお陰だろう。


 ……ただ、それだけでどうにかなる相手とも言えず。

 こいつらを倒し切るには、形勢をひっくり返せる一手が必要だった。

 自由に動けそうなアンナネルラに、何かしら動いて欲しい感じはある。

 しかし、元から「得意では無い」と言っていただけあって、彼女には戦闘能力が見込めない。


 事実――アンナネルラは、この状況を傍観しているだけ。


 出発前に、命に賭けてもみたいな事を言っていたようだけど、正直これではすぐにやられてしまっていたとしか思えない。

 だからこそ、命賭けのつもりだったのだろうけど……。


「かかかっ、よう粘るのう。なるほど、ようし、ならばこれでどうじゃ……」


 老人は、裾の下から指揮棒のような物を取り出すと、ひょいと一振りした。

 すると、僕と攻防を繰り広げていた動く鎧人形が後ろに下がった。


「うん?」


 一体何だろう。

 僕が怪訝に眉を潜めると、辺りに落ちている朽ちて崩れていた壁岩や煉瓦が、動く鎧人形の体に吸収されて行き――瞬く間に巨大になった。

 先ほどと比べて、ゆうに五倍はある大きさ。

 ここが天井が高く面積も広い大広間で無ければ、部屋が壊れている事だろう。


「えぇ……」

「これは……」

「かかかっ、ほれ、ワシを安全な所まで乗せぬか」


 老人が命令を下すと、動く鎧人形は片手で彼を掬い、自らの肩に乗せた。

 そして――ズシン。

 質量の濃さを物語る足音を立てて、こちらと向かってくる。

 巨大化する際についでに造ったらしい、石の大剣を片手に握ってもいる。

 これはちょっと、普通に戦うには厳し過ぎる……。


「……ところで貴様ら、この杖を狙って来たのだろう? おこがましいにも程がある。ワシですら触れる事が恐れ多い王の杖なるぞっ」


 老人が、玉座に刺さる杖を指して言い――、


「――っ、魔物の大行進(スタンピード)が起こりそうなのよ! その杖があれば、どうにかなるのだから、使うぐらい構わないじゃない!」


 今のいままで傍観していたアンナネルラが叫ぶ。

 それは、真に迫る言葉に聞こえた。

 隠し事はあれど、当初の目的に偽りは無い事が見て取れる物言いだ。

 思わず槍を握る手に力が篭る。

 しかし、そんな僕らを見て、老人がせせら笑う。


「かかっ、魔物の大行進(スタンピード)とな? ハッ、確かにそんな気配もするのう。……じゃが、それがどうした? ワシにはこの杖を祀る恩義がある。この城を見守る愛がある。魔物なぞいくら押し寄せようが、この城と杖だけは守り抜こうぞ。ゆえにそのような事情、王の杖に触れて良い理由になどならぬわっ!」


 老人には老人なりの理屈があるらしい。

 その口調はとてもハッキリとしていて、決して僕らと相容れる気はないのだと、そう語っている。

 なんとも分かりやすいスタンスだ。

 こうも明確だと、悩む余地が無いので逆にやりやすい。


「……っ」


 アンナネルラは、口元をきつく結んでいた。

 駄目もとであるのは分かっていそうだけれど、心のどこかでは、耳を傾けて欲しかったのかも知れない。


 それが優しさからなのか、あるいは、安全に済ませると言う利益を求めたがゆえなのか。

 それは分からない。


 僕は、改めて巨大になった動く鎧人形を眺める。

 そして、ある事に気づいた。

 老人も動く鎧人形も、今なら一塊になっていることに。


 あまり使いたくは無い手だけれど、これを一気に打開する手立てを僕は持っている。

 巨大化してくれたお陰で、逆に良い的だ。


「アティ、倒れた僕をお願い」

「……え? 倒れるとは一体――まさかっ」

「そのまさかだね。こいつら以外には敵はいなさそうだし、使っても大丈夫……だと思う」

「や、やめてくださいっ――」


 僕はアティの制止を振り切る。

 そして、動く鎧人形の一振りを避け――投槍の構えを取った。

 使い方はあの時と同じだ。

 体中の全神経と筋肉を引き締め、それから、この世界とは別の次元(・・・・)から力を取り入れる。


 前回よりも、少しばかり高い威力が出そうな感覚がある。

 しかし、限界の威力で放てば、代償もそれ相応のものになるだろう。

 とは言え、僕に出し惜しみをするつもりは無かった。

 今の僕では、威力の是非に問わず、倒れる事に変わりは無い。

 なら、確実に滅せる威力を出すべきだと言う判断。

 

 体中の肉が裂け――所々の血管から血が噴き出す。

 脳みその中の熱が急激に増して行き、眼と耳からは血が垂れ流れ始め、激痛が襲う。

 目の前の景色が、色を失いぶれる。


「――な、なんだ、それはっ」

「――何それ……」

「――それは駄目ですっ!」


 あまねく肉体への警告に耐え、僕はこの次力(・・)を短槍に無理やり押し込めた。

 短槍は蒸気を発する程に熱を帯びると、その穂先や柄がドロリと溶け出し、落ちた液体が床を焦がす。


「――【穿たれしは国溶けの槍(アラドヴァル)】!」


 僕の放った黒紫の稲妻となった投槍は、

 辺りの空間さえも捻り溶かしながらも、

 見事に動く鎧人形の上半身と、その肩に乗る老人を溶かし尽くす。


「――っっ」


 そして、その勢いのまま突き進み、城の上側をも吹き飛ばす。

 一瞬で終わった。

 相も変わらずのデタラメな威力で、全てを溶かしつくした。

 ぽっかりと空いた城の大穴から、海水が大量に流れ込み始める。

 恐らく【穿たれしは国溶けの槍】が、城と海を隔てていた壁のようなものも、溶かしてしまったのだろう。


「ハロルド様っ!」


 アティが慌てて駆け寄ってくる。

 しかし、まだ忘れてはいけない事が一つある。


「あ、あと、こ、これだ、け……」


 失いそうになる意識をなんとか保ちつつも、

 僕は、玉座に突き刺さっている杖を手に取り――そのまま、意識を失った。

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作者ついったー

こちら↓書籍版の一巻表紙になります。
カドカワBOOKSさまより2019年12月10日発売中です。色々と修正したり加筆も行っております。

書籍 一巻表紙
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