表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

40/114

第039話目―さらば、動く鎧人形―

※※※※



 城の近くまで辿り着くと、僕とアティを包む泡が、空気に溶けて無くなって行った。

 ここは海底の中ではある。

 しかし、泡が無くなったとて、溺れる事は無い。

 ここだけ陸地のようになっているのだ。

 まるで透明な壁でもあるかのように、この城の周りには、海水が流れ込んでは来ない。

 話には聞いていたものの、不思議な場所である。


「ここから先は、私も姿を変えないと駄目ね……」


 そう言ったアンナネルラの下半身が、徐々に形を変えて行く。

 魚の尾だったそれは、一瞬のうちに人間の脚となった。

 もはや、普通の人間と何も見分けがつかない見た目だ。


「……それも魔術なんですか?」

「これは違うわ。私の種族特性みたいなものよ」


 魔術ではなく、人魚特有の能力。

 なんとも便利な特性である。


「さて……」


 ふぅと一息吐くと、アンナネルラが城の入り口を見据えた。

 そこには、ぴくりとも動く事のない鎧の人形が一体いる。

 重厚そうな鋼の節々には、返り血のような濃紅色の斑点がついている。

 それが何時についたものなのか、僕には知る由も無い。


「あの動く鎧人形(ゴーレム)、今は大人しいけれど、入り口に近づくと攻撃してくるの」

「……なるほど。だから今は置物見たいになっている、と」

「そうね。……どうせなら、遠距離から安全に倒せれば一番良いのだけれど、でも、私は純粋な攻撃用の魔術が苦手なのよね。使えない事は無いのだけれど、あれにダメージを与えられる程の火力が無いわ」


 アンナネルラが肩を竦める。

 どうやら、魔術で倒すのは無理だそうで。

 しかし、であれば、どう倒そうか?

 一番良いのは、アンナネルラの言う通りに、遠距離から狙う事ではある。

 何せ、近づかないと反応しないのだ。

 遠くから破壊出来るなら、ただの良い的だ。


「……アティ、あれ、銃で何とかなる?」


 どうかな? と言う視線を僕は送る。


動く鎧人形(ゴーレム)……。特殊弾頭を使うか、もしくは魔術を付与した一撃が放てるのであれば、撃破は可能ですが……」


 渋い答えだった。

 何かしらの細工が無いと、現状では厳しいようだ。

 こうなると、真っ向勝負かな……。

 僕が引き付けている間に、中に入って貰うのが最善だろうか。


「うーん……」


 僕は初手について悩む。

 時間が少しずつすぎて行く。

 考える事は大事だが、しかし、あまり長考し過ぎるのは良くは無いだろう。

 と、その時。


「魔術の付与であれば――まあ、出来なくもないわよ……?」


 アンナネルラが、そんな事を呟いた。



※※※※



 アティが、動く鎧人形に銃口を向ける。

 その銃身にそっと触れるのは、アンナネルラだ。


 そして――その一発は、静かに放たれた。


 発射の直後に、辺りに撒き散ったのは冷気。

 吐く息が一瞬で霜になるほどの寒気だった。

 思わず、ぶるると体が震える。


 それから。

 音を最小限にして飛んだ弾丸が、ガツッ――と動く鎧人形に当たった。

 すると、瞬く間に、氷が目標を覆い始める。

 動く鎧人形が、一瞬の間に氷像と化す。


「……中途半端では駄目だと思って、それなりに魔力を注ぎ込んで見たけれど、少しこれは予想外の威力ね。普段あんまり使わないせいで、色々と試すこともしなかった魔術だけれど、びっくりしたわ」


 アンナネルラが言う。

 それなりに魔力を注ぎ込んだ結果が、これらしい。

 なんと言うか、

 本人も驚くような効果となっているようだった。

 ただ――、


「――凄いですけれど、銃まで凍りかけています。まだ機能はしますけれど……あと数発、同じように付与して撃つのであれば、この銃は使い物にならなくなります」


 障害も大きかった。

 安物の銃、と言う事も関係はしていそうだけれど、ともかく、あまりポンポンと使えるものでは無さそうである。

 銃の耐久性。

 それなりに消費してしまう魔力。

 どちらも、軽視は出来ない要素である。


「ただ、これは良いですね。イザと言う時の切り札になります。出来れば、これもご教授願いたい所ですが……」

「別に構わないけれど、ただ、この魔術は泡と違って結構クセが強いの。扱い辛いわよ」

「それは特に問題ありません。私はダークエルフですから。得手不得手は確かにありますが、それでも魔術に対する親和性が高い方だと言う自覚があります」


 言って、アティは帽子を取った。

 人よりも少しばかり長い耳があらわとなる。

 ここはもう北東大陸では無いし、そもそもアンナネルラは魔物。

 見せても問題が無いと言う判断なのだろう。


 と言うか、ダークエルフは魔術との親和性が高いんだ。

 何気に初めて知った。

 アティが魔術を使えるのは、てっきり、個人の資質による所が大きいのかと思ってた。


「……あら」


 アンナネルラが、少し驚いた顔を見せる。

 しかし、すぐに一転して納得したように頷いた。


「……でもなるほど、それなら大丈夫そうね。それじゃ、進みながら教えましょう」

「ありがとうございます」


 何だか、どんどんアティが成長している気がする。

 まあ、良い事である。


(……それにしても、見事に凍ってるね)


 門扉まで近づくと、動く鎧人形が、すっかりと芸術品のようになっているのが見て取れた。

 当然だけど、動き出す気配は無い。

 ただ、念には念を、と言う言葉が僕の頭の隅をよぎる。


「ハロルド様、どうかされましたか?」

「……一応、壊しておこうと思って」


 氷像は槍の一撃でアッサリと粉々になった。

 凍り付けになっていたせいだろう。

 助かる事に、非常に割れやすかった。


 何だか、幸先は良さそうだ。

動く鎧人形「こんなの、あんまりだ……」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
作者ついったー

こちら↓書籍版の一巻表紙になります。
カドカワBOOKSさまより2019年12月10日発売中です。色々と修正したり加筆も行っております。

書籍 一巻表紙
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ