表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/114

第003話目―ダークエルフ、落札―

落札!


「……ダークエルフだと?」

「……誰か買うヤツ居るのかよ」

「……関わったら最後、命すらも無くなるやも知れん」


 ダークエルフの登場に参加者がざわつく。エルフの時と違って、嫌な感じの方向でのざわつき方だった。


 忌避感が滲み出ているこの様子は、しかし、実は理由がある。


 ダークエルフは関わる者の全てに不幸をもたらす存在である、と言う逸話が、北東大陸の人々の間に浸透しているのだ。

 それは、小さい子どもへの教育話の一つにも組み込まれている。

 悪い子の所にはダークエルフがやってきて、その後の人生全てを不幸にしてしまう、なんてお話である。


 伝えられている話が本当なのかはどうか、それは分からない。

 あくまでお話でしかないからだ。

 

 ただ、真偽を確かめる術は、北東大陸においてはほぼ無い。ことこの大陸においては、ダークエルフはエルフ以上に珍しいからだ。

 たぶん、帝都でも見た事がある人が一人も居ないレベルだ。

 実態が分からないまま、ダークエルフを極端に悪し様にした風説だけが一人歩きしている感は強い。

 確かめる術が無いせいで、皆がお話を基準にしてしまっているのだ。


「――十五歳のまだ若き乙女! 多少ですが魔術に心得があり、迷宮に潜った事もあるダークエルフです! 護衛や冒険の共はもちろんの事、家事も一通り出来ますし、容姿も良くスタイルも抜群! 生娘の処女である事も保障しましょう! この子の初めての夜を楽しむもまた一興!」


 司会が煽る。

 しかし、参加者の反応はどうにも乏しい。

 かなりのお金持ちが多そうなのに……。

 試しに買ってみよう、と言う気概のある人が出てくるのではないかと思ったけれど、そうでもないらしい。



 いや。

 お金持ちだからこそ、かも知れない。

 親戚や知人の評判を気にして敬遠しそうではある。


 何時でも起こりえる少しの不幸があっただけで、ダークエルフが原因とされ、そして怒りの矛先が恐らく購入者にも向けられる。

 そんなものを買ってきたせいで、と。

 もしも家が没落でもしたら、どれほど責められるか分かったものではない。


 それが事実か真実かはどうでも良いのだ。

 人は分かりやすい所に原因を捏造し、勝手に因果関係にしてしまう。


 人間関係が大変そうな上流階級は、特にそういうケースが多発しそうだ。



「――こ、この大陸では悪しき不浄の徒とも呼ばれているようですが、別の大陸では違います! ダークエルフの女性を指して幸運を運ぶ乙女と言う所もあります!」


 司会の額に油汗が出ている。

 見るからに予想外という表情だ。


 旅をしていると言ったくらいだから、この人たちが別大陸から来たのは間違いない。

 この焦りようから見るに、どうやら言葉通りに、別大陸ではダークエルフは人気のある希少な存在のようだ。

 仮に悪い風説が立ったとしても、それが売値に何ら影響を与えないだろう、と彼らが考える程度には。

 トリに出してきた所からも、それが察せられる。


 でも、ここではそれは通じなかった。

 結果はこの通りに惨敗。


「――ええい、出血大サービス! このダークエルフ! 十五万ロブからのスタートだ!」


 かなり低いスタート値だ。

 低い値から出して、そこから盛りあがって値が上がる可能性に掛けたようである。

 出品を取り下げるか何かして、別の場所で開催する競売に持ち越す方法もあるだろうに、それはしないらしい。

 奴隷”競売”を生業にしている彼らなりのプライドなのかも知れない。


「――だ、誰もおられない!?」


 主催者の意に反し、やはり誰も手をあげないし声も出さない。

 興味を持ってそうな人も居るけれど、どこか渋い顔をして踏み出せない感じだ。

 お金の問題ではなくて、手に入れて大丈夫なのか、と言う戸惑いゆえだろう。


 それにしても、15万ロブ、ね。

 僕の今の手持ちの全財産とぴったり一緒だ。

 案外買えてしまったりして。


 最初は見学だけと思っていたけれど、ここに来て僕の心境が変わり始める。

 面白半分で参加してみようと思ったのだ。

 幸いな事に、僕はそこまでダークエルフに忌避感を持っていない。お話を基準に物事を考えるほど、純粋でもなかった。


 と言うか、そもそも、ダークエルフが居なくても家が燃える程度に運が悪い。仮に本当に不幸が降り注ぐとしても、今までと大した違いはない。


 それに、司会の言う事が正しければ、むしろ逆に幸運を持って来てくれる可能性すらあるし。



「15万」


 手をあげて金額を告げる。

 すると、周りの視線が一瞬で僕に集まる。

 どんな好事家だ? とでも思ったのだろうか。


「――15万ロブ、15万ロブ! ほ、他にはおられませんか!? この機会を逃すともう一生目にする事は叶いませんよ!」


 司会が一生懸命にダークエルフを売り込む。

 手を挙げようとしては引っ込めてを繰り返す人や、眉間に皺を寄せて悩んでいる人は居る。

 だが、誰も明確に参加を表明はしない。


 僕に釣られて、意を決して一人くらいは参加してくるんじゃないかと思っていたけど、この様子だと下手したら落札出来てしまうかも知れない。


 いや、下手したらって言うか、実際そのまま落札出来てしまった。


「――だ、だだ、誰もおられないようなので、15万ロブ、15万ロブでの落札となります!」


 

 今日と言う日。

 僕はダークエルフの奴隷を手に入れてしまった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
作者ついったー

こちら↓書籍版の一巻表紙になります。
カドカワBOOKSさまより2019年12月10日発売中です。色々と修正したり加筆も行っております。

書籍 一巻表紙
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ