第027話目―なぞの卵―
前回のあらすじ→雨が降ってきた。
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どしゃ降りなせいで、
急ぎたかったのもあるのだろうけど、
セシルが堂々と入り口から入ろうとしたので、
――入り口からの正面突破はやめよう。
と、僕はそう言ってなだめた。
馬車の中で世間話をしていた時は気づかなかったけど、
いきなりの不意打ちといい、
セシルはどうにも考えが一辺倒な子のようだ。
まあでもそんなセシルだけど。
ひとまずは「分かった」と言ってくれたので、
なんとか正面突破は回避出来ていた。
びしょ濡れになりながら、僕らは異人館の周りをうろつく。
すると、たまたま鍵の掛かっていなかった窓を見つけた。
これは丁度良いと、僕らはそこから中に侵入を果たして――今現在、樽の中に入っていた。
入ってすぐの通路に、空の樽が幾つも置いてあったからである。
その中に入って様子を伺おう、と言う寸法だ。
「……ねぇ、こんな面倒くさい事する必要あるの?」
「無理に争う必要は無いでしょ」
「全員切れば解決すると思うんだけどな。人攫いなんてロクな連中じゃないんだし、切っても大丈夫だと思うんだけどなぁ」
隣の樽の中に居るセシルから文句が飛んでくる。
物騒過ぎる。
下手に乱闘騒ぎにするより、
ひっそりと回収してこっそりと帰った方が良いだろうに。
「でも……無理に争う必要は無い、か。ヴァレンお爺ちゃんも良くそんな事言うんだけど、私には良く分からないや」
分からない、か。
この様子だと好々爺も大変そうだ。
安心してボケてなどいられないだろう。
さてともかく、僕らは樽の中でジッと待つ事にした。
その間。
ゴロツキが幾人か廊下を通り過ぎて行く。
「あのガキどうするつもりだ?」
「あいつは街で俺らの商品を盗もうとした。報いは受けさせなきゃならねぇ。ボスに差し出すつもりだ」
「……なるほど。ボスは小さい男の子が大好きだからなあ。半分人間辞めてるし、おっかねぇ」
「ははっ、泣き叫ぶ声が響くのが今から楽しみだ」
「良い趣味してるねぇ。ところで、いつごろ持ってくんだ?」
「もう持ってく。何事も鮮度が大事だ。……ボス、寝室に居るよな?」
「居ると思うぜ。今日は特に用事ないようだし、雨も降ってきたしな」
「なら良い。さっさと持ってく」
どうやらマディは、ゴロツキどもの持ち物に手を出したせいで、攫われてしまったようだ。
そしてその報いを受けさせる為に、これからゴロツキどものボスに献上される予定でもあるらしい。
果たしてそこで何が行われるのだろうか?
僕には理解が及ばない。
ただ、半分人間を辞めているという比喩から察するに、
ボスはおよそ人としての心を持ち合わせてはいない人物のようだ。
早めに見つけてあげたい所である。
(あの子、何かやらかす気はしてたけどさ……)
僕は心の中で軽く息を吐く。
すると、ゴロツキの一人が、不意に僕の入っている樽を不審がった。
「……ん?」
「どうした?」
「いや……」
まあ、原因はなんとなく分かる。
樽の隙間から槍が突き出てるからだ。
入りきらなかったんだ。
今まで廊下を通ったゴロツキは、インテリアと勘違いしてくれたけど、不審がる者がとうとう出て来てしまった。
どうしよう。
「誰の槍だよ。ちゃんとしまっておけってんだよ」
「触るな触るな。勝手に動かしたのが悪いとか言われるぞ」
「……そいつもそうだな」
なんとも運が良い。
不審がった上でスルーしてくれるとは。
ゴロツキが居なくなった辺りで、
セシルの入った樽がもぞもぞ動いた。
「……槍がぴょこんと出てるのって、明らかにおかしいと思うんだけど、もしかしてお兄さんって結構抜けている?」
セシルが溌剌として素直な性格なのは分かる。
ただ、どうにも忖度すると言う事を知らないようだ。
少し釘を刺して置いた方が良いかも知れない。
あまり揉めたくは無いので、なるべく優しく。
「そういう風に言われると、凄く傷つくな。セシルが素直なのは良いんだけど、他人の気持ちと言うものを少しは考えようよ」
「要するに自分でも結構ヤバイなって自覚はあったと」
図星をつかないで欲しいと言う、
そんな僕の気持ちは伝わらなかったようだ。
※※※※
館内のゴロツキの目をやり過ごしながら。
僕らはマディを探した。
しかし、未だに見つけられず……。
僕らの気持ちにも、焦りが増していく。
そんな折の事だった。
ふと入った部屋の中に、不思議なものを見つけた。
宝物庫のようなその部屋の中に、一際大事そうに布に包まれている、こぶし大の丸いものを見つけたのである。
何だろうか、これは。
「卵……、かな?」
セシルが呟く。
言われてみると、確かに何かの卵に見えなくも無い。
僕はつんつんと突いて見た。
すると、びくんっと一瞬動いた。
「ね、ねぇ……。何か動かなかったか?」
「動いたね」
どうやら、セシルの言う通りに何かの卵のようだ。




