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第027話目―なぞの卵―

前回のあらすじ→雨が降ってきた。

※※※※



 どしゃ降りなせいで、

 急ぎたかったのもあるのだろうけど、

 セシルが堂々と入り口から入ろうとしたので、


 ――入り口からの正面突破はやめよう。


 と、僕はそう言ってなだめた。


 馬車の中で世間話をしていた時は気づかなかったけど、

 いきなりの不意打ちといい、

 セシルはどうにも考えが一辺倒な子のようだ。


 まあでもそんなセシルだけど。

 ひとまずは「分かった」と言ってくれたので、

 なんとか正面突破は回避出来ていた。


 びしょ濡れになりながら、僕らは異人館の周りをうろつく。

 すると、たまたま鍵の掛かっていなかった窓を見つけた。

 これは丁度良いと、僕らはそこから中に侵入を果たして――今現在、樽の中に入っていた。

 入ってすぐの通路に、空の樽が幾つも置いてあったからである。

 その中に入って様子を伺おう、と言う寸法だ。


「……ねぇ、こんな面倒くさい事する必要あるの?」

「無理に争う必要は無いでしょ」

「全員切れば解決すると思うんだけどな。人攫いなんてロクな連中じゃないんだし、切っても大丈夫だと思うんだけどなぁ」


 隣の樽の中に居るセシルから文句が飛んでくる。

 物騒過ぎる。

 下手に乱闘騒ぎにするより、

 ひっそりと回収してこっそりと帰った方が良いだろうに。


「でも……無理に争う必要は無い、か。ヴァレンお爺ちゃんも良くそんな事言うんだけど、私には良く分からないや」


 分からない、か。

 この様子だと好々爺も大変そうだ。

 安心してボケてなどいられないだろう。



 さてともかく、僕らは樽の中でジッと待つ事にした。

 その間。

 ゴロツキが幾人か廊下を通り過ぎて行く。


「あのガキどうするつもりだ?」

「あいつは街で俺らの商品を盗もうとした。報いは受けさせなきゃならねぇ。ボスに差し出すつもりだ」

「……なるほど。ボスは小さい男の子が大好きだからなあ。半分人間辞めてるし、おっかねぇ」

「ははっ、泣き叫ぶ声が響くのが今から楽しみだ」

「良い趣味してるねぇ。ところで、いつごろ持ってくんだ?」

「もう持ってく。何事も鮮度が大事だ。……ボス、寝室に居るよな?」

「居ると思うぜ。今日は特に用事ないようだし、雨も降ってきたしな」

「なら良い。さっさと持ってく」



 どうやらマディは、ゴロツキどもの持ち物に手を出したせいで、攫われてしまったようだ。

 そしてその報いを受けさせる為に、これからゴロツキどものボスに献上される予定でもあるらしい。

 果たしてそこで何が行われるのだろうか?

 僕には理解が及ばない。

 ただ、半分人間を辞めているという比喩から察するに、

 ボスはおよそ人としての心を持ち合わせてはいない人物のようだ。

 早めに見つけてあげたい所である。


(あの子、何かやらかす気はしてたけどさ……)


 僕は心の中で軽く息を吐く。

 すると、ゴロツキの一人が、不意に僕の入っている樽を不審がった。


「……ん?」

「どうした?」

「いや……」


 まあ、原因はなんとなく分かる。

 樽の隙間から槍が突き出てるからだ。

 入りきらなかったんだ。

 今まで廊下を通ったゴロツキは、インテリアと勘違いしてくれたけど、不審がる者がとうとう出て来てしまった。

 どうしよう。


「誰の槍だよ。ちゃんとしまっておけってんだよ」

「触るな触るな。勝手に動かしたのが悪いとか言われるぞ」

「……そいつもそうだな」


 なんとも運が良い。

 不審がった上でスルーしてくれるとは。


 ゴロツキが居なくなった辺りで、

 セシルの入った樽がもぞもぞ動いた。


「……槍がぴょこんと出てるのって、明らかにおかしいと思うんだけど、もしかしてお兄さんって結構抜けている?」


 セシルが溌剌として素直な性格なのは分かる。

 ただ、どうにも忖度すると言う事を知らないようだ。

 少し釘を刺して置いた方が良いかも知れない。

 あまり揉めたくは無いので、なるべく優しく。


「そういう風に言われると、凄く傷つくな。セシルが素直なのは良いんだけど、他人の気持ち(・・・)と言うものを少しは考えようよ」

「要するに自分でも結構ヤバイなって自覚はあったと」


 図星をつかないで欲しいと言う、

 そんな僕の気持ちは伝わらなかったようだ。



※※※※



 館内のゴロツキの目をやり過ごしながら。

 僕らはマディを探した。

 しかし、未だに見つけられず……。

 僕らの気持ちにも、焦りが増していく。


 そんな折の事だった。


 ふと入った部屋の中に、不思議なものを見つけた。

 宝物庫のようなその部屋の中に、一際大事そうに布に包まれている、こぶし大の丸いものを見つけたのである。

 何だろうか、これは。

 

「卵……、かな?」


 セシルが呟く。

 言われてみると、確かに何かの卵に見えなくも無い。

 僕はつんつんと突いて見た。

 すると、びくんっと一瞬動いた。


「ね、ねぇ……。何か動かなかったか?」

「動いたね」


 どうやら、セシルの言う通りに何かの卵のようだ。

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作者ついったー

こちら↓書籍版の一巻表紙になります。
カドカワBOOKSさまより2019年12月10日発売中です。色々と修正したり加筆も行っております。

書籍 一巻表紙
― 新着の感想 ―
[気になる点] 無理に争う必要はないでしょ 下手に乱闘騒ぎにするより、 ひっそりと回収してこっそりと帰った方が良いだろうに。 ↑ じゃあ次はそいつらにアティが拐われれば良い。 アティは強いから大…
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