表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

27/114

第026話目―異人館―

前回のあらすじ→ごろつき が こども を さらった。

※※※※



 子どもが――マディが攫われている。

 その現状に、先に動いたのはセシルだった。


「――助けなきゃ! 見過ごせない!」


 セシルにとっては、見知らぬ子どものハズだ。

 しかし、駆け出すその脚に迷いは見られなかった。

 どうやら彼女は義憤に駆られるタイプのようだ。


 一方で僕は一瞬迷った。

 けれど、やはり見なかった事には出来ず、気がつけば同じように走り出していた。


 攫われた子――マディとは、以前に少しでも関わった事があるせいかも知れない。

 自分の事ながら、どうにも難儀な性格な気がする。


「……手伝ってくれるの?」

「一応ね」

「優しそうな印象通りの性格をしてるんだね。……それに腕もそこそこ立つようだし、良い男じゃんね」


 くっくとセシルが笑う。

 微妙に小馬鹿にされた気がする。

 でも、今はそんな事を気にしている場合でもない。


 僕らは走る。

 そして――あと少しで追いつけそうと言う所で。

 ゴロツキは近くに停まっていた小舟に乗り込むと、急いで舟を進ませた。


「くそっ、あと少しだったのに……」


 思わず僕は舌打ちをした。

 これでは追えない。

 段々と舟が遠ざかっていくのを眺めて、内心に苛立ちが募り始める。 

 何十分にも感じる数秒間を過ごした後。

 おもむろに、セシルがこの状況の打破する手立てを見つけてきた。

 ゴロツキが乗っているのと似た小舟を、少し先の場所に幾つか見つけたのである。

 勢い良くセシルはそれに飛び乗った。


「乗って!」


 確かにこれなら追える。

 ただ……緊急事態とは言えそれは他人の舟だ。


「それ人の舟だよね? 勝手に乗って良いの?」

「壊れでもしたら私が弁償するから、大丈夫!」


 もしも問題が起きたらセシルが何とかしてくれるらしい。



※※※※



 しばらく舟を漕ぐ。

 すると、ゴロツキの舟が、岩石海岸の小さな入り江の中に入って行くのが見えた。

 僕らは近くの岩に舟を停め、隠れつつ様子を伺う事にした。

 彼らも警戒をしているのか……しきりに辺りを見回している。


「にしても、明らかにおかしいヤツだけど、海賊か何かの一員……かな?」

「それは僕には分からないよ。ただ、隠れ家っぽいし、一人二人じゃない数がいそうだ」


 セシルとそんな会話を挟んでいると、ゴロツキ達が木々の間に消えて行った。

 今が機会(チャンス)だろう。

 僕らも舟を入り江に停めなおす。


「……まあ、何だって良いわ! さぁ、ギッタンギッタンにしてやろうじゃない!」

「安心安全で行こう。何が出てくるか分からないんだから」

「大丈夫よ! 私は強い! お兄さんもそこそこ強い! 負けるわけないんだから!」


 その自信はどこから出てくるのだろうか?

 まあ、僕より強いのは事実だろうけどさ。

 そんなことを考えながら、帰る時に舟が無い、なんてなったら大変だからと僕は船を係留する。

 まあ、イザとなったらゴロツキの舟使っても良いんだけど……でも、出来れば今乗ってる舟で帰りたい。

 人の舟だからね……。

 何かあったらセシルが責任を取るとは言ってるけど、持ち主的には、そっくりそのまま帰って来て欲しいと思うだろう。


「……ん?」


 ふと、水平線上に小舟が見えた気がした。

 漁師か何かが、ここらへんを周っているのかも知れない。




※※※※




 なんと言うか、セシルはどうにも考え無しのようだ。

 あっちに行ったりこっちに行ったりと、脈絡なく動こうとしている。

 仕方が無いので、その首根っこを捕まえた。


「――ぐぇっ! お、お兄さん何するの!」

「闇雲に動いても見つからないって。ほら、あれ見て」


 僕が指差した先にあるのは、踏み倒された草木の跡だ。

 まだ乾いていない土が被さっていて、ここを誰かが通ったばかりだと言う事が分かる。


「……き、気づいてたもの」

「そっか。悪かったね」

「あ、謝らなくても良いけど……」


 下手に煽って仲違いしても嫌なので、なるべく揉めないようにしながら進む。

 がさごそと草木を掻き分けつつ、足跡を追いかけて歩く。

 突如、日の光に陰りが見えた。

 空を仰ぐと昼寝日和だった空が雲り始めている。

 そのせいか肌寒さを感じてならない。

 しかし、そんな程度のことで、今更引き返すつもりもない。


 更に進んでいくと、唐突に開けた場所へと出た。

 目の前に煉瓦作りの大きな異人館が鎮座していた。

 恐らく、この中にマディは連れ込まれたのだろう。


「ここね……」

「何かゴロツキが沢山居そうな気がする……」

「全員切れば良い――へくちっ」


 セシルがくしゃみをした。

 肌寒さが増したせいかな?

 風邪引かないと良いけど……。


「寒ぃ……」


 そう呟いて、セシルが軽く歯音を立てる。

 すると、ぽつり、ぽつりと雨が地面に落ち始めた。

 そしてそれは、次第にどしゃ降りへと変わっていき――、


 ――ががぁん! と、雷がどこかに落ちた。


 急に、目の前の異人館が不気味に見えてくる……。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
作者ついったー

こちら↓書籍版の一巻表紙になります。
カドカワBOOKSさまより2019年12月10日発売中です。色々と修正したり加筆も行っております。

書籍 一巻表紙
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ