表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

25/114

第024話目―優しく手を出して欲しい、と、優しく手を出さないようにしよう―

前回のあらすじ→ハロルドとアティの泊まる部屋が狭すぎた。

※※※※



 大浴場はそこそこの広さだった。

 泊まり客が多い事もあってか、それなりに人が居て、話し声も聞こえてくる。



「いやー、ようやく北東大陸だぁ」

「トゥワクールまであとどれぐらい掛かるかね」

「一ヶ月は掛からないさ。……前にトゥワクールに行ったのは十年以上前だが、綺麗な所だった」

「そうなのか? 俺は初めてだから楽しみだ。だが……、船降りてから変な噂を聞いたぞ? 帝国が進軍とか何とかって」

「それなあ。ドンパチでもすんのか? やめてほしいな。戦争でも起きたら入れなくなるじゃねぇか」



 トゥワクールに向かう帝国の軍についての会話も聞こえた。

 ここにまで話題が及んでいると言う事は、およそ北東大陸全土が知る所になっているのだろう。

 横耳に聞いて察するに、キナ臭さと言うものを感じているのも、僕だけでは無いようだ。


(早めに出立が出来て、本当に良かった。……近々、何があるか分からない)


 偶然の重なりではある。

 ただ、そうだとしても。

 揉め事が起きそうな前に大陸を出れるのは僥倖だった。


 僕は安堵の息を吐きつつ、適当に体を洗うと、ゆっくりと湯に浸かる。

 じんわり。

 と、疲れが抜け出していくかのような快楽に、全身の力が抜けた。


 それから僕は、部屋に戻った後に、どこで寝るかについて考える事にした。

 先ほどの一件で、アティと少し距離は詰めた。

 しかし、そのままの勢いで体を重ねるのは、まだ(・・)の段階だと思っている。


 とは言え、ベッドは一つだ。

 入り口からベッドまでの道のり、

 その隙間に入り込むようにして寝るのは容易い。

 けれど、湯に浸かって弛緩していく己の肉体が、予想以上にベッドの心地よさを求めている。


(……考えても見れば、ベッドで一緒に寝るだけなら、別に何も問題は無いじゃないか。手を出さなければ良いだけだ)


 僕はしきりに頷く。

 ベッドの魅力にはやはり勝てない。



※※※※



 すっかりと湯を堪能した後、僕は部屋に戻った。

 アティの姿は見えない。

 まだ戻って来ていないようだ。


 僕はベッドに潜り込むと、アティを待つ事にした。

 先に寝てしまえば、問題など何も起きないで済む。

 けれど、乗る船について話をする必要もあるので、今は起きていなければならなかった。



 まもなくして、ゆっくりと扉が開く音が聞こえた。

 アティが来たようだ。

 戸締りを忘れる事も無く、がちん、と鍵の掛かる様子も伺える。


「……ハロルド様。もうお休みになられてしまいましたか?」


 どこか熱っぽい声音で、アティが僕の傍に近寄ってくる。

 少しだけ僕は我慢が出来なくなった。

 だから、アティの腕を掴むと、ぐいと胸元に引き寄せる。


「ハ、ハロルド様……?」

「起きてたよ」

「はい……」


 アティからは、抵抗しようと言う動きが見られない。

 ただ、彼女は僕の奴隷だった。

 抵抗したくてもしないようにしているだけ、と言う可能性もあるだろう。

 それを考えると、これ以上先を今は求められなかった。

 今はまだ、僕に自制が効くと言うのもあるけれど。


「い、いつか来る日だと思っておりました。初めてですので、どうか思い出に残るようにお優しく……。奴隷とは言え、私も女です。だから、初めては優しくが良いのです」

「どの船に乗るか、話し合おう」

「……え?」


 西大陸に向かうに当たって、どの船に乗るかの話。

 大切な事で、元々はこの話をする為にアティを待っていたのだ。


 あと一週間くらいで、船は続々出立していく。

 まだ一週間はあるものの、早めに決めて悪い事では無い。

 なぜかアティが残念そうな顔をしているけれど、

 理由が良く分からないから、気にしない事にした。


「色々と考えたんだけど、僕はバレスティー号が良いと思う」

「え、ええと、確かあのお二方が乗ると言っていた?」

「全体的に普通の船のようだし、当初に考えていた船賃の300万ロブにもっとも近い。安すぎず、高すぎず、ちょうど良い塩梅だと思うんだ」

「……それは、そうですね。一番で無難で問題が無い選択だと思います」


 高すぎる船に乗るのは散財に繋がる。

 安すぎる船に乗って沈没されても困る。

 速度を重視して、荒れ狂う航海をされて体調を崩すのも嫌だ。

 となると、無難で普通の船が今回は一番だ。


「それじゃあ、明日にも切符を買いに行こう」

「え、えぇ……。そうですね」

「何か機嫌が悪そうだけど、どうかした?」


 アティの機嫌が少しだけ悪い気がした。

 先ほど同様、理由は分からない。

 アティは、ぷぅと頬を膨らませると、ぷいっと横を向いて寝入り始めた。


 ……まあ良い。僕も寝よう。

 ついでだから、アティを抱きしめながら。

 これぐらいは主人である僕の権利内のハズだ。


「っ……こ、ここまでするのなら、最後まで。……せ、せっかく覚悟していたのに」


 アティが何かを呟いたけれど、

 その時の僕は既に睡眠に入りかけていて、

 良く聞こえなかったのだった。

欲望を途中から無理やり意識の外に置く事により、抑え込んでいるものの、段々ハロルドの我慢にも限界が近づいている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
作者ついったー

こちら↓書籍版の一巻表紙になります。
カドカワBOOKSさまより2019年12月10日発売中です。色々と修正したり加筆も行っております。

書籍 一巻表紙
― 新着の感想 ―
[気になる点] 今の所この主人公のどこに好感や共感を持てと?? 鈍感系、難聴系主人公なくせにセクハラはするて イライラ以外の感情が持てません。 ただ、ストーリーとかは好きな感じなので主人公には 普通…
[一言] 時々難聴になったりセクハラし始めたり。主人公やばっ。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ