第023話目―二人でベッドは一つです―
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宿泊場所の発見が難航した。
中々見つからない。
人気が多いにしても、
さすがに一室くらいどこかに空きがあるだろうと、
そう思っていたんだけど……。
「部屋は全部埋まってるよ。別の場所を探しておくんなし」
――これが、一件目。
「悪いね、台帳全部埋まってるんだ」
――二件目。
「空いてる部屋はあるにはあるんだけど、今は貸せないんだ。修繕入ってて、泊められる状態じゃない。今日は無理なんだ」
――三件目。
――他エトセトラ、エトセトラ。
……と、まあこんな具合に、方々から断られてしまった。
実際に人の出入りも多いようで、
ウソ付かれてるとか、嫌がられてるワケではなくて、
純粋に部屋が埋まってしまってるようだった。
(……このままだと野宿になってしまう。それは避けたい)
気候は穏やかであり、それだけ考えるなら野営でも問題はないかも知れない。
でも、今さっき、子どものひったくり犯にしてやられかけた所だ。
それなりの現金を所持している以上は、外で一夜過ごすのは避けたい。
馬車での移動の時も、寄る村や町ではきちんと宿場に赴いていたけれど、その必要性を余計に痛感している。
しばらく宿場街を回る。
すると、一軒だけ、部屋の空きがあるという所に辿り着いた。
「――狭小部屋が一室だけ空いてる。ダブルベッドだから一応は二人まで泊まれる」
ダブルベッドは初めてだった。
今までの旅路で泊まった所はツインか、もしくは二人分の部屋を取っていたのである。
そういう部分は、きちんと分けるようにしていた。
小屋で生活していた時も、近づいて一緒に寝ると言う事はしなかった。
けれど、このまま別の場所を探しても見つかるとは思えなかった。
泊まれるなら、もう何でも良い。
僕が床で寝れば良いだけなのだから。
「分かった。料金は少し安くするが、朝食付きで、風呂は大浴場が使える。どちらも時間が決まっているから、気をつけれてくれ。……あと、本当に部屋は狭い。苦情は無しにしてくれよ」
苦情なんてとんでも無い。
僕は了承して、代金を払って部屋の鍵を受け取った。
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苦情なんてとんでも無い。
僕は数分前までそう思っていたけど……。
……今は少し気持ちが変わって、微妙に苦情を入れたくなっていた。
部屋の中に入ってみたは良いけど、思っていた以上に狭いのだ。
まず入り口からベッドまでの通路が狭い。
半身にならないと進めない。
そして、辿り着いた先の場所も、荷物置きの台とベッドで四方がギュウギュウ詰めだ。
(どうやってベッドと台をここに入れたのか、非常に気になる……。バラバラにして持ち込んで、上手く組み立てたのかな?)
まあそんな事はともかく。
これでは床に寝る、と言う事が出来ない。
いや、通路に挟まるようにすれば、まだ可能性が……。
どういう方法を取るか、
これは少し考える時間が必要そうだ。
そう言えば、大浴場があるとか言っていた。
まずはお風呂に入って考える事にしよう。
今までの宿場にも風呂はあったけれど、
ここまで感謝したくなった事は始めてかも知れない。
「疲れたし、先にお風呂入ってこようか。……そんなに汚れてはないと思うけど、知らない内に汗とか掻いてるかも知れないし」
「……はい。私もお風呂入りたいなって、思ってました。この部屋狭いようなので」
アティは少し緊張したような声音だった。
女の子だから、やっぱり匂いとかも気になるのかも知れない。
でも、気にするほどの匂いではないと思う。
僕はおもむろにアティに近づくと、その首筋に顔を近づけた。
呼吸の息が、自らに返ってくる程の距離。
「――ハ、ハロルド様」
柔らかい匂いがした。
嫌な感じは全くしない。
ほらやっぱり、別に気にする程ではない。
「あ、あの……」
顔を見なくても、戸惑うアティの様子が伝わる。
「いきなりごめんね……」
「い、いえ……」
僕がゆっくりと顔を離すと、アティがしきりに首筋を撫で始めた。
僕の口先が当たりかけた所だ。
「……お風呂、入ってきますね」
そう言うと、アティは荷物を置いてパタパタと浴場に向かって行った。
……少し、いきなりだったかも知れない。
でも、距離を少しずつでも縮めて行く予定はしていた。
だから、これぐらいはして置かないと。
「さて……」
アティの足音が聞こえなくなってから、
僕もお風呂に入る為に浴場に向かう事にした。
積極的なのか消極的なのか良くわからない男、ハロルド。




