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第023話目―二人でベッドは一つです―

※※※※



 宿泊場所の発見が難航した。

 中々見つからない。

 人気が多いにしても、

 さすがに一室くらいどこかに空きがあるだろうと、

 そう思っていたんだけど……。



「部屋は全部埋まってるよ。別の場所を探しておくんなし」


 ――これが、一件目。


「悪いね、台帳全部埋まってるんだ」


 ――二件目。


「空いてる部屋はあるにはあるんだけど、今は貸せないんだ。修繕入ってて、泊められる状態じゃない。今日は無理なんだ」


 ――三件目。


 ――他エトセトラ、エトセトラ。



 ……と、まあこんな具合に、方々から断られてしまった。

 実際に人の出入りも多いようで、

 ウソ付かれてるとか、嫌がられてるワケではなくて、

 純粋に部屋が埋まってしまってるようだった。


(……このままだと野宿になってしまう。それは避けたい)


 気候は穏やかであり、それだけ考えるなら野営でも問題はないかも知れない。

 でも、今さっき、子どものひったくり犯にしてやられかけた所だ。

 それなりの現金を所持している以上は、外で一夜過ごすのは避けたい。

 馬車での移動の時も、寄る村や町ではきちんと宿場に赴いていたけれど、その必要性を余計に痛感している。


 しばらく宿場街を回る。

 すると、一軒だけ、部屋の空きがあるという所に辿り着いた。


「――狭小部屋が一室だけ空いてる。ダブルベッドだから一応は二人まで泊まれる」


 ダブルベッドは初めてだった。

 今までの旅路で泊まった所はツインか、もしくは二人分の部屋を取っていたのである。

 そういう部分は、きちんと分けるようにしていた。

 小屋で生活していた時も、近づいて一緒に寝ると言う事はしなかった。


 けれど、このまま別の場所を探しても見つかるとは思えなかった。

 泊まれるなら、もう何でも良い。

 僕が床で寝れば良いだけなのだから。


「分かった。料金は少し安くするが、朝食付きで、風呂は大浴場が使える。どちらも時間が決まっているから、気をつけれてくれ。……あと、本当に部屋は狭い。苦情は無しにしてくれよ」


 苦情なんてとんでも無い。

 僕は了承して、代金を払って部屋の鍵を受け取った。



※※※※



 苦情なんてとんでも無い。

 僕は数分前までそう思っていたけど……。


 ……今は少し気持ちが変わって、微妙に苦情を入れたくなっていた。


 部屋の中に入ってみたは良いけど、思っていた以上に狭いのだ。

 まず入り口からベッドまでの通路が狭い。

 半身にならないと進めない。

 そして、辿り着いた先の場所も、荷物置きの台とベッドで四方がギュウギュウ詰めだ。


(どうやってベッドと台をここに入れたのか、非常に気になる……。バラバラにして持ち込んで、上手く組み立てたのかな?)


 まあそんな事はともかく。

 これでは床に寝る、と言う事が出来ない。

 いや、通路に挟まるようにすれば、まだ可能性が……。


 どういう方法を取るか、

 これは少し考える時間が必要そうだ。

 そう言えば、大浴場があるとか言っていた。

 まずはお風呂に入って考える事にしよう。


 今までの宿場にも風呂はあったけれど、

 ここまで感謝したくなった事は始めてかも知れない。


「疲れたし、先にお風呂入ってこようか。……そんなに汚れてはないと思うけど、知らない内に汗とか掻いてるかも知れないし」

「……はい。私もお風呂入りたいなって、思ってました。この部屋狭いようなので」


 アティは少し緊張したような声音だった。

 女の子だから、やっぱり匂いとかも気になるのかも知れない。

 でも、気にするほどの匂いではないと思う。

 僕はおもむろにアティに近づくと、その首筋に顔を近づけた。

 呼吸の息が、自らに返ってくる程の距離。


「――ハ、ハロルド様」


 柔らかい匂いがした。

 嫌な感じは全くしない。

 ほらやっぱり、別に気にする程ではない。

 

「あ、あの……」


 顔を見なくても、戸惑うアティの様子が伝わる。


「いきなりごめんね……」

「い、いえ……」


 僕がゆっくりと顔を離すと、アティがしきりに首筋を撫で始めた。

 僕の口先が当たりかけた所だ。


「……お風呂、入ってきますね」


 そう言うと、アティは荷物を置いてパタパタと浴場に向かって行った。


 ……少し、いきなりだったかも知れない。

 でも、距離を少しずつでも縮めて行く予定はしていた。

 だから、これぐらいはして置かないと。


「さて……」


 アティの足音が聞こえなくなってから、

 僕もお風呂に入る為に浴場に向かう事にした。

積極的なのか消極的なのか良くわからない男、ハロルド。

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作者ついったー

こちら↓書籍版の一巻表紙になります。
カドカワBOOKSさまより2019年12月10日発売中です。色々と修正したり加筆も行っております。

書籍 一巻表紙
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