表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

21/114

第020話目―ヴァレン・マイヤーズとセシル・マイヤーズ―

※※※※



 馬車が揺れる。

 がらごろ、がらごろと、車輪が鳴って。

 見慣れた街並みが遠ざかっていく。

 そのうちに、すっかりと見えなくなった。


 僕は馬車に乗る前に、親方やトゥースに挨拶をするかを迷ったけど、結局はしないままの出発を選んでいた。

 いずれ去る事は既に伝えている。

 だから、改めて伝える必要も無いだろうと思ったんだ。


 今はそれよりも――これから先に向かう所について考えたい、と言うのもあったけど。



「そう言えば、アティは西大陸に居た事があるんだよね? どんな所なの?」

「そうですね……、人と同じくらいに亜人も見かける所です」


 亜人。

 北東大陸ではあまり見ないから、少し興味はある。


「悪い場所では無いと思います。他民族、他人種が多いがゆえの衝突も多くはありますが、それでも雑多な彩りには魅力が多いです」


 衝突は少し怖いけれど、

 がやがやしている雰囲気と言うのは、

 少し楽しみだ。


「向こうについたら、色々教えてくれると助かるよ」

「はい。もともと私もそのつもりをしていましたし、何の問題もありません」

「悪いね」

「謝られる事では……。ハロルド様に必要とされる事を、私は嬉しく感じていますので」


 アティのその言葉に、僕は少し照れてしまう。


 それがアティの本音なのか分からない。

 でも、少しくらい自惚れても良いんじゃないかと思えた。

 だから僕は良い方向に受け取る事にした。




※※※※




 街から街へと移り変わっていく。

 日が暮れたら宿に止まり、翌日には馬車が再び揺れて進む。

 乗客も降りたり乗ったりで、面子が変わって行く。

 婦女、青年、中年――格好も年齢もバラバラだ。

 そしてある時、少し毛色の変わった二人組みが乗り込んできた。


 腰に剣を吊り下げた、初老の男性と赤毛の少女。

 祖父と孫だ、と言う事は見てすぐに分かったけど、

 その組み合わせでどちらも剣を持っている、と言うのは初めて見た。


 初老の男性は、いかにも好々爺と言った感じだが、

 歳に見合わぬほど屈強な体躯。

 少女の方は、細く繊細な印象を受けるものの、

 体幹の整った姿勢が特徴的だ。


 爺と孫と言う関係の他に、二人は師弟でもあるのかも知れない。

 ――等と思っていると、好々爺の視線が僕に向いた。


「……うん?」


 何やら意味ありげに自前のヒゲを撫でると、

 好々爺はずいっと僕の顔を覗き込んできた。

 

 な、何だ……。


「何じゃお主。どこかで見た事があるような……」


 突然そんな事を言われても、僕はこの爺さんの事を知らない。

 間違いなく人を間違えている。


「……他人の空似では?」

「ふむ。そう言われて見れば、もしも今生きていたら、確かにこんなに若くはないわな。それにこんなに優しそうな面構えでも無いしのう。……何という名前だったかな、あやつ。とにかく凄いヤツだったのは覚えとる。ワシの息子が手も足も出なんだったくらいだ。お主と同じで槍持ってるヤツだったのう」


 好々爺はむにゃむにゃと口を歪ませる。

 すると、その頭を孫と思われる少女がスパンと叩いた。


「ちょっとお爺ちゃんっ! いきなり失礼でしょ!」

「そうは言われてものう、ワシもちょっとボケが入っとるかも知れんし」

「えぇ……冗談やめてよ。……自分の名前言える?」

「それぐらいなら言えるわい。ヴァレン・マイヤーズ」

「じゃあ私の名前は?」

「セシル」


 好々爺はヴァレンと言う名前で、少女はセシルと言うらしい。

 どうにも愉快な爺と孫娘だ。

 隣に座っているアティがくすりと笑った。


「じゃあ私のお父さん、お爺ちゃんからすれば息子の名前は?」

「グルゴーじゃな」


 好々爺ことヴァレンの息子は、グルゴーと言う名のようだ。

 しかし、


(……ん? グルゴー?)


 どこかで聞いた事があるような名前である。

 ただ、どこで聞いたのか、それが思い出せなかった。

 勘違いかも知れない。


「大丈夫そうね、ボケてないわ。……それより、ボケてないなら謝らないと! ごめんなさいね、突然……」

「すまんのう、若人よ」


 孫娘に怒られて、ヴァレンが僕に謝ってきた。

 この好々爺さん孫娘には弱いらしい。

 

 気にしていないので、と僕は伝えた。

 すると「感謝する」とだけ言って、二人は向かいの席に座る。


「いつまで持つかのう、ワシの頭」

「あと十年は持つでしょう」

「……十年はともかく、西大陸行くまでは大丈夫じゃろうな」


 ――西大陸。

 その言葉を聞いて、思わず僕はアティと顔を見合わせた。


 行き先同じなのか……。

面白かった、続きが気になる、そう思って頂けましたら、ブックマーク登録&評価をどうぞ宜しくお願い致します。

どう感じて頂けたのかを知り、今後の糧にしたいと思います。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
作者ついったー

こちら↓書籍版の一巻表紙になります。
カドカワBOOKSさまより2019年12月10日発売中です。色々と修正したり加筆も行っております。

書籍 一巻表紙
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ