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第001話目―残りの金―

※※※※


 朝日が昇る頃には、我が家は完全に黒こげになっていた。

 僕は呆然としていた。


 本当に何もかもが燃え尽きてしまった。


 分からない……。

 いったい何が原因だったのだろうか……?

 仕事から帰ってきた時には既に業火になっていたから、僕自身が原因で無い事だけは確かだ。

 どこかに放火魔でもいるのだろうか……?


「……」


 しかし幾ら考えて見た所で、家は元通りになどならない。

 犯人も分からないから見つからない。

 全て何の意味もない。


「……」


 言葉が出てこない。

 どうしたら良いかが分からない。

 今日も仕事はあるが、行く気が起きなかった。

 無断欠勤は悪と思っていたから、今まできちんと出勤してたけど、何かもうどうでも良い。

 僕は仕事に行かない事に決めた。



※※※※



 僕は街に繰り出していた。

 特に用事があるわけでは無いので、適当にぶらついている。


「でさー、その大物を倒したら奥に隠し部屋があって――そこに財宝がざっくざくよ!」

「本当かよ」

「本当だ! それで一儲け出来たからこの魔剣を買えたんだよ」

「魔剣ってもピンからキリまであるからな。どうせ無銘だろ?」

「うぐっ……。そ、それはそうだが結構したんだぞ」


 帯剣鎧姿の男たちとすれ違った。

 ふと耳に入った会話から察するに、迷宮で儲けた話をしていたようだ。


 迷宮で稼げる、という話は良く聞く。

 強力で稀有な魔物を倒してその素材を売ったり、迷宮内にある財宝を持ち帰って換金したり。

 噂によると、建国出来る程の財を得て、実際に国を興した人物も居るらしい。


 なんとも夢のある仕事だ。



「……まあでも、僕には関係ない話だけど」


 剣の才も無ければ魔術の才も無い。

 もちろん体力知力も人並みで。

 せいぜい、生前の父親に教わった槍が幾らか使える程度。

 平々凡々な二十五歳、それが僕。

 そんな僕が迷宮なんて行っても、瞬殺されて終わりだろう。

 それぐらいは分かる。



 ……はぁ。お金が欲しい。


「金金金……お金が欲しいよ。お金が腐るほどあれば、家の一軒や二軒全焼してもここまで絶望なんてしないだろうし。金金金金金……あれ、そう言えば後いくら預金残ってたっけ」


 ふと自らの預金残高が気になった。

 僕は幾らかのお金を労働金庫に預けていたのだ。

 確認しに行ってみよう。

 


※※※※



「ハロルド様の現在の預金残高は15万ロブです」


 労働金庫の受付のお姉さんが、営業スマイルを作ってそう言った。


 ――15万ロブ。

 これが僕の今の全財産のようだ。

 底辺労働者が真面目に一ヶ月も働いたら多分貰えるくらいの金額だ。


 少し前まではこれの百倍くらいあった。

 でも、家を買って大放出したのだった。

 小さいながらも新築で、色々注文つけて満足の行く家にしたのだ。


 まあ、その家は昨夜に灰になったけれど。


「……」


 僕は今までかなり一生懸命働いた。

 普通の仕事の他に、空き時間があったら内職なんかもしたし、山に入って山菜や薬草の類を集めて売った時もあった。

 家を買うのが目標だったから、その為に本当に頑張ってお金を稼いだのだ。

 そして結末が全焼。



 やるせない。

 何もやる気が起きない。


 そうだ、良い事思いついた。

 どうせ何もやる気起きないし、残った金もパァーっと使おう。


「えっと……全額引き出しで宜しいですか?」

「はい」


 気がつくと、僕は預金残高の全てを引き降ろしていた。



※※※※




 僕はお金の使い道に悩みながら街中を散策していた。


 美味しい物でも食べようか?

 それとも、今まで手を出さなかった博打でも打ってみようか?


 月並みに、色々な使い道を考えていた。


 と、その時だった。


 路地裏の入り口に、怪しげな男が立っているのが見えた。

 ここらではあまり見ない服装と雰囲気の男だった。

 恐らく余所者だ。


 男は「奴隷競売 開催場はこちら」と書かれた看板を掲げている。


「……奴隷競売?」


 奴隷は合法であって、特段に珍しいわけではなくて、この街にも奴隷の人間がそれなりに居る。

 奴隷商店だってあるのだ。

 ただ、競売という売り方は少し珍しいなと思った。


「そこのお兄さん、奴隷の競売に参加しない? 色々な奴隷が出るよ」


 僕が立ち止まった事に気づいて、男が話しかけてきた。

 どうやら参加者を募っているようだ。

 ちょっとは興味はある。

 けれども、僕に奴隷を買う金なんて無いから断る事にした。


「いや大丈夫だよ。奴隷を買える程のお金なんて持ってない」


 奴隷は高級品だ。

 最低値でも50万ロブは下らない。

 しかも、買った後にも食費やら何やらと色々と金が掛かり続ける。


 何を思って裕福そうにも見えない僕を誘ったのか。

 理解に苦しむ。


「そんなこと言わずにさ。中には1万くらいから始まるのもあるよ? 運が良ければ格安でゲット出来る」


 1万からとは随分と破格の値だ。

 でもどうせ、そこから値段が吊り上がっていくのだ。

 容易に想像が出来る。

 

「格安なんて言うけど、最終的には値段が上がるんじゃないの?」

「そこは買い手がどう争うかによるよ。本当に格安でゲット出来ちゃう時もあるよ? 我々からすれば痛手だけど、そういう事もあるから面白いんだ。……何なら見るだけでも良いからさ」


 見るだけ、か。

 お金が掛からないなら、見学くらいはしても良いかも知れない。


「まあ、見るだけなら良いかな。タダならだけど」

「見るだけならお金は掛からないよ。じゃあ参加って事で良いね?」


 どうやらタダのようだ。

 ならば、と僕は頷いた。

 奴隷競売を覗いてみることにした。


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作者ついったー

こちら↓書籍版の一巻表紙になります。
カドカワBOOKSさまより2019年12月10日発売中です。色々と修正したり加筆も行っております。

書籍 一巻表紙
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