第018話目―地竜、売却―
前回のあらすじ→深層の魔物(地竜)を倒した。アティが膝まくらしてくれた。
※※※※
売れそうな所を持っていく。
それをするには、まずは地竜を解体をしないといけない。
解体には苦労するだろうな、と僕は思った。
何せ、かなり硬い表皮を待つ魔物である。
中々刃も通らないだろうと。
しかし――、終わって見れば、普通にどうにかなった。
やってくれたのはアティだった。
この手の魔物には解体方法があるらしく、一体どうするのかと見ていたら、火種で熱したナイフを使って、僕のあけた穴の中から中身を少しずつ切り始めた。
最終的に骨や肉などが完全に取り出され、
外皮が蟹や亀の甲羅のようにそっくりそのまま残った。
見ていて僕は感心した。
こういうやり方があるんだなって。
同じような機会があったら、今度は僕がやってみたい所だ。
手先の器用さには自信がある。
「地竜、それも深層の魔物のようなので、外皮はかなり密度の高い特殊金属――いわゆる竜金属と言うものになっています。これは、通常の刃物ではいくら業物であっても切れません。今回はハロルド様が穴をあけて下さってたようなので、随分と楽が出来ました」
抜け殻のようになった地竜の外皮を、軽く叩いて見る。
コンコン――と、確かに金属を叩いている感触がした。
この地竜と遭遇した時に、
これは撃ち抜けないとアティが言ったのも頷ける硬さである。
「……ところで、ハロルド様」
「なに?」
「どのようにして、地竜にこのような大穴をあけられたのですか?」
あっ、そう言えば説明してなかった。
アティが僕に追いついた時には、
既に倒れた後だったから、仕方ないと言えば仕方ないけど。
僕は、奥の手をアティに説明する事にした。
かくかくしかじか。
手短に説明を終える。
「――そのような技をお持ちで」
「使うとああいう風に倒れてしまうから、頻繁には使えないけどね。ついでに槍も溶けて無くなるし」
思えば、あの安物の短槍も溶けて無くなった。
新しい槍を買わなければいけない。
「……出来れば、二度と使わないで欲しいです」
少しだけ、アティの瞳が潤んだ気がした。
でも、二度と使わないということは約束は出来ない。
使い所は考えるようにするけど、
それでも使うべき時には使わなければならないのだ。
――例えば、アティに危険が迫った時とか。
「なるべく使わないようにするよ」
だから、これが僕に出来る最大の譲歩だった。
このとき、僕はアティの顔を直視出来なかった。
ところで、あの助けた五人組も途中から手伝ってくれた。
助けて貰ったのだからこれぐらいはやらせてくれ、と。
バラバラにした地竜をナポーレ商会に運ぶ所まで手を貸してくれた。
お陰で、売れそうな部分だけでなく、
全部を持っていく事が出来た。
衛兵への報告も忘れない。
噂が真実だった事に驚かれて、
狂言を疑われたけど、
地竜の実物を見せたら凄い勢いで感謝された。
※※※※
「全て合わせて、こちらの金額になります」
ナポーレ商会で一通りの査定を終えると、
一覧表を出された。
色々と部位ごとの値段に差異がある。
しかし僕は。
各部位の値段云々よりも先に、
合計金額の大きさに目を丸くした。
――1300万ロブ。
それが、この地竜につけられた値段だった。
恐ろしいなんてものではない。
もはや僕の十年分だ。
それがたった一体で……。
失神しそうになる。
【穿たれしは国溶けの槍】を使った影響が、
今頃になって出てきたのだろうか?
いや違う。
純粋に信じられない額が出て来たからだ……。
「ハロルド様」
つんつん、と僕のわき腹をアティが突いて来る。
「金額に驚かれているようですが、深層の魔物であれば、これぐらいはおかしくないです。ただ、通常であれば持って帰ってくるのに日数がかかりますし、そもそも普通の探索者では倒せません」
そ、そうだよね。
確かに。
今回はかなり特殊なケースだ。
「……それと、探索では基本、もっとも高く売れる部位だけ集めて行くものなので、深層を主戦場にしている極一部の人たちは、一回の探索で少なくてもこの十倍は手にするハズです」
少なくとも、と言うのは恐らく、これ以上の金額になる部位のある魔物が居たり、それとは別にお宝が手に入る可能性もあるから、と言う意味だろう。
しかし、それらの運に恵まれなくとも、この十倍か……。
迷宮が人を惹きつける理由が良く分かる。
無論、それら全てが丸儲けとは限らない。
一人であれを相手し続けるなんて無理があるから、
ある程度の頭数を揃えて挑むのが普通だと言う。
と言う事は、人数で割れば実際の取り分はかなり目減りするだろう。
それでも莫大な金が手に入る事には違い無いけど。
僕は眉根を寄せて唸る。
すると、僕とアティのやり取りを黙って見ていた受付の人が、振込み用紙を差し出してきた。
ちなみに、今日の受付はトゥースでは無い。
いまごろ彼は、もともとの業務に精を出している事だろう。
「ハロルド様、今回は金額が1000万ロブを越えて居られますので、現金ですぐにご用意する事が出来ません。振込先をこちらへご記入下さい。二日後には確認出来ますので」
間違えの無いように。
逐一確認しながら。
僕は振込先を記入して行った。
久々にあの技使ったせいで、キツい思いを多少した。
けれど結果だけで言えば、
お陰で目標金額を大幅に超えるお金を手に入れる事が出来た。
僥倖だったと言える。
……振込が確認出来次第、準備を調えて、この大陸を出る為に港に向かおう。