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第013話目―紅色の蝶々―

※※※※


 この先に扉があるらしい。

 そろそろ探索も潮時だとは思っていたので、ここを調べて一区切りとして帰っても良いかも知れない。


「折角だから寄って見よう。ただ、そろそろお開きにするつもりをしていたから、確認したら帰ろうか」

「分かりました。では、確認してから帰るという事で。……浅層とは言え、罠がある可能性も考えられますので、私が先頭を歩きますね。ハロルド様は私の足取りをなぞって進んで下さい」


 罠……確かにありそうといえばありそうである。

 ここは素直に迷宮の先(アティ)生の言う事を聞こう。


 アティがゆっくりと進む。

 まっすぐ歩いたかと思うと、斜めに進んだり、壁に沿うようになる時もあって。

 僕もそれに倣った。


「……思ったより、罠がそこそこありますね」

「良く気づけるね。僕には全然分からないよ」


 ただの通路にしか見えない。

 なぜそこに罠があると断定出来るのだろうか。


「ちょっとズルしてます」

「ズル……?」

「はい、魔術を使ってます。これを見て下さい」


 アティが手の甲を見せてきた。

 そこには、一匹の蝶々が乗っている。

 半透明で非常に見辛い蝶々だ。

 蝶々はアティの手から離れて飛んで行った。


 これが魔術……?


「この蝶は私が魔術で造り出したものです。真正の悪意や害意が感じ取れる場所を好むようにしてあります。だから、罠がある所に止まってくれるんです」


 おお、と僕は驚く。

 魔術はこういう事も出来るのかと、素直な感嘆である。

 僕の知ってる魔術と言えば、祭りの時とかに魔術師が打ち上げる花火とか、そういうのだけであった。

 そもそも魔術師自体の数が少ないせいで、普通に生活をしているだけだと、そんな時くらいしか見る機会が無いのだ。


「この蝶は半透明が標準なので今はこの状態ですが、これに色をつける事も出来ますし、もっと見え辛くして私だけが知覚出来るようにも出来ます。ただ、魔術を使うと疲れますから、基本はなるべく節約なんです」


 魔術を色々といじくれるけど、頻繁に行使すると疲れるらしい。

 魔術は便利な事は便利。

 でも、無制限に使えるものではないようだ。


 と、思っていると。

 蝶々が急に淡い紅色の光を放ち始め、周りに放っていたらしい蝶々も同じ色に染まった。

 地面や壁に留まる蝶や、あるいは行き場を探すように飛ぶ蝶。

 それらが一斉に現れる。


 まるで、絵本で見る妖精や精霊の現れる前触れ見たいで、幻想的な光景であった。これらはアティが行った事だと僕にもすぐに分かった。


 しかし……節約なんて言った矢先にこういう使い方して、大丈夫なのだろうか。

 僕はその事を訊こうとして、


「これぐらいなら別に疲れませんし、何より後はお宝の確認をしたら帰るだけですから」


 伝える前に、ふふっとアティが笑う。

 僕の表情を見て考えを察したらしい。

 洞察力が凄いのか、あるいは僕が顔に出やすいだけなのか。

 

 いや――どちらでも良い。

 まあともかく、大丈夫なようで良かったよ。


「……ちなみに、ほかにも色々と使える魔術はあります。ですが、どれも直接的に戦闘に使えるようなものではないですね。それらに関しては、いずれお見せする機会があれば、その時にまた」


 他の魔術はいつか見せてくれるらしい。

 その時が楽しみである。



 それからゆっくりと歩みを再開する。

 少し進んで、ふと、アティが顎に手を当てるのが分かった。


「罠がそこそこ残っている事を考えると、お宝が残っているかも知れません」

「言われてみると、確かに」

「罠が解除されているか、あるいは発動した形跡があれば、誰か先んじた人が居る残念な結果な事も多いですが……」

「結構残っているって事は、誰も通ってないって事になるよね」

「そうなります。……しかし、浅い層は探索者も多いので、ずっと手付かずだったとも考えれません。もしかしたら、新しくお宝を産み落としたばかりなのかも知れません」


 え? 産み落とす……?


「迷宮には意思があるとも言われます。財宝を持ち去られた後、迷宮はある程度の日数をかけてその場所を飲み込むんです。そして後に、時間をかけて違う場所に新しく財宝を産み、罠を仕掛け直します」


 宝を取られたらその場所を消して、新しい場所に次の宝を用意する、と。

 そう言えば、魔物を産み出しているって話もある。

 なるほど。

 確かに生きているみたいだ。



 どうやら迷宮は謎多き存在のようである。

 まあでも、僕は迷宮の謎を解き明かしたいワケでは無い。

 興味が出てきたと言えば出てきたけど、無理をして探ろうとまでは思わない事柄だ。


 取り合えず。

 お宝がある可能性が高そうだ、と言う事だけ分かればそれで良い。



※※※※



 扉まで辿り着いた。

 蝶々は扉には止まらず、罠の類はそこには無さそうだった。


「まあさすがにまだ浅層ですから。迷宮も本格的な罠は仕掛けてこないと思います」


 その言い方だと、深く潜れば潜るほど罠が酷いものになるって事かな?


「中層まではこの蝶々で大丈夫な罠が多いですけど、下層になると一気にエゲつなくなります」

「エゲつないと言うと?」

「魔術を使った瞬間に発動する罠であったり、罠をいくつか作動させないと発動してしまう大仕掛けの罠であったり。凄く面倒くさいのが多くなります」


 何それ。

 探索者を確実に殺りに来てる。


 いや……でも考えてみれば、深い層ほど財宝の質が良い、と言う話を噂には聞く。そう簡単に取られてなるものか、と迷宮も思っているのかも知れない。


「なるほどね。今のところ下層に行く気はないけど、そういう罠もあるんだって心に留めておくよ」

「私も改めて気をつけます。浅層や中層であっても、面倒な罠が絶対無いとは言い切れませんから。あくまで下層や深層と比べると少ないだけですので」


 お互いに気をつける事を表明しながら、

 がちゃり、と扉を開けた。


 中は小さな小部屋だった。

 中央に台座があり、そこには短剣が一振り飾られている。


 ――と、その瞬間。

 辺りを飛んでいた蝶々が短剣に止まった。


「……おそらく、呪いか何かが掛かった短剣ですね。浅層では珍しいです」


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作者ついったー

こちら↓書籍版の一巻表紙になります。
カドカワBOOKSさまより2019年12月10日発売中です。色々と修正したり加筆も行っております。

書籍 一巻表紙
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