第011話目―僕の女を変な目で見たら殺す―
宣言通り投稿間に合いました!
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「つい最近の事なのだが、深層の魔物が一体、浅い層で目撃されている。騎士団で小隊を組んで中を探索して見たものの見つけられず、以降に探索者たちからも目撃証言が無く、狂言の類では無いかと言う線も濃厚になりつつあるが……、可能性はゼロではない。十分に気をつけるように」
深層の魔物が浅層に?
良く分からないけど、ありえるのだろうか?
ここは経験者アティに耳打ちして聞いてみよう。
「って衛兵は言ってるけど、どうなの?」
「一体か二体くらいであれば、ありえなくはないです。ただ、見間違えていたというケースも多いですし、現段階では何とも」
「目撃が一回だけって事は、見間違えの可能性が高いかな?」
「高いと思います。しかし、可能性はゼロではありません。十二分に注意していきましょう」
アティの表情が真剣なものに変わる。
迷宮は人知の及ばない領域であるのだ、と暗に教えられたような気がした。
安心安全第一で進む事にしよう。
と、その時。
突如、後ろから大声が聞こえた。
「――深層の魔物が出たんだって!? 俺らが何とかしてやるよ!」
振り返って見ると、妙にチャラついた男五人組が騒いでいた。
深層の魔物が出たという話を聞いて、張り切っているようである。
自信があるほど強いのだろうか。
五人組は横柄に迷宮の入り口を通ろうとして、ふと、僕らの隣で立ち止まった。
「自殺志願者かな?」
「早く回れ右して帰った方が良いんじゃねェ?」
どうやら僕に言っているらしい。
口も性根も悪そうな連中である。
「つか槍って、あの伝説の迷宮開拓者のエドウィン・スミスでもあるまいし」
「憧れてんじゃねぇの?」
「十年も前にくたばった英雄に憧れる気持ちが分からんな。時代は帝国一神流の剣聖グルゴーだ」
エドウィン・スミス。
久しぶりに名前を聞いたよ。
それ父親の名前だ。
しかし、伝説の迷宮開拓者とか英雄とか。
名前が一人歩きしてる感がある。
くたばった、とか馬鹿にされてる気もするけど、
本人がもしも生きてたら喜びそうな二つ名ではある。
帝国一神流の剣聖グルゴーさんとやらについては、よく分からない。
何か凄そうだけど、そういうのとは基本無縁だったもので。
「ってか、隣の帽子被ってるお嬢ちゃん、良く見るとすげぇ可愛いじゃねぇか」
「おっぱいも大きそうだし、こういう子大好き」
「そんな優男はやめて、俺ら――」
男たちの下卑た視線がアティに向いた瞬間。
気がつくと、僕は槍の切っ先を男の喉もとに突きつけていた。
わざと刃先を少しだけ当てた。
そこから浮き出した血玉が、男の首筋から流れる。
「――僕の女にそういう目を向けないでくれるかな。次向けたら殺すから」
五人組の男たちの目が丸く開かれている。
驚いているようだ。
なんで驚いているのかは分からない。
人の女に手を出そうとしたら、こうなる事ぐらい普通は予想つくよね。
「お、落ち着けよ、お兄さん」
両手をあげて、降参とでも言いたげなポーズを男が取る。
「ちょ、ちょっとした冗談だよ。な? それに、後ろのお嬢ちゃんも銃をこっちに向けないでくれ」
どうやら、アティも銃口を男たちに向けていたようだ。
ただ、銃口を向けつつも、アティもなぜか少しびっくりした様子で僕を見ている。
まさか、僕がこういう事をすると思ってなかったのかな?
引かれてないと良いけど……。
「相手をしていられない。もう行こう」
「は、はい」
ともかく、こういう連中は構うのも時間の無駄である。
僕はアティにそう伝え、さっさと迷宮の中に入る事にした。
「なあ、さっきの寸止め見えたか?」
「全然見えなかったな……」
「ただの優男の初心者に見えたんだがな……、見た目と違ったか」
「俺は近づきたくねぇ。あの目、多分一歩間違ったら本気で殺しに来てた」
「いるんだな、ああいうの」
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迷宮の中は通路が広がっている。
幅はそこまで狭くない。
ただ、長槍だと使うのにやはり一苦労ありそうだ。
念のために短槍にしておいて良かった。
「……あくまで通路なので、進めば開けている場所もあるかも知れません。ずっとこうだとは限りませんよ?」
え?
そうなんだ。
知らなかった。
「開けた場所もあるなら、長槍を予備で持つのも手かな?」
「ひときわ得意なら持つのもアリだと思います。広い場所では有利に戦えますし。ただ、そういう場所があるかは迷宮による所が大きいです。ハロルド様の思っているような、長槍が使い辛いような通路がずっと続くような迷宮もありますし」
ケースバイケースと言う事か。
ふむふむと会得しながら、僕らは迷宮を進んでいく。
所々の壁や床、あるいは天井の一部が光って明かりとなっている為、特別に暗くは感じない。
これは迷宮の中のみで起こる独特の現象らしい。
迷宮光、と言うそうだ。
凄い便利で実生活に使えるんじゃ、と思ったけど、仮に外に持ち出しても決して光らないとか何とか。
残念。
「ところで……」
アティがちらりと僕を見た。
何だろう。
「先ほどは、嬉しかったです」
「嬉しい……?」
「そっ、その……僕の女だと言い切って頂いて。ちょっと驚いちゃいました。あと、普通に強くてびっくりしたのもありますけど」
僕が聞き返すと、アティの声が急に小さくなった。
何を言っているのか良く聞き取れない。
ただ、先ほどと言うとあの五人組の事だろう。
嬉しいなんて言葉が出てくるくらいだから、引かれては居なかったようだ。
良かった。
でも、何が嬉しかったんだろう?
まあ何でも良いか。