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第011話目―僕の女を変な目で見たら殺す―

宣言通り投稿間に合いました!

※※※※



「つい最近の事なのだが、深層の魔物が一体、浅い層で目撃されている。騎士団で小隊を組んで中を探索して見たものの見つけられず、以降に探索者たちからも目撃証言が無く、狂言の類では無いかと言う線も濃厚になりつつあるが……、可能性はゼロではない。十分に気をつけるように」


 深層の魔物が浅層に?

 良く分からないけど、ありえるのだろうか?

 ここは経験者アティに耳打ちして聞いてみよう。


「って衛兵は言ってるけど、どうなの?」

「一体か二体くらいであれば、ありえなくはないです。ただ、見間違えていたというケースも多いですし、現段階では何とも」

「目撃が一回だけって事は、見間違えの可能性が高いかな?」

「高いと思います。しかし、可能性はゼロではありません。十二分に注意していきましょう」


 アティの表情が真剣なものに変わる。

 迷宮は人知の及ばない領域であるのだ、と暗に教えられたような気がした。

 安心安全第一で進む事にしよう。



 と、その時。

 突如、後ろから大声が聞こえた。


「――深層の魔物が出たんだって!? 俺らが何とかしてやるよ!」


 振り返って見ると、妙にチャラついた男五人組が騒いでいた。

 深層の魔物が出たという話を聞いて、張り切っているようである。

 自信があるほど強いのだろうか。


 五人組は横柄に迷宮の入り口を通ろうとして、ふと、僕らの隣で立ち止まった。


「自殺志願者かな?」

「早く回れ右して帰った方が良いんじゃねェ?」


 どうやら僕に言っているらしい。

 口も性根も悪そうな連中である。


「つか槍って、あの伝説の迷宮開拓者のエドウィン・スミスでもあるまいし」

「憧れてんじゃねぇの?」

「十年も前にくたばった英雄に憧れる気持ちが分からんな。時代は帝国一神流の剣聖グルゴーだ」


 エドウィン・スミス。

 久しぶりに名前を聞いたよ。

 それ父親の名前だ。


 しかし、伝説の迷宮開拓者とか英雄とか。

 名前が一人歩きしてる感がある。

 くたばった、とか馬鹿にされてる気もするけど、

 本人がもしも生きてたら喜びそうな二つ名ではある。


 帝国一神流の剣聖グルゴーさんとやらについては、よく分からない。

 何か凄そうだけど、そういうのとは基本無縁だったもので。



「ってか、隣の帽子被ってるお嬢ちゃん、良く見るとすげぇ可愛いじゃねぇか」

「おっぱいも大きそうだし、こういう子大好き」

「そんな優男はやめて、俺ら――」


 男たちの下卑た視線がアティに向いた瞬間。

 気がつくと、僕は槍の切っ先を男の喉もとに突きつけていた。

 わざと刃先を少しだけ当てた(・・・)

 そこから浮き出した血玉が、男の首筋から流れる。


「――僕の女(・・・)にそういう目を向けないでくれるかな。次向けたら殺すから」


 五人組の男たちの目が丸く開かれている。

 驚いているようだ。

 なんで驚いているのかは分からない。

 人の女に手を出そうとしたら、こうなる事ぐらい普通は予想つくよね。


「お、落ち着けよ、お兄さん」


 両手をあげて、降参とでも言いたげなポーズを男が取る。


「ちょ、ちょっとした冗談だよ。な? それに、後ろのお嬢ちゃんも銃をこっちに向けないでくれ」


 どうやら、アティも銃口を男たちに向けていたようだ。

 ただ、銃口を向けつつも、アティもなぜか少しびっくりした様子で僕を見ている。

 まさか、僕がこういう事をすると思ってなかったのかな?

 引かれてないと良いけど……。


「相手をしていられない。もう行こう」

「は、はい」


 ともかく、こういう連中は構うのも時間の無駄である。

 僕はアティにそう伝え、さっさと迷宮の中に入る事にした。





「なあ、さっきの寸止め見えたか?」

「全然見えなかったな……」

「ただの優男の初心者に見えたんだがな……、見た目と違ったか」

「俺は近づきたくねぇ。あの目、多分一歩間違ったら本気で殺しに来てた」

「いるんだな、ああいうの」




※※※※




 迷宮の中は通路が広がっている。

 幅はそこまで狭くない。

 ただ、長槍だと使うのにやはり一苦労ありそうだ。

 念のために短槍にしておいて良かった。


「……あくまで通路なので、進めば開けている場所もあるかも知れません。ずっとこうだとは限りませんよ?」


 え?

 そうなんだ。

 知らなかった。


「開けた場所もあるなら、長槍を予備で持つのも手かな?」

「ひときわ得意なら持つのもアリだと思います。広い場所では有利に戦えますし。ただ、そういう場所があるかは迷宮による所が大きいです。ハロルド様の思っているような、長槍が使い辛いような通路がずっと続くような迷宮もありますし」


 ケースバイケースと言う事か。

 ふむふむと会得しながら、僕らは迷宮を進んでいく。



 所々の壁や床、あるいは天井の一部が光って明かりとなっている為、特別に暗くは感じない。

 これは迷宮の中のみで起こる独特の現象らしい。

 迷宮光、と言うそうだ。

 凄い便利で実生活に使えるんじゃ、と思ったけど、仮に外に持ち出しても決して光らないとか何とか。

 残念。


「ところで……」


 アティがちらりと僕を見た。

 何だろう。


「先ほどは、嬉しかったです」

「嬉しい……?」

「そっ、その……僕の女だと言い切って頂いて。ちょっと驚いちゃいました。あと、普通に強くてびっくりしたのもありますけど」


 僕が聞き返すと、アティの声が急に小さくなった。

 何を言っているのか良く聞き取れない。

 ただ、先ほどと言うとあの五人組の事だろう。

 嬉しいなんて言葉が出てくるくらいだから、引かれては居なかったようだ。

 良かった。


 でも、何が嬉しかったんだろう?

 まあ何でも良いか。

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作者ついったー

こちら↓書籍版の一巻表紙になります。
カドカワBOOKSさまより2019年12月10日発売中です。色々と修正したり加筆も行っております。

書籍 一巻表紙
― 新着の感想 ―
主人公は親父に「お前は弱い」って言われて 真に受けたけど、実は強いのに親父が化け物過ぎて 「お前は(俺より)弱い」的な感じかなw
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