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第103話目―駄目です―

 ヴァレンが不在であることは分かったけれど……それとは別に、セシルが変なことを言い出している。

 なにやら面白そうなものを見つけたから、僕を供として連れて行きたいとかなんとか。


「良く分からないけど、僕は遊びには付き合わないよ」

「……遊びじゃないもん」

「だとしても、僕には僕で生活があるからね。お金を稼がないといけないんだ」

「……お金? それなら大丈夫だよ。面白いものっていうか、場所なんだけど、そこならお金も稼げるハズだから」

「面白くてお金を稼げる場所……? 博打とか?」


 賭け事はあまり好きではない、と僕が嫌そうな顔をすると、セシルは慌てて両手を振った。


「違う違う――迷宮」


 ぴくり、と僕の耳が動いてしまう。”迷宮”と言う単語に反射的に反応してしまったのだ。


 お金を稼ぐ方法について、商売ではなく迷宮も選択肢の一つとして初期に考えていた。ただ、その場合に連れていけるのがエキドナだけであったので、色々と不安になり結果的に断念したのである。


 けれども、そこにセシルが加わるとなると話が変わって来る。セシルは強いので、一緒ならば戦闘での不安が一気に無くなる。それは大きな利点と言えた。


「南の国境付近で、未発見の迷宮があるんじゃないかっていう話があるの。現れたばかりのヤツ」

「未発見……」


 基本的に迷宮は国家で管理されるものである。ただそれは、当たり前ではあるけれど、実際に発見されて多少調査も行われた後の話だ。

 現れたばかりの迷宮の場合は、国の発見が遅れるケースもあるにはあるのだ。


 そして、そういった迷宮というのは探索者に人気がある……という話を聞いたことがある。人が少なければ探索での利益も必然的に増えるから、だったかな。だから、誰にも報告せずにひっそりと探索したがる者も多いとかなんとか。


 面白くて稼げる場所――という言い方をセシルがしたのに合点が行った。確かに、そういう場所ではあるかも知れない。


「一緒に行ってよ。……実は私って迷宮入ったことないんだよね。ちょっと怖い」


 セシルが迷宮に入ったことが無いとは意外だ。ヴァレンが迷宮を色々と知っている雰囲気だから、てっきりセシルも連れて行かれたりしたことがあるのかなと思っていた。


「……意外だね。ヴァレンさんに迷宮くらい連れて行って貰った事があるのかなって思ってた。ヴァレンさんは結構迷宮に詳しいし」

「確かに、お爺ちゃんは迷宮をそこそこ知っているようだけど……でもそれは、色々と冒険してたらしい若い頃の話らしくて最近は全然だよ。で、そんなだから、私も連れて行って貰ったことないんだよね」

「ふぅん……」

「ハロルドは迷宮入ったことあるんでしょ?」

「まぁそれは……」

「ならお願い!」


 お願いされたから云々は関係無く、この誘いは正直言って悩む。僕とセシルと、あとエキドナとパスカルも連れて行けば、それなりに探索はスムーズに進む気はする。

 特にセシルの戦力は本当に大きい。

 ただ、いずれにしろ、すぐには決められない。最低限アティに相談は必要だ。


「少し考える時間が欲しいかな」

「……どのくらい待てば良いの?」

「二日もあれば十分かな。……同じ時間にまたここに来て」

「りょーかい!」


 元気良く敬礼すると、セシルはそのまま走り去っていった。本当に騒がしい子である。



※※※※



「迷宮……ですか?」


 家に帰って早速アティに相談してみると目を丸くされた。ひとまず、セシルと再会したことや聞いた話をそのまま伝えて、「お金を稼ぐ良いチャンスかも知れない」と僕は続けた。

 すると、アティの表情が曇った。芳しくない反応である。


「……駄目です」

「えっと……」

「駄目なものは駄目です……」


 珍しい、と思った。

 たまに暴走する時はあるけれど、アティはどちらかというと、合理的で理性的な子である。

 だと言うのに、きちんとした理由も述べずにただ「駄目」だと言う。

 こんなアティは何気に初めて見る気がする。

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作者ついったー

こちら↓書籍版の一巻表紙になります。
カドカワBOOKSさまより2019年12月10日発売中です。色々と修正したり加筆も行っております。

書籍 一巻表紙
― 新着の感想 ―
[良い点] 面白かったです! [一言] 即断で却下したのは、きっと嫉妬ですよ、ハロルドさん!
[一言] 一気読みしました!無理の無い範囲で続けて頂きたいです! 表紙絵が想像とかけ離れ過ぎてた……ですがそっちはそっちで良いですね
[一言] 続きが読めてうれしい。 ちゃんと嫁さんの実家にたどり着くまでは続いてほしいと思います。
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