第100話目―君を愛してる―
祝100話目の今回は時間軸が現在に戻ります。
なので視点もハロルドではありません。
以前に1巻発売記念の時に投稿したSSで判明しましたが、本作はハッピーエンドを迎えた後のハロルドが語っている思い出話です。
それを孫たちが聞いている、というお話なのです。
※※※※
龍人の島での出来事の話が終わり、次の話に移ろうとした時のことでした。すっかりと空が夕焼け色に染まり、夜の帳も降りる頃合いになっているのが分かりました。
お爺ちゃんの膝の上に座る女の子は、「それからそれから」と話をせがみましたし、周囲にいる他の従姉妹たちも同様に続きを聞きたがりました。
けれども、沈み行く太陽を見たお爺ちゃんが、「もう遅いから」と話をここで止めました。
「えー、まだ続き聞きたいよー」
「うん」
「全然途中だよー」
お爺ちゃんは、困ったように頬を掻きました。すると、お祖母ちゃんや叔父さん叔母さん達が反応しました。
「……もう夜なのですからね。お爺ちゃんを困らせたら”めっ”ですよ?」
「そうよ。お爺ちゃんを困らせないの。過去話はもう終わり。ね」
「姉さん自分の話にまで進まなくて良かったって安心しきった顔してるなぁ……。まぁ確かに、一番最初に産まれたから、あともう少し進んでいたら話には出て来ただろうけど」
「よ、余計なことは言わなくてよろしい」
場の雰囲気は、こうして、「話はもう終わり」という方向に進んで行きました。
しかしながら、女の子を含めて子どもたちは全員が、残念そうに「ぶー」と口を尖らせて、どうにも納得がいかない表情です。
「龍の秘宝はどうなったのー? 使ったの?」
「お祖母ちゃんの実家の話はー?」
「僕は剣聖セシルの当時の話が聞きたいな……」
「わたしはお祖母ちゃんと仲良くしてる話をもっと聞きたいの」
中途半端な所で終わってしまったことで、なにやら収まりがつかないようです。そんな孫たちの様子を見たお爺ちゃんが、頬を掻きながら、「それじゃあ明日続きを話そうかな」と言いました。
「やったー」
「絶対に明日ね‼」
子どもたちは喜びました。お爺ちゃんの膝の上に座る女の子も、続きが聞きたかったので、ほっとして笑顔になりました。
そして、お爺ちゃんがそう言うのならと、お祖母ちゃんや叔父さん叔母さん、それに女の子のお父さんも「仕方がない」と息を吐きました。一番年上の叔母さんだけは「げっ」と言いたげな顔をしていましたが……。
まぁともあれ、今日はあと休むだけとなり、家族全員で屋敷の中へと入ります。
それから夕食を済ませた後。
各々が各々に割り当てられた部屋に向かいました。ですので、女の子も同じようにして……その途中で、龍を首に巻きつつ枕代わりにしている、鱗のある肌を持つお姉さんが爆睡している姿を目にしました。昼間からずっと寝ている人でした。
女の子は話しかけようか、一瞬迷います。
けれども確か、だいぶ面倒くさい絡み方をしてくるお姉さんだったことを思い出し、起こさないようにそのまま素通りして自分の部屋に入りました。
部屋の中は綺麗でした。
これが、薄紫色の髪のメイドさんが掃除してくれているお陰であった事を知っていた女の子は、明日にはお礼を言おうと思いました。
「……」
ベッドに入った女の子は、目を瞑って早めに眠るように努力します。寝過ごしでもして、話の続きを聞きそびれたら大変だからです。
しかし……どうにも寝つきが悪くて、夜中に目が覚めてしまいました。
女の子は眠気眼を擦りながら、お手洗いに行こうとして……ふと、お爺ちゃんとお祖母ちゃんが寝ている部屋の前で立ち止まりました。
何やら、話し声が聞こえて来たからです。
扉に鍵が掛かっていなかったこともあり、女の子は、そおっと中をのぞき見しました。
「……だいぶ歳を取ったなと実感します。孫たちの相手をするだけで、疲れるようになりました」
「それは僕も同じだよ。……ところで、一つ聞きたいことがあるんだ」
「……はい?」
「……長く僕と一緒にいて、アティは幸せだったかな?」
「それは、聞かずとも分かることでしょう。でも、あえて言葉にしましょう。……とても幸せでした。色々はありましたが、こうして沢山の子や孫に囲まれ、幸福以外の言葉は出て来ようもありません」
「……なら良かった」
「……ハロルド様はどうでしたか?」
「僕もアティと同じだよ。幸せだと思っている。特に君を愛せたことは一番の幸せだった」
「……過去形ですか?」
「意地悪な言い方をしないで欲しいな。……もちろん今でも愛している」
「ふふっ……」
ゆっくりと、それはとても穏やかに、お爺ちゃんとお祖母ちゃんの唇同士が重なり合って。女の子は、ぱちぱちと瞬きを繰り返して、そんな二人を眺めていました。
ふと、月明りが窓から差し込み、女の子の瞳には一瞬だけ若い頃の二人の姿が映った気がしました。
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