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第098話目―えきどなのペットにしたげるね!―

 海面からは幾つもの泡が浮き出して来た。

 しかし、気が付くとそのうちに泡は完全に出て来なくなった。

 後に残ったのはただの海原だけだ。


 マルタと始祖の龍人たちの戦いがまだ続いているのか、それとも終わったのか。それは分からないけれど……いずれにしろ、激闘であったのは確かなようで。


 マルタは、僕が受け取った”龍の秘宝”を狙っている節があった。

 けれど、一度海上に出た時の台詞から察するに、戦いの疲れなのか、「もうどうでもいい」と言った感じの諦めを抱いてもいそうである。


 生きているのか死んでいるのかも分からない。

 ただ、仮に生きていても僕を――いや、正確には”龍の秘宝”を狙うような気も、起こさないのではないかと思う。


「ぱぱー。今のなんだったんだろーね」


 エキドナが怪訝に首を捻る。

 僕は少し間を置いてから、「さぁ」とだけ返した。

 事情を隠している以上、それ以外に言えることが無いのである。



 それから。僕たちが港街に戻ると、龍人の住まう島が沈んだ光景が騒ぎとなっていた。

 町中の人が外に出て島を見つめている。

 完全に島が崩壊する前にどうにか逃げ出し、この場に辿り着いた龍人たちの姿もちらほらと見えた。


「なんだってんだ……」

「島が急に……」

「一体どうして……」


 逃げのびた龍人たちを横目に、僕は、エキドナを連れて家まで戻った。

 些か可哀そうだとは思うものの、彼ら彼女らに声を掛けなかったのは、そもそもそこまでの仲ではないからというのと、加えて、エキドナ関連で良い思いをしなかったことからだ。


「ぱぱ……?」

「……家に戻ろうね」

「うん!」


 こんな小さな子に、変な役割を押し付けようとした人たちには、どうにも同情が出来ない。



※※※※



「おかえりなさいませ」


 玄関の前に辿り着くと、仁王立ちしたセルマがいた。


「随分と帰りが遅かったようですが……?」

「それは色々とあって……」

「向かわれたという島もいきなり沈み、こちらは大慌てでした」


 言われて、僕はバツが悪い表情になる。そして、脳裏に浮かんだのはアティのことであった。


 また、必要のない心配を掛けさせてしまったかも知れない。


「アティは大丈夫……? 心配かけさせたかな……」

「……そう思われるのでしたら、危険なことには首を突っ込まない方がよろしいかと」


 今回の一件は不可抗力のようなものである。

 しかし、何を言っても言い訳にしかならなさそうなので、僕は何を言うでもなくただ力なく項垂れる。


 隣にいたエキドナが、重い空気を察したのか、そろそろと離れると何事も無かったかのように庭で泥遊びを始めていた。



※※※※



 家の中に入ると、目の端に涙を溜めたアティが頬を膨らませていた。取り合えず僕は、土下座をして、真摯に謝罪を行い続けている。


「産まれて来る子が、父親がいないなんてなったら、大変なのですからね」


 それはその通りだ。

 返す言葉もなく僕は頷く。


「それに私も未亡人にはなりたくありません。まだ、これからも一緒に思い出を作って行きたいのに……」


 それは僕も同じ思いだ。

 だから頷く。


「……いなくなったら、や、ですからね?」

「うん……」


 僕はゆっくりと立ち上がると、アティを抱きしめた。よしよし、と頭を撫でて、それから優しくお腹も撫でる。

 今日はあと一日中アティを甘やかして過ごそうと思う。

 心配を掛けさせたから、それぐらいはしないとね……。


 と、ふと、視線を感じた。ゆっくりと後ろを見ると、ドアの隙間からこちらを窺うセルマがいるのが見えた。


「……こうして見ていると、奥さまを依存させる為に、旦那さまはあえて危険に首を突っ込み心配を掛けさせているのでは、と思わないでもないですね……」


 僕はそんな鬼畜ではない。



※※※※



 さて……龍人の住まう島が沈んだ騒ぎについてだけれども、これは、数日間ほど街でも絶えず話題に上がり続けていた。


 一体何が原因なのか? どうして急に? そんな話で持ち切りであった。


 けれども……原因が不明のまま新たな発見がないとなってからは、人々の興味も薄れていって。時間が経つにつれ、段々と人々の生活はいつも通りに戻り始め、気がつくと港街は前と変わらぬ風景になっていた。


 僕の生活も以前と同じになり……いや、ほそぼそと商売を始めるようになった、という変化はあったかな。


 まぁ、もともと商売を始める予定であって、それに伴って色々と準備もしていたのだ。予定通りの変化と言えば変化だけれど。


 ともあれ、この商売はそこそこ日銭を稼げるぐらいにはなっていて、今日も上々の売上となった。

 そして、僕は満足げに帰路に着いて――その道すがらに、ふと、ポケットから小さな透明の玉を取り出して眺めた。


 海色の綺麗な光を中心に放つこの玉は、龍の秘宝だ。


 これは、祝福が授けられるという代物であるけれど……ただ、僕はいまだに使い方も分からずにいる。

 凄い効果があるのは聞いたけれど、でも、どうやって祝福を与えるものなのか。

 分からない。


「あとでアティにでも聞いてみよう……」


 アティは、自分自身が魔術を使えるということもあって、それ系の知識がそれなりにある。

 勿論なにもかも全てを知っているワケではないのだけれど……でも、アティ以外にこの手のものに詳しい人物は僕の周りにはいない。

 アティで駄目ならお手上げで、置物にでもするしかないのかも……。


 僕は浅く息を吐く。

 すると、視界の端に、海岸沿いで遊ぶエキドナの姿が映った。

 今日は家の庭ではなくここまで遊びに来たようだ。

 日も暮れ気味だし、折角だから一緒に帰ろうと思った僕はエキドナに「帰るよ」と声を掛けた。


「ぱぱー」

「もう夜になるからね。家に戻ろうね」

「うん」


 エキドナが頷いて、そこで僕は、エキドナが何かをつまみ上げていることに気づいた。それは、トカゲのようでいてそうではないような、そんな生物である。トカゲもどきとでも言えば良いのかな。


「……それはなに?」

「なんかねー、そこにいたの。海からながれてきたのかなー」

「良く分からないけれど、駄目だよ可哀そうだから放してあげなきゃ――」


 トカゲもどきを逃がすように忠告しようとして。その時、トカゲもどきが喋った。


「お、おや君は確か……」


 僕は一瞬驚いたものの、このトカゲもどきを良く見て、そしてその喋り方を聞いて気づいた。

 なぜ小さくなっているのかは分からないけれど、このトカゲもどきは、始祖の龍人と一緒にいた龍――パスカルである、と。


 どうしてこの姿になったのか? あの戦いはあの後どうなったのか……?


 僕は些かそれが気になって、折角会えたのだから直接それを聞こうと思ったけれど……エキドナがぶんぶんとパスカルを振り回し始めたので、すぐには聞け無さそうだった。


「ややや、やめてよ」

「かわいいね! えきどなのペットにしたげるね! 今日からえきどなのことは、まま、って呼ぶんだよ!」

今話が98話目ですので、そろそろ100話目が近いです~。明日か明後日には100話目に到達したいです。なんだか感慨深いです。

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作者ついったー

こちら↓書籍版の一巻表紙になります。
カドカワBOOKSさまより2019年12月10日発売中です。色々と修正したり加筆も行っております。

書籍 一巻表紙
― 新着の感想 ―
[一言] 感想再開してましたか。^^; 重厚だった竜がトカゲモドキに・・・ そしてエキドナの子ども扱いにw 戦いで力を使い果たしたのかな。 続きを楽しみにしています。
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