表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

100/114

第097話目―崩れ行く島―

 来た道をなぞるようにして駆ける。

 迷宮光のお陰で、足元がおぼつかないということも無い。

 そして。

 始祖の龍人とマルタ達の戦いの音が徐々に離れて薄れていく頃に、僕はエキドナの下へとたどり着いた。


「……ほら起きて」

「ぅぅん……」


 ねぼけ眼を擦るエキドナを抱きかかえ、僕は外の様子を窺う。すると、あれだけ降っていた雨がすっかりと上がり、晴天になっていた。


「……おそと……明るいね」

「そうだね……」


 これだけ晴れているのならば、出航出来なくはない。

 よしよし、とエキドナの頭を撫でながら、僕は急ぎ船のある場所を目指すことにした。詳しい場所は分からないけれど、島の端のどこかにはあるハズだ。それを使って良い、と始祖の龍人も言っていたのだから。


 僕は、雨上がりのぬかるんだ地面を踏みしめながら、島の端を手当たり次第に探し始める。



※※※※



 小走りで島岸を一周すると、幾つかの船が留まっている場所を発見したので、すぐに乗り込んだ。海の様子を窺うと……雨が降っていた影響なのか、些か荒れ気味であったけれど、それを気にしている場合でもない。


「ぱぱ……?」

「さぁ街に戻ろうね」

「さっきの人はー?」

「……用事があるんだってさ」


 始祖の龍人はどうしたのか、と問われて、僕は適当なウソをついた。エキドナに事情を説明する必要はないと思ったからだ。


「ふぅん」

「それより、少し波が強いからね。落ちないように気をつけるんだよ?」

「はーい」


 手短に準備を済ませ、僕は港町の方角へ向かって、船を出した。

 波に進路を勝手に変えられそうになりつつも、どうにかこうにか進路を軌道に乗せて、そこで僕は初めて振り返って島を眺めた。


 すると、ひときわ大きな音が鳴り響いて。それから、島が崩れていくのが見えた。激闘が行われているようで、それは、島一つを丸ごと呑み込んでしまう程のもののようだ。


 やがて――島は完全に海の中へと沈んで行った。


 遠目からでも分かるこの戦いに、僕は参加しなかった自分自身の判断の正しさを感じ取った。このような戦いに入り込む余地などあるわけがない。

 言われた通りに、これでは、確実に僕は足手まといの邪魔ものだ。


「島がなくなっちゃったねー」

「うん……」

「あっちの島もしずんでるよー」

「……え?」


 ふいに、エキドナが、龍人たちの島も指した。すると、なぜかそこの島も大きな音を立てて、割れるように海の中へと引きずり込まれていくのが見えた。


 一体なぜ、と僕はただただその光景を眺めて、そしてハッとした。思い出したのは、島と島が迷宮で繋がっている、ということである。


 現在行われている激闘で迷宮が破壊されて行っており、それが、繋がっている別の島にも影響を及ぼしているようだ。


 あの迷宮は死んでいる。つまり、その機能のほぼ全てを失っている。破壊されれば、それはそのまま直接的な影響をすぐさまに反映する。


 龍人の村がある島からは、慌てて船が出航していくのが見えた。逃げ出しているようだ。


 と、その時。完全に沈んだ方の島の跡から、人影が一つ飛び出して来た。出て来たのはマルタだった。


「くそがっ……。ふざけんなよ! 迷宮壊して無理やり海の中に引きずりこむなんて! 月天にも限界があるんだっての! 海全部は塵に出来ないっつの! ……だいぶ消耗しちゃったしこれ以上は戦えないわ。引き上げ時」


 マルタがそう吐き捨てると同時に、海中から龍の尾が飛び出した。龍の尾はマルタの脚を一瞬のうちに絡めとる。


「しつこっ……‼ なにこれ剥がれない‼ 変な術使ってんな⁉」


 龍の尾に足を絡め取られたマルタは、そのまま、ものすごい勢いで海中へと引きずりこまれていった。

 海面に泡が幾つも浮き立ち、そして、数瞬の間を置いてから――海の底から響くようにして声が聞こえた。


『……海の底は龍の牢獄。決して逃れることは出来ない』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
作者ついったー

こちら↓書籍版の一巻表紙になります。
カドカワBOOKSさまより2019年12月10日発売中です。色々と修正したり加筆も行っております。

書籍 一巻表紙
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ