罵声
夢の中であいつが笑ってた。
悲しそうな笑い方をする奴だった。
俺はお前に、『この世界も悪いもんじゃない』、そう思わせたかった。
この世界は『そう悪いもんじゃない』のだから…
「出ろ。裏切り者。このクソッタレが!!」
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「お前が魔王を倒すって?やめとけ、小僧。ガキの遊びじゃねぇんだ!俺たち5人でさえ近隣の魔物を一匹相手すんので精一杯なんだ。…良いか?その気概は大切だ。それを悪く言うつもりはねぇ。だがな、街を守るってのも大事な事なんだ。高望みすんな。まず生き延びる事を考えろ。」
「確かにお前の魔術の腕は悪くない。だがな、相手は魔王だ。城壁の外に出た時の事、忘れたわけではあるまい?あれだけの数の魔物を生み出すような化物だ。お前のかなう相手じゃない事くらいわかろう?…今は耐えるのだ。修業に励み、いずれは後進を育て、そして期が熟した時に軍勢を組織し、多勢でもって魔王城に進撃するのだ。」
「皆、見ろよ!魔王を倒してくださる英雄様だ!いまだ街を出ず、仲間すらいない英雄様が案山子相手に魔王討伐の稽古をなさってるぞ!…ふん!無様だな、ウェイル。てめぇの親父も御大層な事言って旅だったきりもう10年も帰ってきやしねぇ。俺の親父やシナの兄貴を誑かして(たぶらかして)連れてってそれっきりだ。お陰でうちは食ってくのに精一杯、泣き虫シナは教会に引きこもりだ。父親同様、てめぇも口先ばっかのクソッタレだ!」
「お帰り、ウェイル。今日は羊の肉が買えたのよ。あらあら、またいつも通り泥だらけね。着替えてらっしゃい。熱々のスープが冷めてしまうわよ。」
「ウェイル?本当に旅に出るの?…なら、私も連れてって!…確かに外は怖いし戦う力は弱いけど、癒しの魔法なら少しは習得したのよ。必ず必要になるはずでしょ?……嫌なの、いつまでも『泣き虫シナ』でいるのが。貴方のお父さんは本当に強くて優しい方だったわ。お兄ちゃんだって、そんなおじ様に憧れて自分から討伐隊に志願したのに…私も戦う!貴方と一緒に!」
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『魔王討伐』か…
あの高い城壁に囲まれた、狭い空の下で生きてくのが嫌で飛び出したのにな。
その狭い空も、この小さな明かり取りの小窓からしか見えない。…余計に小さくなっちまった…。
「ぐずぐずするな!このウスノロめ!」