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【習作】狙い撃つ!

作者: 相沢 洋孝


 食べ物がテーマなのに何故?という描写ですが、キチンと理由はあります。

 夜の帳の中、シャコシャコと音を立てて、分解した銃身を研磨して中のススを掻き出していく。

 銃は生き物だ、機嫌が悪いと喧嘩している彼女みたいに言うことを聞いてくれなくなる。という冗談交じりのセリフを聞いたのは新兵としての訓練を受けている時。ベテランの軍曹からのアドバイスだった。


 「よし、完璧。後は組み立てていくだけと」


 部品をなくさないように慎重に組み立てていけば、完成するのはマスケット銃。空打ちして作動を確認すれば、後は狙い撃つのみ。


 まずは手元に数発分だけ残っている紙薬莢の先端を歯で噛み切り、銃口に装填する。

 カルカで紙薬莢ごと、黒色火薬と銃弾を奥に突っ込んで装填の準備を終えていく。

 後は引き金を引くだけだ。


 銃口を標的に狙いを定め、引き金を引いてみた。バンと激しい銃声と反動。ブレる銃口。飛び出した銃弾は標的にめり込む。火薬量を少なめにしておいたため、標的の表面を貫通しても裏側まで行かないようにしておいた。

 

 傷ついてしまった標的の表面を見て満足した俺はマスケット銃付属の先の銃剣を取り出し、標的に一気に突き刺していく。何度も何度も、抉りこむように突き刺し、硬い表面をえぐり取って見せれば・・・・・・


 

 そこには缶詰にされている美味しそうな肉の塊があった。もちろん事前に湯煎で温めたものだからホカホカ。

 

 

 携帯保存食の王様でコレが発明されたことは進軍能力は跳ね上がったが、問題はこの缶詰を開ける道具がこの世の中にないからだ。

 缶詰はフタをハンダで無理やり溶接して封印したものだからだが、開けるためには銃を使うか、ハンマーとノミで開けるか、銃剣でこじ開けるかぐらいしかない状態だ。


 それでも戦場での温かい食事は贅沢だ。香辛料をたっぷり使った保存性重視の缶詰肉とは言え、あまりうまくないパサパサの野菜と硬い黒パンとの組み合わせは戦場の食事としては最高クラスだ。

 

 黒パンにナイフで切り込みを入れていき、そこに野菜を敷き詰め、缶詰肉をその上にたっぷりと載せていく。

 カップにはタンポポの根っこを細かく兆して焙煎して風味だけはコーヒーっぽくした軍御用達の代用コーヒーを注いでいく。

 

 パンにかぶりつけば黒パンと乾燥した野菜が辛すぎると評判の缶詰肉の辛さを抑えていき、マイルドな塩辛さへと変貌していく。

 そこに合わせて代用コーヒーを口にすれば、これぞ最前線の兵士の味というもの。寒い中で何とか暖を取りながら味わう食事は味だけではなく、それ自体が贅沢だ。

 食えるだけマシ。そんな激戦区から何とか撤退した皆とは離れ離れになってしまったので、食料と予備の弾薬などの保管拠点に来たが、誰もいない。こうして2日ほど、同じメニューを繰り返し、3食連続で食うという状態になっている。


 とはいえ、ここに残されている食料は後3日分、戦場でバラバラになった部隊の仲間との合流地点である物資貯蔵拠点として隠しておいた場所だが、誰も来ない。

 敵も味方も。もう捕まったのか。それとも死んだのかは分からない。とはいえ、ここに残るのはもう無理だ。明日の朝にでも拠点を捨てて撤退しよう。運が良ければ助かるかもしれない。そう信じて支給されている毛布にくるまり、凍える身体を温めながら眠りに付いていた。部屋の外はチラチラと雪も振り始めていた。

 明日はせめて晴れることを祈ろう。冷たい缶詰肉は苦痛だから。


 我々の生活にもはや無くてはならない缶詰、実はコレはかのナポレオン・ボナパルトの提案で軍用食料の輸送能力向上を測れないかということでフランスで考えられたものでした。

 当初はフランスで考えられたのは瓶詰め保存でしたが、ガラス瓶は割れやすく、輸送しにくい問題があり、その改良として缶詰が英国でうまれました。


 初期は殺菌が不完全で発酵して食中毒を起こしたり、缶が発酵時に生まれるガスで膨張、爆発したり、ハンダに含まれる鉛で鉛中毒になった人もいたりします。


 それでも改良を加えた物は軍用の保存食として愛好されましたが、一番肝心なことが考えられなかったのでした。

 それは缶切りの発明です。なんと缶詰開発から40年ほど立った頃に完成という状況でした。

 それまでは作品の中で説明した通り、銃でぶち抜く、銃剣で穴を開ける、ハンマーとノミで叩き割るという、ある意味食い物を粗末にするなという方法で缶を開けてましたから缶切りは偉大ですね。

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