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幽霊になった幼馴染み  作者: のんびり+
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第1話 俺の日常

静かな部屋に突如、ベルの騒々しい音が鳴り響く。

「……うぅ……」

俺の平日の目覚めは朝六時半、目覚まし時計に起こされる。

俺の名前は壁越未来(かべごえみらい)、

何処にでも居る普通の高校三年生だ。

朝起きたら顔を洗って、自分で作った朝食を食べる。

因みに今日の朝食はベーコンエッグとトーストだ。

そして鞄を片手に学校に向かう。

これが俺の日常だ。

俺は現在安いアパートに一人暮らしをしている。

小さい頃に両親は他界、事故だったらしい。

俺は奇跡的に助かり、

それからは祖父母の所で中卒まで育ててもらった。

何時までも世話になるのも悪いので今は一人暮らしって訳だ。


まだ人通りの少ない路地をあくびしながら歩いている時だった、急に視界が黒になる。

「だ~れだ」

笑いが混じったいたずらっぽい声が聞こえる。

……やれやれ、

「毎回やってて飽きないな、刹那」

俺が言うと視界が元に戻る。

後ろを首だけ動かして見ると、

肩まで伸びたブラウンの髪に、大きな目を細めて笑う少女の姿。

彼女の名前は天城刹那(あまぎせつな)、

俺の幼馴染みだ。

俺が幼稚園の時から高校までずっと一緒。

因みに、それが原因でクラスの奴等からは“夫婦”と呼ばれている。そして、これは絶対秘密だが……実は、俺は刹那の事が好きだ。

それもだいぶ前から……。

俺は今平然を装っているが、心中メチャメチャ緊張してるのだ。

でも、俺が変な態度をとって刹那に距離を置かれると俺の心が壊れてしまうので何とか普通の態度を維持している。

っと、もう学校だ。刹那とはクラスが違う。

「またな、刹那」

「うん、また後で!」

刹那は自分の教室へと向かって行った。

俺は刹那の背中を見送ってから、自分の教室に向かう。








――放課後。

やっと退屈な時間が終わった。

俺は鞄を持って校門に向かう。

校門に行くと、既に刹那が待っていた。

「悪い、待たせたな」

「本当だよ~」

「そこは嘘でも「ううん、待ってないよ」だろ?」

「何今の?私の真似?……ぷ、あはは!」

刹那が腹を押さえて爆笑している。

そんな微笑ましい刹那の姿に俺もつられて笑う。

これが俺の日常。

明日も明後日も変わらない。

だがそれは……俺の過信に過ぎなかった。

「あ、見て未来!」

「ん?……猫か」

俺達の眼前には一匹の黒い猫が佇んでいた。

「可愛いね~」

「そうだな」

すると猫が歩き出す。

そして、今黒猫がいる十字路のカーブミラーに黒い影が映る。

それ(・・)は黒猫に向かって直進して行くが、

猫はそんな事は知らないと言った顔で呑気に歩いている。

「危ない!」

そんな声と共に、俺の前を走る人影。

俺の意識は黒猫からその人影に移る。

気付いた頃には、もう遅かった。

「刹那!」

と俺が言うと同時、目の前で猫を抱えて吹き飛ばされる刹那の姿。

俺の頭の中は真っ白になった。

思考が完全に止まる。

……ひょっとすると時すらも止まったのでは無いかと思える程に、その時間は長かった。

どしゃっ!と言う鈍い音で、俺は正気に戻る。

エンジン音と共に去って行く白いワゴン車。

俺の目の前には、血まみれで横たわる刹那の姿。制服もボロボロで、所々破けている。

そんな刹那の腕からもぞもぞと黒猫が這い出てたと思うと、走ってその場を去って行った。

「刹那……?」

まだ現状が理解出来ず、声が出ない。

そんな掠れた声で刹那の名を呼ぶ。

「未……来……」

応答が聞こえると、急いで刹那の元に駆け寄った。

刹那の頭を抱き抱え、上半身を起こす。

手にはべっとりとした液体の感触が染み付く。

「刹那!……お前……」

「フフ、ごめんね?未来……」

刹那は笑ってみせて言うが、刹那の弱々しくか細い声を聞いた俺は全然笑えなかった。

「待ってろ!今救急車を――」

「未来」

俺の言葉と被せるように刹那が言う。

「私は、もう死ぬと思うんだ……」

「何言ってんだよ!」

俺の目頭は熱を帯び、視界がぼやける。

泣くなよ、俺!まだ決まった訳じゃ無いだろ!?きっとまだ助かる!

俺は何度も何度も自分に言い聞かせる。

でも、心のどこかではわかっていた。

それはただの現実逃避だと言う事くらい……。

俺はただ、認めたくなかった。刹那が……死ぬなんて。

「私……最期にね、言いたい事があるの……」

俺は黙って刹那の言葉に耳を傾ける事しか出来ない。

「私ね、ずっと…………未来の事好きだった」

「え?」

俺は思わず刹那の顔を凝視する。

俺の狼狽ぶりが面白かったのか、刹那はそっと笑みを溢すと目を瞑った。

そして、それっきり刹那が動く事は無かった。

……刹那が死んだ?

そう考えた瞬間に、途方も無い喪失感が俺を襲う。

どうしてこうなった?

そんな疑問が押し寄せる。

そんな感情や思考で、俺の頭の中はごちゃ混ぜになる。

気付くと、目からは止めどなく涙が溢れていた。

「……うっ……ぅぅ……ッ!」

そして、俺は泣いた。

今この感情に全てを委ねて。

何度も刹那の名を呼んで。

ずっと泣いていた。

今の俺にはそれしか出来なかった。

だからずっとずっと、

声にならない叫びをあげて、泣いていた。


――今日、俺はかけがえの無い人を失った。

退屈でも幸せだった日常を、失った。





アドバイス等ありましたらお願いします。

それでは次回も、のんびりしていってね。

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