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54.帝国千年史異聞~永遠の約束~

※注意

この話には<ユニコ・メッセンジャー・ワークス>のメンバーは登場しません。


参照:16~18話 『見えざる悪魔』

 神秘の森には永遠の命を得られる財宝が眠っている。

 いったいそのような伝承が、捻じ曲げられ、人々に流布したのはどういうことか?

 強欲な王はそれを欲した。同じく強欲な王の弟もそれを欲した。

 そして、森を守ろうとする勇者、ヴァン・キャロライン一向。

 その三つ巴の戦いは四日間に及んだ。

 一日目で、ヴァン・キャロラインのパーティーから二人の死者が出た。剣士の若者と、薙刀使いの大男だ。

 対して、王の軍勢とその弟の軍勢からは千人を超える死者がでた。

 二日目は雨だった。息苦しいほどの豪雨の中、密林の奥では血しぶきが飛び続けた。

 増水した川はひたすら赤く染まった。

 勇者のパーティーからはまた死者が出た。治癒魔法ヒーリングを得意とする魔術師の、まだ若い女だ。

 それによってヴァン・キャロライン一行はさらに追い詰められた。

 三日目、王は軍に増援をかけ、圧倒的武力で森に迫る。王の弟は、”黒の騎士団”と呼ばれる、死霊アンデッドの軍勢を送り込んだ。

 そして、ヴァン・キャロライン一行の中で、生き残っているのは、勇者ヴァンと、エルフのレイラだけとなった。

 ヴァンは傷つき、息が上がり、もう立ち上がることすらできない。幾戦もの屍の中で、また勇者もその一つとなろうとしている。

 レイラは、最後の手段に出た。ヴァン・キャロラインが生み出した。呪われた秘術。魔王さえも封じた、禁断の魔法。

 それは……、最強の破滅型攻撃魔法、”虚無”だ。

 ”虚無”の発生を予知した王国軍の魔術師達は慌てふためき、撤退を指示する。

 恐怖に駆られ、逃げ惑う兵士は森に火を放った。

 強い風に煽られ、火は瞬く間に燃え広がる。

 そして、空にぽっかりと、不気味な穴が開いた。

 それを見上げた両軍の兵士達は、祈ることも、後悔も忘れ、何かを呪った。一人の兵士が「悪魔め……」と呟いた。

 ”虚無”がすべてを飲み込んでゆく。

 四日目……。灰の大地に、勇者とエルフだけが残されていた。


 「大丈夫? 起きれる?」レイラが聞いた。

 「ああ、大丈夫……。だけど、もう少し、このまま」

 ヴァンはレイラに膝枕をされながら、治癒魔法ヒーリングを施されたところだ。

 「まだ、どこか痛いの?」

 「ううん……」少しだけ首を振った。「……ごめんな。お前の故郷、守れなくて……」

 レイラはただ首を振る。

 「……俺のせいで、みんな死んじゃって……」

 レイラは肩を震わせながら涙を流し始めた。

 「……ずっと、一緒に旅してきてさ。こいつらとなら、どこへだってゆける。そう信じてたのに……。魔王だって倒したのに……。最後の最後が、人間にやられちまうなんてさ……、おかしいよな……」

 レイラの故郷に不穏な動きがあることを察知したヴァンは、パーティーを引きつれ、レイラの故郷である森に向かった。

 魔王さえも打ち滅ぼしたその自負があったからこそ、ここへ来た。それなのに……、

 「レイラ……、どうしたい? これから、どうしようか? また仲間を探して、旅に出る? それでもいい気がするけど、……レイラはどうしたい?」

 ヴァンは、レイラと初めて出会った日を思い出していた。

 乗り合わせた船の上で、攻撃魔法が得意な同士、話が弾んだ。いつしか、夜の甲板の上から海上に向かい、どれだけ遠くに火球を飛ばせるか? という勝負に発展した。

 あまりに勝負に熱が入ったおかげで、航行中の巡視船を一艘丸焦げにしてしまった。……そのおかげで、二人は二十四日間もの間、巡視船の弁償のために港湾で働かせられた。

 懐かしい記憶が蘇る。だけど、もう……、

 「私は、……ここに残る。……森を、生き返らせないと。何年、何十年、何百年。もしかしたら何千年もかかるけど。私がやらなきゃ……」

 「そうか……」ヴァンは右腕を両目の上に乗せた。「よかった……、俺さ、実は……、もう疲れちゃったんだ……」

 「なに、言ってるの? ……ヴァンらしくないじゃん……」

 それが、二人が別れを決めた瞬間だった。


 五日目の朝、二人は灰色の大地の上で向かいあう。

 「ヴァンは、これからどうするの?」

 「海を、渡ろうかと思う。……東の海の向こうには、大陸があると聞く。……人間族もいるらしいが、まだそれでも手付かずの未開の地だ」

 「そんなところで、何をするの?」

 「国を作りたい……。平和な国だ。誰もが笑って暮らせる、光に満ちた国だ。まずはそこから……、世界を変えたい」

 「世界を変える必要があるの?」

 「もう……。二度と、レイラにはこんな悲しい思いをしないで欲しい。だから、そのために。世界を変えなきゃならない」

 「お父さまが、悲しむわ」

 ヴァンの父は、西の小国、キンフォークの王だ。鉱石の輸出で富を得ている一族の末裔だ。

 しかし、ヴァンは知っている。この国の王の弟に金を出し、この戦を仕掛けたのは、紛れもないヴァンの父だったのだ。

 「もし、俺の作る国、……平和な国を作るためだった、俺はたとえ父親であっても断頭台に登ってもらう」

 「あなたの意思は冷たすぎるわ。あなたらしくない……」零れそうな瞳でレイラは問う。

 「そうだね、自分でもそう思う。……もし、俺に、また旅に出る元気が出たら。……もし、また世界がそれくらい魅力的になったら……。そしたらまた、俺と会ってくれるか?」

 「また船の上で? なんてね!」レイラはニコリと笑う。

 「また二人で船の掃除でもするか?」ヴァンも思わず笑う。

 「ヴァンは、……剣よりデッキブラシの方が似合ってるよ……」レイラは寂しそうに笑う。

 「なんだよ! バカにすんなよ」ヴァンはむくれる。

 「王冠なんて。もっと似合わないよ……。似合わないことって……、辛いよ」

 「でも、誰かがやらなきゃ。……俺がダメでも、その意志を未来に繋げていかなきゃ」

 「寂しいわよ、きっと……」

 「だから、また会おう。……約束をしよう。でも、俺はそれを破っちゃうかもしれない……。君の方がずっと長生きだからね。……でも、俺はその約束を死んでも忘れない。わかるかな……、俺は、永遠の約束をする。だから、……また俺と会ってくれる?」

 

 それに対してなんと答えたのか、レイラはもう覚えていない。

 あまりに長い時間が経ったのだ、それも無理はない。

 自分の名を忘れてしまうほどに……。

 それでも、彼が目指した平和の一端を目にする度、あいつは約束を破ってはいないのだな、と思う。

 一つの森を再生するより、ずっと長くて困難な旅の途中に、ヴァン・キャロラインは未だに歩を進めているのだと……、彼の意思を受け継ぐ者達によって。

 この永遠の命が終わるとき、来世へと旅立つ船の上で、再び彼と巡り会うのかもしれない。

 名もなきエルフはそんなことを想像する。


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