15.エルフと少年のワルツ 後編
楽隊長、リドリー・ロールシャッハは町外れの安宿で目を覚ました。
昨晩は少々飲み過ぎたようで、軽い頭痛がする。
寝巻きのまま外に出ると、すでに太陽は夏らしい威勢の良さで光を燦々と放っている。
井戸から水を汲み上げ、その冷たさでリドリーは少々浮腫んだ顔を洗った。
部屋に戻ると、相部屋の楽隊員はまだ鼾をかいている。
ささくれ立った机に一枚の譜面を広げる。
故郷を旅立った日より編曲を重ねている、未完の新曲だった。
旋律はすでに完成しているが、どうしてかリドリーはこの譜面にまだ終曲を書けずにいる。
(まだ何か足りない)
いつもそう考えてしまう。
ペンを手に頭の中だけでその構成を組み立ててみる。
リドリーが楽隊を連れ、旅立ったのは今から五年前。故郷である”最北”の村を長年支配してきたダークエルフ達が帝国軍により追い払われ、長年の圧政から開放された”最北の地”は、目覚しい発展を見せている。新たな自由を与えられた”最北の民”達は、同時に新しい暮らしを模索しはじめた。そして、リドリーが選んだのは”挑戦”だった。
彼の志に共感する楽隊員を引き連れ、旅に出ることに決めたのだった。
そして、行く街行く街で演奏をし、一宿一飯のための賃金を手にすることだけで必死な毎日。決して楽ではなかった。旅の途中、その暮らしに耐え切れず、故郷へ戻った楽隊員もいた。
だが、次第に大きな舞台に招待されることも増えてきた。
そして、今日は城下で開催される”光の祭典”で演奏をする。
なんと、招待してくださったのは皇女様なのだという。
このような日が来る時の為に、この曲は作ってきた。にも関わらず、まだこの曲に足りないモノを見つけられずにいる。
リドリーはそっとペンを置いた。
日が落ちた”光の神殿”に一つ、また一つと青白い炎が燈される。
東三番門から城下に入ると、そこは”光の神殿”だ。
先の大戦により焼け落ちたその建物を修復し、光の信徒達を呼び戻したのは皇女メアリー・ヴァン・キャロラインだ。
そして、今宵。”光の祭典”が、実に百二十年ぶりに復活するのだ。
祭典は、商人、町人、農夫、貴族、軍人、そしてもちろん皇族も、その身分階級に囚われず等しく楽しめる場にしたいという皇女の意向が強く反映された。
神殿へ続く大通りにはこれまで見たこともないほど大勢の人間がひしめき合っている。
誰もが一様に、そわそわと”その時”を待っている。
「なんであんたとなのよ!」不満そうにそう言ったのはリン。
「しょーがねーだろ! みんな露店の準備に行ってんだから!」エドは一層不満そうに言い返す。
クレアの農場も露店を出すよう皇室から要請を受けていた。
コウタが農場の一角を借りて趣味で(それにしては大規模な)畑を作りトウモロコシを育てていたのだが、それを焼いたモノを売るらしい。
「お母さんも神殿の手伝いに行っちゃってるしー」
リンの母親は”光の信徒”だった。
「しっ! はじまるぞ」エドは指を立てて言った。
立ち並ぶ街灯に燈された青い炎が一層輝きを増す。
魔力がこめられたその炎から、どこまでも澄んだ不思議な声が聞こえてきた。
『皆様、お集まりいただき、誠にありがとうございます』それは皇女メアリーの声だった。
そう、この放送は、ジャンネの通念魔法を応用したものだった。
『失われていたこの素晴らしい文化を取り戻そうとしたのには、大きな意義がありました。それはただ一言で表すなら”平和”。人々の心にそれを確かにできる場所と時間。すべての争いは過去のことであったと、明日へ向かうための暗闇を照らす明り。この祭典が、誰もがの心に”平和の光”を燈す象徴になればよいと、私は考えました。では、皆様、血を流した多くの者が祈ったであろう、心の光を胸に、今日は楽しんでいってください……。ようこそ! 光の祭典へ!!』
ドーン! という音がした。神殿の裏手から打ち上げられたそれは、夜空にいくつもの大輪の花を咲かせた。
わー! と歓声が上がる。それを合図に人々は思い思いに動き出す。
屋台に向かう者、酒の売り子に群がる者、神殿に祈りを捧げに向かう者。
突然動き出した観衆の波に揉まれ、リンはあたふたする。
「わっ、わっ、て、エドー!」
小柄なリンは大勢の大人達の流れに視界が塞がれ、自分がどこにいるのかもよくわからなくなった。
すると、ガッ、とリンの手を掴む者がいた。
「キャー!」
「ほら。つかまってろよ」
エドだった。
「うん……、ありがとう……」珍しくリンは素直に感謝を告げた。
「ったく、これだからお守りは疲れるぜ」
その言い方に、(なんだかコウタやアレックスさんと似てたなぁ)と、リンは思った。
「屋台行こうぜー」
二人はクレアが出す露店に向かった。
そこには長蛇の列が出来ていた。
クレアとアレックスが店頭で金を受け取ったり、品物を客に渡したりしている。
コウタは屋台の中で、猛烈な勢いで次々にトウモロコシを焼き台に載せていく。
「うわー。凄い繁盛してるねー」リンは目を瞬かせた。
「げー、熱そう……。手伝わされなくてよかったー」エドは心から安堵した。
手伝わされるのではないか。という一抹の不安を抱えてエドは行列に並んでいた。
「あらー! あなた達来てくれたの?」クレアが笑いかける。
「て、て、手伝いに来たわけじゃないからな!」
「お前がいたって、クソのためにもならねーよ! へい”焼きもろこし”二本お待ち!」アレックスは客を捌く片手間にエドをなじった。
「へー。で、いつ間にそんなに仲良くなったわけ?」クレアは冷やかすような視線を二人の繋がれた手に向ける。
「ぶ、ぶ、ブァカ! そんなんじゃねーよ! こうしてねーとコイツが逸れちまいそうだしー」
「べ、べ、別に頼んでないわよ! コイツが勝手に!」
二人は真っ赤になり、必死で否定する。
「はい。熱々なお二人には、熱々の”焼きもろこし”! お代はいいわよ」
クレアが差し出した”焼きもろこし”を奪うように受け取ると、二人はそそくさとその場を逃げ出した。
「おいしい……ね……」
「うん……うまい」
大人気ない大人達に冷やかされたせいで、”焼きもろこし”を齧りながら歩く二人の会話はギクシャクしていた。
「喉渇いたなー」間が持たない辛さを紛らわす為、エドはわざとそんなことを言った。
飲み物を売る屋台を探すと、それはすぐに見つかった。
そして、そこにはよく知った顔があった。
「おお! おぬし達。来ておったか?」
そこには屋台で酒を売るジャンネがいた。
「なんでジャンネが店出してるの?」
「わらわの店ではないわ。しばし店番を仰せつかっておるだけじゃ。あのパブの店主の露店じゃよ」
「ああ、なるほど」二人は納得した。
「いやしかし、こういう浮かれ華やいだ場所で酒を売るのは辛いのー。やはりわらわは”飲む”専門じゃな。店主め、早く戻ってこんかの」
ジャンネは明らかにジリジリとした様子だ。
「ねー、ジャンネ。お酒以外も置いてるの?」エドは聞いた。
「あるぞ。こういうところでは女子供も多いからのー」
「よかったー」リンも冷やかされたせいなのか、”焼きもろこし”の塩気のせいなのか、喉がカラカラだった。
「ほれ。果汁入りの甘酢じゃ」
「酢? 酢なんか飲ませるのかよ?」
「そう思うのは無理もなかろう。じゃがな、この発想は今お主らが手に持っているモノと出所は同じじゃ」
「手?」エドとリンは自分達が持つ”焼きもろこし”を見た。
「あ! コウタか! じゃあそれも異世界にあるものなの?」エドは気がついた。
「うむ。完璧とはいかないが、なかなか近い味にはなっているそうじゃ」
「じゃあそれ頂戴!」リンは目を輝かせて注文をした。
リンも、コウタの世界からもたらされた料理の虜になっている一人だった。
「うむ。では二人分でよいな? 一番大きなカップで作ってやろう。それと、向こうに座れる所があるから、ちょっとそこで待っていてくれぬか?」
エドとリンは、ジャンネに言われたとおり、神殿前の広場に来た。
そこはテーブルと椅子がいくつも不規則に置かれ、人々が好き勝手に使えるようになっていた。
まるで、巨大なパブのようだ、とエドは思った。屋台で買った料理や酒をテーブルに並べ、愉快な大声を上げる人々。
いつもの町外れのパブと違うのは、その規模だけではなかった。それはここにいる人種。
安酒場では、農夫や軍人崩れといった、貧民達しかいなかったが、ここには貴族や、商人、貿易商、そしてリンと同じエルフ族、おまけに”混血魔族”までいる。
空いているテーブルはないかと歩く二人に声がかかった。
「よう! コウタのとこの、チビ二人じゃねーか!」
声の主は平原の狩人だった。日に焼けた筋肉隆々な身体に、剃り上げた頭。
それはあのパブの常連。エドのカードゲーム仲間だった。
「よう! ハゲ!」
エドはそう言って小さな拳を大男の鳩尾にドンと喰らわせた。
「まだまだ! しかし、だいぶ”腰”が入ってきたな」
「へへっ! ……ん? なんだ、お仲間かい?」
大男はエドの知らない男達とテーブルに付いている。
「いや。今知り合ったばかりさ! なんと、隣国から来ている貿易商らしいぜ」
「へー。どおりで身なりに差があり過ぎるわけだ!」
「うるせー! まあとにかくだ。なんだか飲んでるうちに、俺がバッファロー狩りの天才と知って。取引をしたいって話になったんだ」
「おお! すげー!」
「へへへ! だろ? しかもな一頭につき、金貨二十枚だとよ! これで俺も城下に家が建てられるぜ」
「おいおい、騙されてんじゃねーの?」
「お言葉ですがボウヤ」貿易商の一人が言った。「帝国の平原に住むバッファローは肉質がよく、わが国では人気なのです。金貨二十枚で一頭手に入れば、我々としても大きな利益なのですよ」
「ふーん。そんなもんかねー。……ああ! そうだ!」
「なんだよ急に?」大男が聞く。
「ねえ。獲ったバッファローを港まで運ぶの、うちに任せない?」
「ほう。というのは、君は牛車屋か何かかな?」貿易商が聞いた。
「いいや! MQ<モンスターキュウビン>さ!」エドは得意げに言った。
すると、貿易商達は目を見開いた。
「……なるほど。やはり来た甲斐があった」
「ん? なんだ」エドは不思議そうに聞く。
「私達が来た目的はバッファローの仕入れ先の確保が第一だったのですが、それに付随するもう一つがあるのです」
「どういうこと?」
「つまり、肉が新鮮なうちに港まで運んでくれる業者……」
誰もが納得した。
「がははははは!」大男は笑い出した。「なんだかいい夜だな! おい。なんならよ! 難しい話はとりあえず抜きにして、乾杯しとこーぜ。商談はよー、後日でいいだろ?」
「そうですね。まさか一晩でこのような縁に恵まれるとは。これも光の神のご加護かな」貿易商はそう言って杯を掲げた。
そこにいる全員で乾杯をする。
大人達の酒の席に遠慮をして、エドとリンは近くのテーブルに移動した。
「エドってすごいね……、あんな怖そうな人と、まるでお友達みたいに」
「え? ”みたい”って、あいつは友達だけど」エドはあっけらかんとそう言った。
隣のテーブルからはエドの”お友達”と貿易商の楽しげな会話が聞こえてくる。
その他の周りを見れば、貴族と酒を飲み交わす農夫、エルフを軟派している商人風の男、混血魔族に腕相撲を挑む軍人と、これまで交わることの無かった者達が、ただただこの場を楽しんでいた。
ああ。これが平和というものなのかなあ。と二人はぼんやりと、同じことを考えた。
エドは少し離れたテーブルにまた顔馴染みを見つけた。
農民風の召し物を着て、何故か数人の屈強な男を引き連れた少女。
少女も同時にエドに気が付いて、にこやかに手を振った。
エドも手を振り返す。
「誰?」その様子を見ていたリンが、何故か不機嫌そうに聞く。
「おうじょ……、あ、いや、友達だよ。メアリーさんていうんだ」
「そう」
素っ気無い態度でそうこたえるリンが、不思議と大人びて見えたのはエドの気のせいだろうか。
「おう。ここにおったか。やっと店番が終わったわい、これで気兼ねなく飲める」
ジャンネがやってきた。見ればその手には葡萄酒の瓶と”焼きもろこし”が抱えられている。
ドカ! っと椅子に座ったジャンネは、瓶を直接口に付け、豪快に飲み始めた。
「っかー! たまらん。やはり労働の後の一杯はよいのぉ」
「ジャンネさんの場合は、一杯じゃなくて、一本でしょ?」リンが言った。
「それは……、違いない!」
三人は高らかに笑いあう。
「それはそうと、リンよ。MQ<モンスターキュウビン>はどうじゃ?」
「すっごく楽しい! 毎日毎日、本当に楽しい」
「それはよかったのう」ジャンネは目を細めた。
「でもな、楽しいことだけじゃないぞ。大変な事だって、たっくさんあるんだ」エドが言った。
「エドも一端の”先輩”じゃのー」
「調子にのるんじゃないわよ! ”おこちゃま”が!」リンは堂々と言う。
「なんだよー。おまえだって”おこちゃま”じゃないかよー」
また始まった。ジャンネはそう思い、話題を変えることを思いつく。
「そういえばのー。昨日、酒場で面白い連中に会った。聞けば”最北の民”の楽隊だという。それが、今日、演奏すると言うのじゃ!」
「もしかして……、それってここで?」
「そうじゃ。あそこに舞台があろう? あそこでじゃ」
リドリー・ロールシャッハは、テントの中で指の柔軟運動をしていた。
弦楽器を操るには指の柔軟さが何より不可欠だった。しかし、どちらかと言えばそれは、若い頃より染み付いた習慣のようなものだった。
この行為によって、最後まで万全を尽くした、という言い訳を自分自身にするための儀式のようなものだった。
皇室の従者がテントに入ってきた。
「そろそろ、お願いしたいのじゃが。準備はよいかの?」
年老いたその男は、リドリーを貴族か何かのように敬う言葉を使う。
そう。所詮、リドリーは平民だ。しかし、その態度に(やっとここまできたか)という感嘆を味わった。そして、リドリーの覚悟は決まった。
「皆。行こう。客が待っている。今宵は思いっきりやれよ!」
舞台に現れた楽隊に、観客達は声援を送る。
「ほれ。あやつらじゃ」ジャンネは二人に告げる。
「ほんとだ! あんな楽器見たことない」エドも驚いている。
「どんな曲をやるのかしら?」リンも拍手を送りながら言った。
挨拶も無く、何の合図もなしに、突然演奏がはじまる。
おう! と歓声がそこかしこから上がった。
何人かの客達が、テーブルや椅子を広場の隅に運んでいるのが見えた。
(なにをやっているんだろう?)というエドの疑問はすぐに解消された。
人々は、踊る場所を確保していたのだ。
同じことを察した人々が、踊るスペースを作るため、椅子やテーブルを引いてゆく。
いつしか多くの者が踊っていた。
「よいなぁ。平民も、貴族も、混血魔族までも一緒に踊っておる。これがまさに”平和”というものであろう」ジャンネは葡萄酒を煽り言った。
エドもリンも、音楽に合わせ自然に腰が動いていた。
「お主らも混じって来い!」ジャンネは言った。
「え? でも……」
「ジャンネさんも行きましょうよ」
「わらわはこれがあれば満足じゃ」ジャンネは瓶を高らかに持ち上げ言った。「それに、わらわは踊りがどうも苦手じゃ」
「エド行こう!」リンが言う。
「あ! でも」そう言ってエドはジャンネを見ると、シッシッ、と追い払うような仕草をしていた。
すでに一曲目は終わった。
人々は次の曲を待ちわびている。
「でも、そういえば、僕、踊りなんて……」
「大丈夫。私が教えてあげる!」リンは言った。
次に始まった曲は、ゆったりとした三拍子の曲だった。
観客達は、男女のカップルになり、思い思いにそのリズムに身を任せていた。
「いい? 私の真似をして」リンは言う。「エルフの踊りなの」
「わかった」向かい合い、両手を繋ぐリンにエドは身を任せる。
「足を交互に! いち、にー、さん、にー、にっ、さん! いち、にー、さん、にー、にっ、さん……」
二人はくるくると回る。
「そう。ステップはそれでいい! はい。いち、にー、さん、にー、にっ、さん、いち、にー、さん、にー、にっ、さん……」
二人は人々の中を流れてゆく。
「お、おい……、どうだ? こんな感じか?」エドは戸惑いながら聞く。
「そう! ステップはいい! でも、上半身が硬い。もっと、水に流れるように、風に吹かれるように。音に身を任せて!」
エドは意識する。
風になる、水になる。そして、このエルフの少女と一体になる。
二人はくるくる、くるくると、人々の隙間を、踊り流れてゆく。
いつしか、人々はその幼い二人が踏むステップに触発され、真似して踊りだす。
それを驚いた表情で見ていたのが、リドリーをはじめとした、楽隊員だった。
観客に触発され、自然とそのテンポが速まってゆく。
人々は巨大な渦となり、さらに楽隊の奏でる音楽を加速させる。
曲が終わる頃、リドリーは視線だけで楽隊員達に「もう一度だ!」と指示する。
ここで踊りを止めさせてはいけない。観客の熱は今が最高潮なのだから。
演奏が終わり、それでも、”まだ足りない”とばかりに人々が舞台に向かい貪欲な歓声をあげ続ける。
楽隊員も疲れ果て、それでも、もう”次の曲がない”歯がゆさを噛み締めていた。
その時、リドリーが言った。
「新曲をやろう……」と。
「……でも、あれはまだ未完じゃ?」楽隊の一人が聞く。
「いや。今完成した。皆の者、リズムをあの”二人”に合わせよ」
「あの二人?」楽隊の面々は顔を見合わせた。
「あそこにいる、幼い二人だ」
そう言って、リドリーは少年と、エルフの少女を舞台の上からチラリと見た。
客席はどよめいていた。
まだまだ踊り足りないのに、楽隊は何やらヒソヒソと舞台の上で相談を始めている。
しかし、それはあっという間で。楽隊は、さっ! と弦楽器を構える。
またも、合図も号令もなしに演奏がはじまる。
リンとエドはすかさず反応する。それは、リンが得意とする三拍子のリズム。自然とステップが速くなる。旋律につられ、足が跳ねる。
人々も同調する。
リドリーは舞台から客席を見下ろし、演奏を続ける。
(素晴らしい世の中になったものだ。エルフと人間が手をとり踊るとは)
ダークエルフに虐げられた歴史を持つ”最北の民”達でさえも、その瞳に涙を湛えながら演奏を続けた。
「エド! この曲、なんだかいいね!」
「よくわかんないけど! 凄く楽しい!」
幼い二人はただ音楽に急き立てられ踊る。
そのステップは段々と速くなり、もっともっと”跳ねて”ゆく。
リドリーはその未完の譜面に終曲を書き足すことを決意した。
それは、譜面の一番最初を飾るべきはずの、曲名。
曲名は、そう、
『エルフと少年のワルツ』