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(4)

 翌朝、ティッカはいつも通りの時間に目を覚ました。星紡ぎ達の朝は大抵遅い。夜通し作業をして、眠りにつくのは朝方だ。一日が始まるのは、昼近くになってからである。ティッカは師匠より少し早く起きて、掃除やその日の仕事の準備をしておく。それが習慣だった。今日は出来上がった御守りをいくつか村に届けなければいけないのと、昨日依頼を受けたものを整理しておかなければ。やるべき事を頭の中で整理しながら、ティッカは眠い目を擦り階下に降りる。その途端に、ティッカの意識は一気に覚醒した。

「ああ、おはようティッカ」

「師匠、おはようございます……えっ!?」

 箒を握る師匠姿にまず目を疑い、次いでティッカは時計の針を確認した。村人達よりは少し遅めの、星紡ぎとしては早めの朝。寝過ごしたわけではない。レドがいつもより早く起きて、ティッカの仕事である雑用をこなしているのである。慌てふためくティッカを見て、レドはさもおかしそうに笑った。

「そんなに焦らなくても大丈夫だよ。とりあえず、座りなさい」

 彼に師事してもう何年も経つが、こんなことは初めてである。何かとものぐさするきらいのある人なので、尚更ティッカは混乱した。しかしそれに対してレドは至って平常通りで、ティッカは戸惑いながらも彼の言う通り席に着いた。レドも一旦箒を置きティッカの正面へと腰掛ける。

「今日は、こちらの仕事は休んでいいから。ノクスの森へ行きなさい」

「……ノクスの森へ?」

 レドの意図が掴めず、ティッカは告げられた内容を反芻した。ノクスの森は村の西にある、星紡ぎの聖地として語られる森だ。星の降る森、と呼ばれることもある。星紡ぎが一人前と認められるために、とある試練を与えられる場所だ。

 そこまで思い出して、ティッカは疑念の籠もった眼差しを師へ向ける。レドの顔つきは神妙だった。いつも仕事を頼まれる時とは、明らかに雰囲気が違う。だが、まさか師匠がそんな馬鹿げたことを言うはずは無い――しかし、ティッカの祈るような思いを、レドは見事にへし折ってくれた。

「そうだ。《守護の石》を、探しておいで」

「――無理です!」

 気が付いた時には、既に叫んでいた。《守護の石》は、星紡ぎの証。それに相応しい実力を持つ者だけが見つけられる、星紡ぎの力を助けるものだ。自分はそれに当てはまらない。ティッカは星の加護を失った、星紡ぎのなり損ないだ。行ったところで石を見つけるどころか、森でさまよい続けるしかないというのに。 

「師匠だって、僕が力を使えないのを知ってるでしょう。行ったって、無駄に決まってる!」

 腰を浮かせて、ティッカは訴えた。そう、ティッカが力を仕えないのは、レドとて重々承知のはずなのだ。なのに星紡ぎの試練を受けろなど、どういうつもりなのか。結果など分かっている。良くて見つけられずに帰ってきて惨めを晒すか、悪ければ森で野垂れ死にだ。それとも、彼はそれを望んでいるのだろうか。力を失い、取り戻す兆しさえ無い弟子に、愛想を尽かしたのだろうか。

「ティッカ、落ち着いて。話を聴きなさい」

 宥めるように、師はティッカの肩に手を置いた。だがそんなものは気休めにもならず、ティッカは目の奥の方が熱くなるのを感じた。嫌だ、何も聴きたくない。そう泣き喚きたかった。なのに、レドの穏やかながらも強い口調がそれを許さない。

「……ティッカ、もう二年も経つんだよ。そろそろ前を向かなくては。お前は力を失った訳じゃない。目を塞いで、見えなくなっているだけだ。ノクスの森へ行けば、きっと星の導きがあるはず」

 レドの言葉が、ティッカに重くのしかかる。なぜ、そんな風に言い切れるのか。師には解らないのだ。暗闇を照らしていた煌めきが突然に消え、何も見えなくなる感覚は。今までどれほど手探りで歩こうとしても、元の場所には戻れなかったのに。どうして、これ以上の闇の中に迷わせようとするのだろうか。光の見えないティッカには、この塔と師匠しか寄る辺は無いというのに。

「ティッカ、行きなさい。お前なら大丈夫だ」

 師の声には、有無を言わさぬ響きがあった。首を振っても、ティッカを森へ放り出すくらいのことはしそうな気がした。もう、腹を括るしかないようだ。

「……解りました。行きます、ノクスの森へ」

 渋々ティッカは頷き、静かに目を伏せる。この先、自分がどうなってしまうのか――想像する事も出来なかった。

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