表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
破滅論理のホメオパシー  作者: shino
プロローグ
1/1

プロローグ

 それ(・・)は、僕の知る限り最も美しい死体(・・)だった。


 色素の薄い金髪がベッドからこぼれ落ちる。細い髪が幾重にも、さながら滝のようにシーツの大地を流れて、床にまで広がっていた。その隣に、美しい金とは真逆の毒々しい赤色が、同じように流れ落ちている。人形のように無機質な美しさと、生々しい人間の内部とが、まるでお互いを引き立て合うかのように。


 磨かれた大理石の床。そろえられた簡易的な靴は、眠る少女が自らの足で外を出歩かなかったことの証明のようで、すこしだけ物悲しくなる。まるで儚さの根拠だ。


 ベッドの上に眠る少女は、手を組んで天蓋を見上げ、まるで神に祈るように目をつむっていた。寝顔にでも見間違いそうな、安らかな顔。そこに呼吸している人間独特の気配がないことを、僕は正しく認識していた。そして、呼吸を読む必要もない。


 組まれた手が乗っているお腹の、さらに上。そこに、十字架のようにも見える立派な造りの(つば)の、銀色の装飾剣が突き立っていた。かすかに傾いでいるが、けれどまっすぐに少女の胸に突き立てられただろうことに疑いの余地はない。あれは多分、刺されてから、その後ですこし傾いただけだ。そこから流れる血はおびただしい量に及んでいて、その少女が死体であると、見る人全員に理解させた。


 息を飲む。僕だけではない。踏み込んだ全員が。


「おい、どうして……なんで……」


 男が悲しみに暮れた声で訪ねる。けれど、答えを持っている人はいない。誰もその問いに答えられない。


 未雨月。閉ざされた島で、僕はこうして、美しい死体に遭遇したのだった。




 ———— 破れた毒膿 #13

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ