海の老人と異世界の器のそばに
私は天上より箱庭の世界を観測する。
それは壁に囲まれた夜の海で満たされた世界の器だった。
水底には何か得体のしれないものが漂い、しかしその真ん中に衣にくるまれた老いたものが半分浮かんでいた。
月も浮かばない真っ暗な海にただ一人ぽつんと漂うその様は、ただひたすらに寂寥感を覚えさせ、何とかしなくてはならないという強迫観念にとらわれてしまう。
他者の世界に手を出すのは暗黙のうちに忌避される行為であることは理解しながらも、私は井の中のそれをすくい上げずにはいられなかった。
慌てて拾い上げたそれは、濡れた衣は剥げ落ち、晒された真っ赤な肉が否応もなく目を引く。
しまった。遅すぎたのだ。
「勝手に海老天を取ってんじゃねーよ。海老天なければただのかけそばだろうが」
とりあえず、私は椎茸を差し出しておいた。
「いや、全然等価交換になってないし!エビ返せよ!」
今日も寒い。こういうときは暖かい海老天蕎麦に限るな。
関東風のツユは濃すぎ。真っ黒だよね。
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