渚が入院!?
江海が捻挫をしてから一週間が過ぎた日、江海は午前中の授業を休んで病院に行く事になった。
足がどうなっているのか、見せに行くのだ。
江海は診察室の中、医者と向き合う。
「もう大丈夫ですよ。普段どおり、学校で体育や部活やってもいいですよ」
医者は比較的ゆっくりとした口調で言ってくれる。
「ありがとうございます!」
江海は嬉しくなってつい大声でお礼を言ってしまう。
「治ったばかりなのであまり無茶はしないように…」
嬉しそうにする江海に医者は釘を刺す。
そして、診察を終えて病院を出る。
一旦、家に帰るとホッと一息つく。
(やっと治ったんだ…。今日、思いっきり部活がしたいけど無茶はしないようにって言われたから、軽くバドミントンするだけにしようかな?)
江海はそう思いながらそっと時計を見る。
今は午前十一時前で、昼からの授業までには少し時間がある。
まだ学校に行く準備をしていない江海はそそくさと準備をし始めた。
今日の授業が終えて部活に渚と夏子と向かう事になった江海。
午後からの授業しか受けていない江海は、学校で勉強したという気分にはならなかった。
「江海が体育や部活が出来るようになって良かった。今日から思いっきり部活が出来るね」
夏子は笑顔で言う。
「うん。でも、病院では治ったばかりだから無茶しないようにって言われてるから少しだけ参加しようって思ってるんだ」
「そのほうがいいかも。捻挫って聞いた時はビックリしたもんなー。骨折じゃないよりマシだったのかもしれないけどね」
渚も江海の足の捻挫の直りを喜んでいる。
「そうだ! 今日の部活が終わったらケーキ屋さんに行こうよ!」
江海は前に行ったケーキ屋さんに行こうと提案する。
「今日は渚がダメなんだよね」
夏子が意味ありげに渚の肘をつついて言う。
そう言われた渚は顔を赤くする。
「渚、何かあるの?」
江海はキョトンとした顔をしながら渚を見る。
「うん…ちょっとね…」
歯切れの悪い渚。
「ちょっとねって…なんなのよ?」
「渚、江海には言ってなかったでしょ? 言っちゃえば?」
「そうだね。実はね、今日の部活が終わった後、彼氏と約束してて…」
照れ笑いをしながら言う渚。
「彼氏!?」
渚の急な告白に江海は驚いてしまう。
「いつから!? どこで知り合ったの!? 同じ学校の人!? どんな人なの!?」
完全に芸能レポーターみたいに渚に質問攻めをしてしまう。
「他校で同級生で去年から付き合ってるの。付き合って一年ぐらいかな」
渚は顔を赤らめて答える。
「去年の秋のバトミントンの試合の時に私立の高校と試合したんだ。その時にその高校の応援に来てた男子高校生に告白されたんだよ。川瀬君っていって素敵な彼なんだよ。渚、バトミントンの試合に出てて、過去に三回ぐらいその学校と試合した事があって、ずっと渚の事を見てたんだって!」
夏子が補足して言う。
「そうだったんだ…」
(渚に彼氏かぁ…。ずっと見てただなんて羨ましいな)
二人の会話を聞きながら幸せに浸っている江海。
「それだったら仕方ないよね」
「せっかく誘ってくれたのにごめんね。この埋め合わせは必ずするから!」
渚は自分の前で両手を合わせて謝る。
「いいのよ。楽しんでおいでよ」
江海は自分まで嬉しく思いながら頷いた。
江海の足が治ってから数日経った日、江海が学校に着くと江海のクラスが騒がしいのに気付いた。
江海はわけがわからず、教室に入る。
「江海!」
先に来ていた夏子が血相を変えて江海に近付く。
「夏子、どうしたの? 何かあったの?」
自分の机にカバンを置きながら夏子に何があったのかを聞く江海。
「渚が…渚が…自殺未遂しちゃったのよ…!」
夏子の衝撃的な告白に、江海は自分の周りの時が一瞬止まったような気がした。
「渚が自殺未遂!? どこで!? なんで!? 何があったの!?」
江海はわけがわからなくなる。
「場所は学校の女子トイレの中で刃物で自分の手首を切ったみたい。江海が来る少し前に救急車で運ばれたんだ。他の女子が言ってたけど川瀬君の事でみたいよ。最近、川瀬君に好きな人が出来て、揉めてたみたいだから、それが原因かもって…」
夏子は早口で江海に言ってしまう。
(どうして!? どうしてなの!? 渚に限って自殺未遂だなんて考えられないよ)
江海はウソだと思いたい気持ちと信じられないという気持ちが交差していた。
「夏子、どこの病院なの?」
「駅の近くの病院らしいよ」
夏子の答えに、女子の一人が、
「みんなで行ってみる?」
夏子同様、血相を変えて提案してみる。
「行ってどうするんだよ?」
「そうだよ。行って、西村が助かるのかよ?」
男子が文句を言う。
(確かに男子の言うとおりだけど、渚の事が気になる。きっと授業なんて受けてられないぐらい気が気じゃない)
江海は男子の言う事もわかるけど…といった心境だ。
「でも、気になるもん!」
「帰りにでも病院行けばいいだろ?」
「私達は待てないよ!」
「何わけわかんねーこと言ってるんだよ!?」
男子は女子が言ってる事がわからないようでケンカ越しで言う。
「とりあえず、落ち着いて!」
学級委員長がクラスを落ち着かせようとしている。
「私達、女子だけでも言ってみよう!」
「行こう!」
クラスにいる女子だけで病院に向かう事になって廊下を走り出す。
それを見た先生が、
「コラ! 君達! どこ行くんだ!?」
大声で聞いてくるが、江海達は無視して病院に向かう。
(渚が川瀬君の事で自殺未遂…。私に付き合ってるって言ってくれた時、嬉しそうな顔してた。幸せそうな顔してた。それなのになんで…? あの時には川瀬君に好きな人がいるって渚は知ってたのかな? もし、知ってたら辛すぎるよ…)
病院に着いた江海達は、渚がいるという手術室の前にいる。
(渚、自殺しようとした時、刃物を持った時、一体、何を考えてたの? 川瀬君が好きな人が出来たのが原因なのかな? 渚、教えてよ。渚が自殺しようとした理由、教えてほしいよ)
江海は友達が自殺未遂をした事に胸を痛めていた。
「渚、どうなっちゃうんだろうね」
女子の一人がポツリと呟くように言う。
「そうだね。助かって欲しいよね」
「私達がいながら渚の事、何も出来なかったよね」
「江海と夏子は何か聞いてないの?」
「私達は特に…ねっ、江海?」
「うん。渚、いつもどおりだったし…」
暗く響いている江海達の声。
どうしていいのかわからず、祈るしかない。
それから手術室から出てきた渚はグッタリとしていて、予断は許さないといった感じで、とりあえずは安心だ、と医者から言われた江海達はホッとして学校に戻る事にした。
「渚、助かって良かった」
「そうだね。それより、早く戻らないとヤバくない?」
「それは言えてる。走ろう!」
江海達は急いで学校に戻る。
学校に戻って教室に入ると、
「君達、どこ行ってたんだ!?」
学年主任が江海達を睨みながら聞いてきた。
「す、すいません!」
江海達全員、学年主任に頭を下げて謝る。
「頭を下げろなんて言ってないんだ! どこに行ってたんだというのを聞いているんだ!」
学年主任は大声で怒鳴る。
「西村さんが自殺未遂したと聞いたので病院に行ってました」
夏子が代表で答える。
「そんなところに誰が行っていいなんて言ったぁ!!??」
夏子の答えを聞いた学年主任は、更に怒りを増して大声になる。
その声は廊下まで響いている。
「西村さんが心配だったので…」
「帰りに行けばいいことだろ!?」
「本当にすいません」
「もういい。とりあえず、席に着け!」
学年主任はムッとした声で言うと、担任が来るまで待つように、と一言だけ言って教室を出て行った。
「西村、どうだったんだよ?」
学年主任が出て行ってすぐに一人の男子が聞いてきた。
「手術して、予断は許さないみたい。助かったから一安心って感じで先生は言ってたよ」
「そうなんだ」
聞いてきた男子はホッとした声を出す。
それを聞いた他の男子もホッと胸を撫で下ろしているのがわかる。
健吾も安心したように江海に微笑んでいる。
(健吾君も安心してるんだ。そりゃあ、そうだよね。同級生が自殺未遂したんだもん。心配になるし、助かったら安心するよね。私達が病院に行く前、行っても仕方ないって言ってた男子達も安心してる。あ、そうだ、英語のプリントの提出日だったんだ。まだやってないよ。英語の授業は五時間目だし、昼休みにでもやっておかないと…。でも、渚が助かって良かったよ。渚が助かって安心しきってるよ。渚、早く元気になってね)
江海はホッとしたのと同時に、渚がよくなってくれるように願うのみだった。




