影踏み
「-ーオニさんこちら」
僕の背後に立った女の子はそう言った。
振り向いて僕は訊く
「君は誰?」
「私は、あなた」少女は笑って「あなたは、私」
少女は風に髪を撫でられながら、
嗤う
「お兄さんがオニだよ、追いかけないと」
「……なにを?」
「決まってるじゃん、私をだよ」
正体不明の少女は、そういうと少年に背を向け、走り出した。
段々と笑顔が遠のいて、蜃気楼のように遠くで揺れていた
風が吹くたびに見えなくなりそうになって、僕はその度に少し駆けた
「おーい」と、後ろから声がした。
振り向くと、僕にそっくりな男の子が走ってきていた
「なんですぐに行かないの?」
「んー、まだ見えてるからね。……ところで、君は誰?」
僕にそっくりな少年は一度僕を舐めるように見てから言った
「ボクは貴方じゃない人だよ」
頭の中を疑問が泳ぎ回る
「うーんと、じゃあねー……ここによく跳ねる球ががあります!」
小さな少年はポケットに手をいれてから、大きく突き出した
手のひらの上にはピンポン球くらいの大きさのスーパーボールが乗っていた。
少年はそれを握って、
「お兄さん、これなに色に見える?」と、言った
一瞬質問の意味がわからなかった僕は黄色ーーに見えたーーのスーパーボールの入った手の中に視線をやってから
「黄色、かな」と、言った
「そっか、お兄さんには黄色に見えるんだ。元気の出る色だよね黄色って。」
少年は自分の手を見ながら続けた
「僕は青色に見えるんだ、これ」
と、区切って「青色ってさ、空の色とか、綺麗なイメージあるけどさ、なんか、冷たいよね」と、言った。
少年は何処か寂し気に空を見上げる
なんだかやり切れなくなって僕は言葉を紡ぐ。
「……そんなことないと思うよ」
「え……?」
少年が驚嘆と侮蔑を含んだ視線を向けてくるのがわかった
「人は見た目によらない、っていうじゃないか。青色は寒色って言われてるけど、人を落ち着かせられたりするんだよ」
「ふぅん、それで?」
「だから、君も見た目によらずいいとこあるのかもね、っていうさ」
僕はそういうと慣れていない愛想笑いを少年に向けた
「へえ、なんだかお兄さん面白いこと言うね。ありがとう」
少年は笑って、くるりと一回転する
「でも、あの子もうすぐ見えなくなっちゃうよ?追いかけないと」
「そうだね、そろそろ行くよ」
「またねー」
少女の手が揺れる。
手招くように、払いのけるように
僕は彼女に追いついてみせる。
今日は久々に自分が自分でないみたいだ
僕は青色に見える空の下、不器用に走り出した
いつか僕は僕に追いつけるのでしょうか
Twitter:@dakusanno