ショートストーリー:勇者とドラゴン
ドラゴンの棲む宮殿を舞台にした死闘も、ついに終わりを迎えようとしていました。
剣を折られた勇者はもう立つ気力も残っておらず、ただ、石畳の上で倒れているだけでした。
勇者は虫の生きで、息をする度に、喉から頼りないひゅうひゅうというおとがしました。
勇者の腹にはドラゴンの爪が食い込んだ跡があり、そこからは血が止めどなく流れていました。
一方、ドラゴンは右足に剣の刺し傷をおっていましたが、彼は一命をとりとめていました。
ドラゴンは抉れたり、魔法で焦げたりした宮殿の内装を見返すと大きくためいきをつきました。
そして、彼は右足をかばうようにして勇者のもとまで歩いていくと、その顔を覗き込みました。
「おい、聞こえているか。勇者」
勇者は力無く、頷きました。
「皮肉なものだよ。似た者同士で殺し合いをしなければならないなんて」
ドラコンは、つい先程まで戦っていた相手をまじまじと認めました。
合金の防具で守られていても、その存在感を隠しきれない、鍛えられた体。
折れてしまった今でも、その輝きを失わない剣。
傷だらけになりながらも、歴戦の騎士の貫禄を思わせる盾。
そして、闘志に燃えていたその瞳。
「お互いに、強くなるためにモンスターを倒して、金を貯めて」
「それで、他の奴から選ばれていい気になったりしてな」
途切れ途切れに勇者がそう言いました。
「たまに仲間なんかもできたりしてな」
「皆、倒してしまったけれどな」
そういうと、ドラゴンはふふふ、と笑いました。
「俺たち、どうして敵同士になってしまったんだろう。
もう少し、ことが別の方向に動いていたなら、きっと良い友達になれたかも知れないのに」
「今度出会ったときには友達になろう」
勇者の顔に笑みが浮かびました。
「そして、一緒に日のあたるところでお茶を飲んで、話をして」そこまで言うと、勇者は咳ごみ、血を吐きました。
「でも、今回はもう、仕方ないのだよ。お互いに、もう戻るできない一点を越えてしまった」
ドラゴンの言葉に、勇者は、
「ああ、分かっているよ」と言うように頷きました。その頷きの中には、深い諦念の思いが込められていました。
「だから、せめて最後は痛くないようにする」
そういうと、ドラゴンは勇者の首をその強靭な顎でくわえこみました。
「ありがとう」
それが勇者の別れの言葉でした。
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