……本当に女の支度か?
連続したブザー音が耳元で鳴る。
本日1回目のアラームをiPhoneの画面をスライドさせて切って、もう一眠りしようとしたら「起きろ!」って上半身から布団を剥がされた。
「……寒っ」
自分の体温が移っている布団が恋しくて手を伸ばすが、それはがっちり押さえられて全然上がってこない。
「……まだ寝れるんじゃけぇ、平気っちゃ」
布団を引き上げる事を諦め、身体を布団の中に潜り込ませて、できるだけ小さく身体を丸める。
「だったら、鳴ってた目覚ましは何だ? もう出掛けるまで1時間を切ってるんだぞ? 支度できていなくても待たないからな!」
「大丈夫っちゃ」
アラーム設定は全部で3回。1回目は無視ってOK。2回目が鳴ったら、とりあえず意識を覚醒させていく。3回目は、布団から出ないといけない時間。
頑として動かないうちに痺れを切らして、部屋を出て行く気配を感じながら浅めの眠りに落ちた。
2回目のアラームは1回目と違って、甲高いソナー音。
耳障りなその音をしばらく聞いて、画面のスライドで切る。
布団の上で身体を起こしてあぐらをかくと、その上に枕を乗っけて、更に左肘を乗せて頬杖を付く。右手にはiPhone。
メールの確認の後、インターネットブラウザをクリックし、開きっぱなしの複数のページをスライドさせてソーシャルゲームを表示。
マイゲームの中から、毎日ゲームにインする事によって体力の減少が抑えられ、アイテムも貰えるという特典付きの物を開いていき、その後でネットニュースも確認。
そうこうしているうちに3回目のアラームが鳴ったので、溜息を吐いた。
今日も1日が始まる。
両腕を上に伸ばして背伸びをしながら周りを見渡して、ここが松脇主任の家の一室だという事を思い出す。
「あぁ、それで主任に起こされたんだっけ」
うちの起動時間は遅い。寝起きに直ぐ起きれる人はシャットダウンじゃなくて、スタンバイやスリープからの復帰に違いない。
やっと全ての機能が使用可能な状態になったのを感じながら、もそもそと膝上まである大きなトレーナーを脱いで、布団の上に落とす。
下着姿で鞄の中からブラジャーを取り出して、キャミソールの肩紐だけ抜いてブラを付けていると「いい加減に起きろよ!」って声と共にふすまが開いて、速攻でバンって閉まった。
ふすまの向こうで呻き声が聞こえたけど無視して、ちゃんと服を着てから和室を出る。
「おはよーございます」
「おはよう。……その、悪かった」
少し視線を反らし気味に言われて「気にしてないからいいですよ」って答えたら、なんとも微妙な顔をされたけど、時間が無いので無視して洗面所に向かった。
歯磨きとメイクを10分くらいで終わらせてリビングに戻ると、ソファーに座る主任に「もう出れますよ」って一言かける。
「……早いな。……本当に女の支度か?」
後半はかなり小さく呟かれたけれど、うちの耳ははっきり拾う。
「効率的と行って下さい」
この言葉に主任の返答はなく、そのまま鍵を持って歩き出したので付いて行った。
「おはようございます」
主任が玄関の鍵を閉める間、側で大人しく待てをしていたら、隣のお宅のドアが開いて40代中頃くらいのおばさんが出て来たので、猫を2、3匹被ってご挨拶。
おばさんからも挨拶が返って来たけれど、それと一緒に少し好奇な視線も頂きました。
ですが、主任から『余計な事言うなよ』オーラを感じ取り、さっさと撤退です。
「初日からご近所さんと遭遇か……」
エレベーターの中でぐったりと呟く主任に「お隣の奥さんって噂好きですか?」って確認してみたら「知らん」って返って来た。
「大丈夫ですよ。何か言われたら『親戚』って答えておきますので」
「変な事は言うなよ」
「了解です」
敬礼で答えたら、めちゃめちゃ胡乱げに見られた。
2015/04/19 文頭にスペースを挿入しました。