表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/24

若い奴の思考回路は理解できん

 お酒が回って、いい気分になりながら、主任に愚痴を零す。


「うち、1人は寂しい人なんです。実家で暮らしてた時は、お母さんがずーっと家におったし、こっちで暮らしてもいっ君との2人暮らしじゃったけー気付かんかったけど、誰かの気配がないと落ち着かんのんよ……」


 うちが1人で暮らす部屋をなかなか決められなかったのも、完全に1人になるのが寂しかったから。かと言って、実家から通うには距離がある。


「宇田、酔ってるだろ? さっきから口調が標準語と方言入り交じってるぞ」


「んー、酔っちょーよ? でも、ちゃんと全部覚えちょるけぇー大丈夫。それでね、主任うちの事、()うてぇーね」


 身体を揺らしながら言えば、まだ少しだけ残っているあんず酒のグラスを主任に奪われた。


「あぁん。うちのぉー」


「五月蠅い、酔っ払い。マスター、こいつに水出してやって」


 おじちゃんもカウンターの向こうで苦笑しながら「ほら、お嬢。かぼす絞ってあげるから、水飲みぃ」って、グラスを手渡された。


「どうせなら、焼酎に絞って欲しいんじゃけど?」


「宇田はこれ以上飲むな」


「ケチんぼ」


「はいはい。ケチで結構」


 適当に流す主任を横目に、ぐびぐびと果汁入りの水を飲み干す。


「……でも、いい案やと思うんですよね? 主任の家って会社から近いんでしょ? お部屋余ってるって言ってましたよね? うちの事、置いてくれません?」


「あのな。普通は成人した男女が一つ屋根の下ってなると、同棲ってなるんだぞ?」


「違いますよ。ルームシェアですよ。た・だ・の同居です」


「世間的にはそうは思わないだろ」


「主任、古い。大体、そう思いたい人には思わせとけばいいんです。……あっ、もしかして彼女さん居ます?」


 彼女が居るんだったら、流石にうちが転がり込むのは気が引ける。


 でも主任の回答は「あのな、俺の会社拘束時間は宇田も知ってるだろ? 付き合う暇なんざ、どこにある?」ってものだったから、特に問題はない。


「それに、ルームシェアしたいなら女を探せ」


「うち、知らん女子と同居なんて無理やもん……。スイーツ(笑)な女子やったら無理やし……」


 スイーツ(笑)な女子とは、女性誌の特集に習った服装、行動をする女子の事。


 うちは、ブランドの新作バッグがどうの、化粧品がどうのって話には、あまり興味がないから、そーゆー系の人種は苦手。


「せめて『(さば)やナスで美味しい自炊生活』って言って料理を連想しない女子なら……」


「いや、お前なぁ……。せめてってレベルか? それ」


 鯖はサーバーの事で、ナスはファイルサーバー。自炊は本をスキャンして、デジタルデータ化する事なんだけど、うち的には一般的やと思うのですが、どうやら違うみたい。


 ちらりと手元のグラスに視線を落として、「なら、『かぼす』って聞いて『P2P(ピーツーピー)の?』って聞き返せる子は?」って聞くと、主任は「……条件が偏ってるな。もっと他に会話あるだろ? それかお互い干渉しないとか」って呆れ口調で返す。


「んー…。1から関係を構築するのが面倒臭いです、主任……」


「知るか」


 頬杖をつきながら、ぐずぐず言ううちに主任は相変わらず冷たかった。


-------


「じゃあね、おじちゃん」


「気ぃ付けて帰りーや」


「だいじょーぶ。ばいばぁーい」


 おじちゃんに手を振って、主任と道に出る。


「それで、今からチェックインできるホテル探すのか?」


「ん~、まぁ、てきとーに」


 主任やおじちゃんに構って貰えて楽しかったから、ホテルで1人になるのが嫌だった。


 ――ファミレスで時間を潰そっかなぁ。あー、でもちょっと寝たいんだけど……。

 ――早めに出社して、仮眠室で寝ればいっか。

 ――7時には鍵空いてるはずだから、後5時間切ってるし、ファミレスGo~。


「では、主任、また数時間後にお会いしましょう! ノシ」


 行き先を決めて歩き出したら「ちょっと待て」って止められた。


「なんですか?」


「宇田、ホテル取るつもりないだろ?」


「ありませんよ?」


 それが何か? って見たら、溜息を吐かれた。


「……今晩だけ泊めてやる。来い」


 ――おおっ! 本日の宿ゲットぉ~。


「今日だけなんですか? そのままうちの事飼いましょうよ?」


「宇田……。一応、女なんだから危機感持てよ」


「危機感ですか? だって、主任は安全牌じゃないですか」


「若い奴の思考回路は理解できん」


 主任は、右手で自分のこめかみを押さえながら首を振る。


「そうですか? あまり深く考えてないだけですよ?」


「ちょっとは考えろ」


「そーですね」


「……考える気ないだろ」


「ん?」


「ん? じゃない、ん? っじゃ……。まったく……」


 頭痛でも起こしそうな雰囲気の主任は、うちの顔をじーっと見た後、目を細めた。

 何か考えているみたいなので待つ。


 とりあえず、見られてるので見つめ返してみた。

 先に反らしたら負けって気がするから。うち、結構、人の事じーっと見るの平気。

 見過ぎて「その癖、やめなさい」って言われた事は何度かある。


 諦めた溜息を吐いた主任は「分かった。俺が飼ってやる」って言うと、うちの事を抱き寄せ……って違った。伸ばした右手で首の後ろをガッと掴んで「とりあえず帰るぞ」って歩き出した。

主任がやっと「飼ってやる」って言ってくれたぁ~。

1番初めは、残業中に「飼い猫になりたい~」って言う純玲に「飼ってやろうか?」って主任が言う流れだったのに、書き換えてたらなんかこんな事に……。


次回は鯖とかナスとかP2Pとか解説予定です。


2015/04/19 文頭にスペースを挿入しました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ