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愛想を尽かして、出って行ったのか?

「なんだ、別れてないじゃないか」


 仕事終わりに寄った行きつけの小料理屋のカウンター席。右隣に座る松脇主任に言われて、手元の揚げ出し豆腐を箸でぐさぐさ刺しながら「主任……。うちが早く帰宅できたと思いますか?」って睨む。


 お仕事は暇になったりしないのですよ。

 しかも元々忙しい所に加えて、プログラマーが1人飛びやがりましたことよ!


「川村……、あいつのせいでぇ……、いつもの仕事に加えてCOBOL(コボル)なんぞと戯れる羽目にぃ~!! せめてCとかJavaの仕事残して逝け!」


 COBOLもCもJavaもプログラミング言語。COBOLは古い言語で、うちはあまり使った事のない言語なのです。


「公共事業、もっと新しいシステムに変えた方がいいと思うんですけど!」


 銀行とか市役所とかって、未だCOBOLで汎用コンピュータ(メインフレーム)を使ってのシステム構築してるんだよね。


 元のシステムがそうだから仕方ないとは言え……、かなり面倒な仕事だったのですよ。


「大体ですね! 社会人として、いきなり会社に来なくなるはどーなんですかね? しかも退職届を郵送って、ありえんちゃ! ゆとり世代言われてますけど、もーちょっと、うちんがしっかりしちょるけぇ!」


 梅酒ロックを煽ってグラスを置くと、うちの剣幕にちょっと引き気味の主任に「まぁ、落ち着け」と宥められる。


「分かっちょるんよ? みぃーんな同じ条件やったんは……。ユウちゃんとこは、忙しゅーしちょっても、喧嘩もしちょらん。うちが何か足らんのは、分かっちょるんじゃけど……」


 ユウちゃんは、同じ会社でシステムエンジニアをしている笹川(ささがわ)雄大(ゆうだい)の事。社長の甥っ子で24歳。若手俳優にいそうな顔立ちをした彼は、実力も備わった人格者。


 学生の頃からバイトで働いていた彼は、経理課で働く社長夫人に『ユウちゃん』と呼ばれていた事もあって、うちが入社した時には『ユウちゃん』って呼び方が定着していた。


 そんな彼は、うち以上に忙しいのにマメ彼女との時間を作ってる。


「それで彼氏は、態度を改めるって言ったくせに全然変わってない宇田に愛想を尽かして、出って行ったのか?」


「えぇ、全くその通りですよ!」


 へーこーむぅー。


「それが1ヶ月半前。そして、彼氏の弟情報によると新しい彼女できたらしーですよ?」


 いっ君に別れたって聞いたニコから確認の連絡をもらったのが、別れて数日後。そして、新しい彼女ができたって連絡は、先週メールで知った。


「早いな」


「そーですか? 普通ですよ?」


「……そっか、前にテレビで見たけど宇田達は、別れて次の恋人ができる期間が平均0日って世代か……」


「0日は大げさやけど、比較的サイクル早めですね。まぁ、うちの周りの人間がそんなんばっかってだけやと思いますけど」


 視線を落とした先でiPhoneが新着メッセージの受信を告げる。画面をタップして開いて読み「まーじーでぇー」って呻いた。


「どうした?」


「うちの今日の宿が無くなりました」


「宿って、自分んちあるだろ?」


「あのですね、主任。確かにうちの切り替えって早い方ですよ? でも彼氏と住んでた2DKの部屋に1人で帰るのって、結構寂しいんですよ?」


 元々いっ君が借りていた部屋。いっ君が出て行くって言った時に「名義変更する?」と聞かれて、1人で2DKは広いから別の部屋を探すって答えた。


 でも、なかなか不動産屋に行けなくて、あっと言う間に賃貸期間終了ギリギリになったので、とりあえずすぐ必要な服や日用品は会社のロッカーと仮眠室の端をお借りし、あまり必要でない物は実家に送りつけた。


「うちは、絶賛ネットカフェ難民中です」


 干渉しないけど人が居て、個室があって、ネット環境完備。シャワーだって付いていて、漫画も読み放題なネカフェは最高!


「それで、さっきのは空き部屋がないって連絡だったのか?」


「Yes。ネットカフェバイト君からの連絡です。……やっぱり、会社に泊まれば良かったぁ~」


「お前なぁ……」


 主任の呆れた視線はいつもの事なので無視し、小料理屋の主人に「あんず酒のロックちょーだい」って注文。


 有名ホテルのコック長を勤めたあげた後、自分の店を開いたおじちゃんは「お嬢におまけ」ってあんず酒と一緒にレーズンバターをスライスした小皿もくれた。


「わはぁ~い。ありがと、おじちゃん」


 絶妙な塩加減のレーズンバターを摘みながら、今日の宿をどうするか考える。


「それで? どうするんだ? 泊まるアテはあるのか?」


「とりあえず、ビジネスホテル探して、なかったらファミレスで粘ります。……あぁ~ぁ、誰かうちの事、飼ってくれんやろうか……」


 カウンターにぺったりと頬を乗せて、主任の顔を眺める。


「……主任って、うちの事、恋愛対象として見れます?」


「はぁ? 俺はロリコンじゃないから無理。いくつ離れてると思ってるんだ? 一回りだぞ? 俺が20歳の誕生日を迎えた時、宇田は7歳か8歳だろ?」


 そう考えると犯罪ちっくです。


「ですよね? なので、主任。うちの事、飼いません?」


「断る」


 ――ちぇっ、いい提案だと思ったのに……。

俺姫で脇役の雄大は、今回も脇役w


お仕事どんなにきつくても、いきなりフェードアウトはマジで勘弁してください。

会社提供の携帯電話と退職届けが宅配で届き、本人行方不明とか……。某有名カラオケ店の支配人の失踪率も超高かったなぁ……。


2015/04/19 文頭にスペースを挿入しました。

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