純玲、別れよう?
方言入ります~。
ぶち=とても
久しぶりのお休みの日。夕方まで惰眠を貪り、寝過ぎて怠い身体を引きずりながらリビングに行ったら、夕日に照らされた明るいリビングのソファーにいっ君が座って、テレビを見ていた。
「あっ、いっ君。今日、お休みやったん?」
平日に振替休日を取ったうちは、久しぶりに起きている彼氏に逢えて、ちょっとだけ嬉しくなる。
でも、隣に座ったうちに視線も合わせない彼の態度に、違和感を感じた。
「どーしたん?」
纏う雰囲気が硬くて、ぴったりとくっつくのを止めていっ君を見る。
「あっ、髪切ったんじゃねぇ~。似合っちょーよ」
手を伸ばして短くなった髪を摘んだら「髪切ったの、1週間も前なんだけど?」って言われて、その手を軽く除けられた。
「そう、なんだ……」
いっ君の態度に、脳内で警告音が鳴る。この鳴り方は致命的なエラー!
思わず身構えたら、「俺、ここ出て行くから」って静かに告げられた。
「えっ? 出て行くって? どうして?」
ドクドクと刻む鼓動が不安を煽る。
「純玲に、俺って必要?」
いっ君の顔が、テレビからうちに向いた。
久しぶりにまともに会話する彼氏との間に壁を感じて、一瞬だけ怯む。でも、すぐに「必要ちゃ! ぶち必要じゃけん!」って訴える。
「本当に?」
「本当!」
こくこくと頷くのに、いっ君は全然嬉しそうじゃなくて……「ねぇ、純玲。俺達、いつからちゃんと会話してないか覚えてる?」って聞いてきた。
いつから?
聞かれて、考えて、すぐに出て来ない。
「もう1ヶ月以上まともに話してないし、すれ違いの生活してるんだよ? その前だって、何度も同じ様な事あったよな?」
「……うん」
「一緒に暮らし始めた頃は、お互いが忙しくても、ちゃんと時間を作ろうとしたけど、今は作ろうって思ってもないだろ?」
「そんな事……」
ないって言いたいのに、言えなかった。
確かに、いっ君より自分の睡眠時間や趣味を優先させていた。
近くに居るってだけで安心したと言うか、いつでも会える、いつでも話せる、いつでも~できるって思って、後回しにしてきていた。
「俺が1人暮らしを始めて、純玲が高校を卒業するまでの2年間、遠距離恋愛していた時の方がお互いの事を想ってたような気がするんだ」
いっ君は少し寂しそうに口元を歪めた。
「純玲、別れよう?」
「……嫌。嫌やもん……。なんで、そんな事……言うん?」
思わず涙声になるうちに、いっ君が辛そうに目を細める。
「いっ君は……うちの事、もう嫌いなん?」
いっ君の瞳に躊躇いが見えた。
「うちが忙しゅーしちょったんは仕事なんじゃけぇ、しょうがないやん? システム会社なんて不夜城なんよ? 確かに、一緒におる時間が短こーなっちょったんはいけんと思うけぇ、反省するけど、別れるなんて嫌やもん」
よく本やドラマで「仕事と私、どっちが大切なの!」って台詞を聞くけど、まさか自分が責められる立場になるなんて思ってなかった。
「うちは、いっ君の事が好きなんよ? いっ君は、嫌いになったん?」
「嫌いじゃないけど、好きかどうかも分からなくなった」
「そんな……」
いっ君は自分の中で結論を出してから、うちに「別れよう」って言ってる。
「なんで、もっと早くに言ってくれんかったん? なんで、そんな決めてから言うん? 別れるって決める前に、もっと2人の時間作ろうって言えば……」
「本当に? 純玲は、俺が言ったら時間を作った? 決める前にって言うけど、俺は純玲と時間を作ろうとしたんだよ? そうだよね?」
チクリと言葉が刺さる。
いっ君とのデートの約束を何度も反故したのは、うちだ。
「一緒の家に帰ってるけど、1人暮らしと同じだよ」
皮肉な笑いを浮かべられて、言葉を詰まらせる。
「……どうしても別れなきゃダメなん? うちが態度改めるって言っても無理なん?」
うちの態度が悪かったって思う。反省もする。だから別れるの止めて欲しいって思った。その願いは届いて「……分かった。もうちょっとだけ考える」って、判断を保留してくれた。
2015/04/19 文頭にスペース挿入しました。