愛してあげよっか?
ニコにお目当ての景品を取ってもらって、ほくほくしながら定食屋にやってきた。
「さっすが、ニコ! 大漁ですん」
4人がけのテーブル席に落ち着いた、うちの横の席にはゲームセンターのロゴが入った大きなビニール袋。中にはN.E.E.T.ジャージとTシャツ、リラックマの麦茶ポット&グラス2個セット、リラックマとコリラックマのバスタオル各1枚ずつが入ってます。うちだけだったら、絶対取れてない。
ここの定食屋さんは量がおおいので、うちのチキン南蛮定食からニコの一口大に切られたステーキ定食の皿の端っこへ2切れほど移動。ついでに「これもあげるー」と、ひじきの小鉢を押し出す。
「純玲、好き嫌いが改善したって言ってなかった?」
「したよー。でも、まだ嫌いな物はある! それが、鹿の尾の菜と書いてひじきである。まぁ、食べれなくもないんだけど、食べなくていいなら食べない。あっ、バナナは食べるの無理。後、ピーマンとアスパラと……」
次々と上げていく嫌いな食材名にニコが苦笑する。
「でも、食べるようになったものもあるんだよ? ナスとかトマトとかお刺身とかラーメンとか。1日1食から2食とおやつになったし、偉くない?」
昔は、ご飯を食べるという行為がとってもめんどくさかった。食べるより寝るほうを最優先していたうちは、ご飯の代わりに錠剤で栄養補給したらいくない? と思ってたほどだ。
これを主任に言ったら絶対に信じてもらえないと思う。今は、食べることが大好きだから。なんたって半人前の食事量で満腹になってたうちが、最近は1人前食べきるし、お酒が入ると2人前ぐらい食べる。
「うん、偉いね。じゃあ、偉い純玲に俺の肉を分けてあげよう」
ニコのお皿からステーキが1切れうちのお皿に移動する。
「ありがとー」
にっこり笑顔でお礼を言うと、2人でいただきますした。
「そう言えば、ニコはいつまで休みなん?」
もぐもぐと雑穀米を食べつつ、質問する。ニコは経済学部に通う大学生で、地元で暮らしてない。
「ゴールデンウイークは普通にカレンダー通りだから明日まで。だから明日の朝には帰ろうと思ってる」
「そーなんだ」
「いっ君には会ったん?」
いっ君の名前を口に出すと、なんだか少しだけもやっとする。
「昨日会ったよ」
「ふーん……。そっか」
どうだった? って聞いてもいいのかどうか躊躇って口を噤んだら、ニコが「兄さんの近況知りたい?」って聞いてきた。少し考えて「……いい」って拒否する。
いっ君が幸せでも不幸せでも、うちの心に細波が立つ。チキン南蛮を箸でぐさりと刺して口に運んだら、ニコの手が伸びてきて頭を撫でられた。
喉の奥がきゅってなって、目の奥が熱くなったから、「へこんじょーところにされると、くるんやけど……」って不満声で訴えた
なんとなく寂しい。
なんで、あっさり次の彼女を作るん! って理不尽なことを思ったりするし、別れてちょっとは寂しがってよとか、そんなもんだったの? って思ったりもする。
「嫌いで別れたんじゃないし、消化しづらいよな」
「消化できてないんやろうか? あんまりいっ君のことは考えてはないんよ? ニコはいっ君と近いから、思い出しただけやもん」
「後悔してる?」
「んー、反省はしてる。うちが悪いし、過去に戻ってやり直したとしても、同じことすると思うんよ。じゃけぇ、結果は一緒なんと思うんよ……」
何度シミュレーションしても、BAD ENDにしかならない。
「なんかねー、色々ぐるぐるして、ぶち醜いんよ。うち、サイテーって思うことあるし。後悔ばっかりやし……。そのくせ、いっ君が居なくても普通に楽しく暮らせるんよ? うちのワガママってゆーのは分かっちょるんやけど、なんかね愛されたいんよ」
うちのぼやきにニコが「愛してあげよっか?」って言うから口を尖らせる。
「ニコは、うちのことをダメな子にするからダメ」
「そう?」
「うん。そーだよ。ニコはあまあまちゃんなので、うちはダメになるばっかりやもん」
脳裏に「宇田、悪いことは言わない。そんなお前のままでいいって言うような奴とは付き合うな。お前の場合、現状維持ではなく残念度が悪化する」って主任の声が響く。
「それに、うち、ニコのこと好きやもん。付き合ったりしたら、愛想尽かされるん分かっちょるもん。ニコまでおらんくなったら、嫌やし」
「熱烈な愛の告白だね」
「うん。好きよ。ニコ」
まっすぐニコの顔を見ながら言ったら、ニコも「俺も好きだよ」って返されて、2人で笑った。
「バカップルじゃん」
「言い出したのは純玲だよ」
「乗ったのはニコだもん」
くすくすと笑いながら食事を続ける。寂しい気持ちはちょっと薄れた。
あれ? このお話、ご飯率高い……?




