死肉を喰らえぇ~
「お肉♪ おっにく♪ おっにくぅ~♪」
ちゃんと片付けをしたうちは、定時帰宅してきた主任に妥協点を頂き、やって来ました、しゃぶしゃぶ屋!
畳のほとんどが見えなくなるほど散乱していた物を片付けるため、結構動いたのでお腹ぺこぺこ。メニュー表を見ながら、とりあえず載ってるの1種類ずつとか注文しちゃえる勢いですよ。
まぁ、食べ放題にするので、お腹に入るなら頼めるんだけどね。
「スープ、2種類選べれるんですって。何にしますか?」
「旨辛火鍋の3辛」
「はい、却下でーす!」
「聞いといて却下はないだろ、却下は」
「辛いのダメです! それなら、同じ赤色のトマトスープにしましょうよ!」
うちの提案に主任が微妙そうな顔をする。
「あれ? 主任トマト嫌いですか?」
「嫌いじゃないけど、しゃぶしゃぶでトマトスープ……」
「主任って、もしかしてトマト鍋も食べたことないです? いけますよ? 美味しいですよ? 締めにはリゾットもできますよ?」
美味しさアピールを続けたら、主任が折れてくれた。わぁ~い。もう1種類は鰹節と昆布のスープにしました。
勾玉を組み合わせた太陰大極図みたいな形に仕切られた丸鍋の中に赤と黄金のスープが入っている。
「そして、アンデス高原豚ぁ~。名前からして美味しそうであります」
皿に盛られた薄切り肉を見て、テンションが上がる。
「ほら、見てみろよ。綺麗な色してるだろ? これ死んでるんだぜ?」
向かいに座る主任がガクリと脱力したけど、「死肉を喰らえぇ~」って言いながら煮えたスープに肉を放り込んだら、メニュー表で軽く頭を叩かれた。
「ちょっ、暴力反対ー! 主任が叩いたから、お肉さんが鍋の横から落ちちゃったじゃないですか! でも、安心してください。我が国には『3秒ルール』と言う素晴らしい法律が……」
「勝手に法律で定めんな! 大体、地域によって5秒とか10秒とか時間がまちまちだし、今の会話で3秒は余裕で過ぎた。その肉は避けておけ」
「はーい」
おとなしく従って、火の通ったお肉をぱくり。
「うままぁ~。幸せっちゃね!」
にこにこしながら頬張る向かいで主任もトマトスープでしゃぶしゃぶしたお肉を食べた。
「どうですか? 普通にいけません?」
「そうだな」
「でしょー、そーでしょー。良かったです」
食べるなら美味しい方がいいもんね。
そして、美味しいご飯には美味しいお酒! 日本酒の貴を瓶で置いてたから頼んじゃいました。2人で720mlなら余裕ですし。
嬉しさのあまり、ぐふぐふ笑ってたら主任が残念な子を見るような目をしてた。
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「はふぅー。食べた、食べた。お腹はちきれるぅ~」
夜道をほてほてと歩きながらお腹をぽんぽん叩く。
「マジやばい。ぶちいい音がすんじゃけど!」
「お前、本当によく食ったもんな」
「美味しかったっちゃねぇ~。昨日もめっさ食べちょるのに、今日もがっつり食べて飲んで確実に豚まっしぐらやん!」
「あぁ、確実に腹肉になるな」
決まり切ったことだと頷く主任に軽く体当たりをかます……と、思ったら避けられた。チッ!
「お前、今、舌打ちしただろ?」
「えー? なんのことですかぁ? 仮にも上司様にそんなこといたしませんことよ?」
「ほほぉ、その上司様に体当たりしようとしてた奴はどこのどいつだ?」
「まぁ、そんな方がいらしたの? どこでしょう?」
きょろきょろと見渡すと、後頭部をべちっと叩かれた。
「しゅにーん、ダメっちゃ! どーするん? うちの脳細胞がぶち死滅したじゃん!」
「宇田の脳細胞はちょっと入れ替えた方がいいと思う」
「ちょっ、ひどっ! しかもマジ口調やし!」
でも、こーゆーこと色んな人からよく言われる。なんか残念なんよね、って。
「あぁ~、こんなうちでも受け止めてくれる人、どっかおらんやろうか?」
「宇田、悪いことは言わない。そんなお前のままでいいって言うような奴とは付き合うな。お前の場合、現状維持ではなく残念度が悪化する」
「主任がさっきから酷いんじゃけど……」
「俺は真実を言ったまでだ」
軽く唇を尖らせながら「真実過ぎて胸に刺さると思うんよね」って訴えたら、鼻で笑われた。
「じゃあ、うちをいい感じに操作できるような人ならいいと思います?」
「いい方向に操作するならいいんじゃないか?」
そんな人いるだろうか……? と考えて、はっ! と横を見る。
「主任、もしかして遠回しに自分を売り込んでます?!」
「はぁ? なんでそうなった?」
本気で呆れた口調に「ほら、主任ってうちのこと、上手い具合に転がすじゃないですか!」って言ったら、速攻で「断る。冗談じゃない。面倒見きれん」って返された。
純玲は酔うと、あまり使えてない敬語が崩れて方言入るです。友人にも方言。分からない方言ありましたら、ご連絡ください。ルビを入れるようにしますね。




