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むかしばなし

温かい目で見守ってください。

むかしばなし



夏祭りのにぎやかな雑踏の中、九つほどの少女が片手に林檎飴を握り、突っ立っていた。その少女はひとごみに揉まれ、ひとごみと熱気から逃げているようだった。

遠くからは祭り太鼓の響くような音と鈴の突き抜けるような音が遠くから聞こえてくる。

少女はその音から遠ざかるようにとてとて歩き、いつのまにか森に囲まれた涼気のある場所にたどり着いた。その森は静けさに包まれていて、少女はその静けさに耳をすました。

 かすかな音が少女の耳に入った。

少女はそのかすかな音に吸い寄せられるようだった。そのかすかな音はむせたり、鼻をじゅるじゅるといわせているようで、少女は怖くなって大きな声で叫んだ。

「だれ!?」

返事はなく、森の静けさに声は吸い込まれていった。

 少女の心には恐怖があったが、同時に好奇心もあった。少女は好奇心に身をゆだねて、泣き声のするほうへと足を進めた。


 森の狭い道を出たところは見たこともない神社がそびえていた。鳥居を抜けたところには、十人の大人が手をつないでも囲めないような神木がどっしりとかまえている。

 その神社前の石階段に子供がいた。ひざをかかえて、すっかり縮こまっている。服は薄汚く、ところどころ穴があいていた。

 少女の心から恐怖心がさっぱりと消えた。なぜなら、子供は自分よりも小さく五歳ほどだったからだ。

 少女は石階段をのぼり、子供の隣に座りなぐさめようと背中をなでて

「どうしたの?」と声をかけた。

 その子供はひっくひっくといい、顔をひざに押しつけたままだった。

「だいじょうぶ?どうしたの?」ともう一度優しく少女は聞いた。

 その子供は口をようやく開いた。

「この神社とりこわされちゃうの。」とかすかに聞こえるような声だった。

確かにこの神社は何を祀っているのかわからず、神社を管理している人も消え、荒廃しきっている。

「そうなのかぁ。ざんねんだなあ。私もよくここにあそびにきたのよ。」

少女はとっさに嘘をついてしまった。

子供は如何にもどうでもよいというふうに口を閉じた。

「あっ!そうだ。りんごあめいる?」

そういうと子供はこちらにばっと振り向いた。


 非常に整った顔がぼさぼさの髪からのぞいている。少年といえば少年、少女といえば少女と納得できるような顔立ちであった。

子供は目をきらきらと輝かせ、林檎飴を受け取った。林檎飴を一口かじると子供はこちらを向いてつぶやくように言った。

「ぼくの創造力をわけてあげるよ。」

「そーぞーりょく。想像力?いいなあ。ちょうだい?」

 子供はこくりとうなずくと少女の手をとり、なにやらわけのわからない言葉をぷつぷつとつぶやきはじめた。


 いつのまにか神社のまわりは白くよどんだ霧に包まれていた。いつしか、まわりは真っ白になり、見えるものは自分と目の前の子供だけになった。


「君に創造力を与えたよ。今から十年間、君は神様。」

と子供は左手にもうひとつ林檎飴を出現させた。

「はい。どーぞ。」

「ありがとう。」

少女は林檎飴をかじってみた。確かにそれは甘い林檎飴だった。

「君はなにをつくる?」

「そうねぇ。うーん・・・。」

少女はしばらく考えた後、口を開いた。

「手鞠がいいかしら。」

そういうと目の前にころんと手鞠が姿をあらわした。

少女は手鞠をつかまえて、自分のひざにちょこんとのせた。

「すごいわ!もっとつくってあそびましょう!」


二人は夢中になって遊んでいたが、少女は家へ帰りたくなっていた。

「ねぇ。私もう帰りたいわ。」

「え?カ・エ・ル?そんなことできないよ!」

子供の声が少し低く、暗くなった気がした。

少女は恐怖を感じた。

「君はあと十年ここの守り神だもの。」


「え?」

少女は聞き間違いかと思った。

頬に汗がつたった。

 

 子供はにっこりと笑った。

その笑顔の裏には狂気の影がちらついていた。


「君は守り神を終えたら、消えるんだよ。」


つけたすかもしれません・・・。

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