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第2話

 結局今までお父さんとお母さんがやってくれていた事は、弘幸さんと聡美さんがしてくれる事に。


「すみません。本当だったら自分達のお店をするはずだったのに」


「気にしなくてはいいわよ。あなたのお父さんとお母さんはお世話になったんだから」


「それに、2号店を出しても本店が潰れてちゃかっこ付かないからね」

 と二人は笑って言ってくれたけれど、そう言えばこの二人の関係はなんなんだろう?


 聡美さんは美人で女性としては背が高くすらっとしていてかっこいい。

 弘幸さんはハンサムと言えるか言えないかの微妙な顔だけど、やさしいし背も聡美さんと並んで様になる程度に高い。


 年齢が違うから会社の同期って訳でもなさそうだし、苗字が違うから結婚もしていないみたいだし、かと言って恋人同士でもなさそう。

 じゃあ、ただの会社の先輩と後輩? でも二人はタメ口だ。


 あまり突っ込んだ事を聞くのもためらうけれど、今度機会があったら聞いてみよう。


 担当は、弘幸さんがお父さんのやっていた厨房。聡美さんがお母さんのやっていた経理業務と調理補助とウェイトレス。

 わたしがウェイトレスとレジ。


 お店は白を基調とした内装。カウンター席もテーブル席もみんな白。


 道路に面するところは総ガラス張りで日の光が差し込み、出入り口とフロアーのすみに大きな葉っぱの観葉植物。


 こうしてお店は復活し、以前と変わらぬ毎日お帰りなさい。


 変わらなさ過ぎて、聡美さんの事をたまにお母さんと呼んでしまって聡美さんを困らせる事もあり、恥ずかしくて目に涙が浮かぶ事も有るけれど。


 このお店は住宅街とビジネス街の中間という、良く言えばいいとこ取り、悪く言えば中途半端な場所にある。


 いや、お店として住民を狙うなら住宅街、ビジネスマンを狙うならビジネス街とはっきりターゲットを絞った方が良いと思うのだけど、なぜかぬるい位置にあるこの店は繁盛している。


 今日のお昼もビジネスマンが大勢やってきて注文が店に飛び交う。


「こっち1312533(いに・さん・いち・に・ご・さん・さん)」

「まさちゃん! 25253(に・ご・に・ご・さん)ね」


「はい! 分かりました」

 とわたしは注文を取りまくり厨房へと伝える。


 なんの事かと思うかも知れないけれど、これはお店の名前の由来の番号システム。


 ちなみに初めの注文は、白ご飯、普通盛り、ビーフカレー、ルーやや少なめ、大辛、トッピングのウィンナー、ウィンナー(ウィンナー2本)。

 次の注文は、五穀米、大盛り、ポークカレー、ルー大盛り、辛口(普通)。


 お父さんや弘幸さんが言うにはこれが繁盛の理由との事。


 わたしは普通に大盛りとか辛口とか言って注文するのとなにが違うのかと思うのだけど、お客は「自分の番号」を持つ事で、自分がカレー通になったと錯覚するらしい。


 そう言えば、客席で隣に座る友人に、自分の番号(組み合わせ)がいかに美味しいか力説している人も良く見かける気がする様なしない様な。


 と思っていると早速テーブル席で番号談義の始まり始まり。


「どうして辛さが5(大辛)なんだよ!」

「カレーは辛さが命だろうが!」

「なに素人みたいな事言ってんだよ。辛すぎちゃスパイスの味が飛ぶだろうが!」

「お前こそ、ご飯を3(普通盛り)なのに、ルーの量が5(大盛り)ってなんなんだよ! それじゃルーの中でご飯が泳ぐだろうが! ルーばっかでご飯の味なんてしないだろ!」

「馬鹿やろう。だから辛さを2(やや甘口)にしてバランスを取っているだろうが!」


 おーい。そんなの個人の好みの問題だぞー。と店側から言ってしまっては身も蓋もない事を言いそうになるのをぐっと我慢する。


 しかし、自分の番号にこだわりを持っている人は自分の番号が一番美味しいと信じて疑わないらしく、毎回同じ番号を頼む。


 それだけだったら良いのだけど、中には「いつもの」とのたまうお客様もいらっしゃり、ウェイトレスとしてはうんざりする事はなはだしい。


 しかも、わたしがもう一度ご注文をと聞き返しても、

「いつも頼んでるでしょ?」と不退転の決意でいらっしゃる。


 仕方なしにお店でメンバーズカードを作る事にし、そこに自分の番号を書き込んで貰い、注文時にはカードを見せて貰う事にした。


 ただ、カードを見せる時人差し指と中指でカードを摘まんで顔の前に掲げかっこつけて見せるのだけはやめて欲しいと切実に思う。

 吹き出しそうに成るのを堪えるのが大変だから。


 お昼を乗り切ると、ビジネスマンは鳴りを潜め今度は住宅街からお客がやってくる。

 とは言ってもお昼時に比べれば全然人数は少ないのだけれど。


 なかでも困り者なのは、昔ネパールに戦争に行って来たとか言うCCCお爺さん。


 いつも捕まり何度も聞いた話を聞かされる。


 この時間はお客が少ないのでわたしがCCCさんに捕まっていても、フロアは聡美さんだけでお店は回るけど、逃げられるのなら逃げ出したい。


 ところが聡美さんが言うには、こういう住宅街のお客に悪い噂を流されると面倒なので、出来るだけ我慢しなさいとの事。


 仕方なく心だけでも現実逃避。今日も同じ話を聞きながら上の空。


「ネパールの子供達はみんな貧しくての」


「ふんふん」今日の夜ってテレビなにやってたかな……。


「クリスマスの日にも何のプレゼントも貰えんでな」


「なるほど」ああ、歌番組に好きな歌手が出るんだっけ。


「わしが子供達にプレゼントを配るとみんな大喜びでな」


「ほーほー」DVDに録画しようかな……。


「子供達から、戦場のメリークリスマスと呼ばれたもんじゃよ」


「うんうん」でも、録画するほどじゃないか。


「ちゃんと聞いとるのか!」


「なるほどなるほど」やっぱり録画しよう! トークもあるし!


「よし! 聞いてるな」


 こうしてCCCさんをやり過ごし、午後の3時過ぎにはお店は暇に。


 夕方の6時前まで暇なので、わたしと弘幸さんと聡美さん3人のうち順番に1人だけ表に出て来客に備え、他の二人は休憩。


 もしわたし1人の時に注文が来ても、カレーは弘幸さんが作ってくれていて、注文のあったカレーを手鍋に移して辛さを調整しながら暖めるだけなので、それくらいならわたしにも出来る。


 そして6時過ぎからまた少しお店が混んで、夜の9時に閉店。


 これがわたしの毎日でした。


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