さよならを伝えたくて
陽が明けきらない、少しツンとした冷たい空気の中。
シュンシュンと音を立てて、湯が沸く。
手元では、ガリガリと小気味よくコーヒーミルが回る。
挽かれた豆の香ばしい香りが、ふわりと漂った。
フィルターに豆を入れ、静かに湯を注ぐ。
キッチンに、じんわりとコーヒーの香りが広がる。
顔を上げると、テーブルに座る相方の姿が見えた。
湯気の向こうで、私の分のミルクと砂糖を用意している。
それが、二人の日常。
一日の始まり。
ふと目が合い、ふふっと微笑む。
コーヒーが仕上がり、カップを二つ持ってテーブルへ向かう。
すでに座っている相方の前に、そっとカップを置く。
かちゃり、と小さな音がした。
私も向かいに座り、視線を合わせる。
相方が、コーヒーのお礼にぺこりと頭を下げて笑う。
私もつられて、ミルクと砂糖のお礼に
ぺこりと頭を下げた。
和やかな空気の中でカップを手に取り、口にする。
鼻腔をくすぐる香り。
口に広がる香ばしさと、甘さ。
私のコーヒーはミルクと砂糖入りで、
少し甘い。
相方はブラック。
「甘くないの?」
昔はよく、そう聞かれていた。
「これが好きなの」
そう返すと、相方はいつも笑った。
今では、コーヒーを淹れていると
相方がミルクと砂糖を用意している。
頼んだわけでもないのに、
いつもぴったりの量を並べる。
不思議に思っていたら、相方は笑って言った。
「あなたの好みなんて、お手のものですから」
コーヒーは、いつも二つだった。




