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009 期待された

 他のパーティーが帰る準備を始めたのを横目に見つつ、俺はメイスを握りしめ、ロイネと一緒に窪地へと降り立った。

 装備を置いて身軽になったロイネがゴーレムに近づき1体を引き寄せた。ロイネの動きは普段より速く、攻撃が当たる直前に素早く回避、いや逃げるような動きだった。

 これが脱兎のスキルか。本当に速いな。彼女がソロの冒険者としてやってこれたのは、いざとなればこのスキルで生き延びることができる自信があったからかも。この逃げっぷりなら、防具はボロでも関係ないってのが見ててわかる。


「このあたりでいいかな。オルト、出番よ!」


 さぁ、俺の出番だ。オークより一回り大きい、身長三メートルに近い岩の巨人だ。その巨人がそれなりの速さでロイネを攻撃している。でもこの程度ならロイネに当たることはないだろう。落ち着いていこう。


「うわ!」


 よく見たらゴーレムを構成する岩と岩との間には隙間があって、黄色い光の筋で繋がっているのが見え、思わず驚きの声が漏れた。これがゴーレムを構成する魔法の力か。なんか感動だ。破壊するのがもったいない気分になるな。破壊するけど。


 俺はゴーレムの背後に回り込み、その大腿部を狙いメイスを渾身の力で叩きつけた。


 ガゴンッ!


 魔物と違って硬い。岩だから。手に痺れるような手応えが返ってきた。


「オルト、そこじゃない!  膝の関節になってる岩を狙うの! 大きな岩を狙っても無理よ!」


 ロイネの声が飛んできた。さっきのパーティーも膝を狙ってたな。つい何も考えずに、狙いやすい場所を叩いてしまった。次はちゃんと膝を……。


 ゴキャッ……ガラガラ


 今度は膝をと狙いを定めた次の瞬間、俺が叩いた大腿部の岩に亀裂が走った。その大きな岩が砕け、足を失ったロックゴーレムの巨体が横向きに倒れる。


 ズドドドーン


「うそ!」


 ロイネが驚愕の声を漏らす。砂埃の向こうで、彼女の目が大きく見開かれているのが見える。まさか一撃で倒せるとは。


「倒せちゃった」


 俺自身も驚きを隠せない。ギルド職員と帰る準備をしていた他のパーティーの冒険者たちが、その動きを止めてこっちを呆然と見ている。その顔にはハッキリと驚きの色が刻まれている。


 そして、もう一つ驚いた。俺が使っていたメイスが、使い物にならないくらい大きく曲がっていた。中央からくの字に折れ曲がったメイスを軽く降ってみるとバランスが悪い。これは流石に買い替えかも。


「あららー……」


 メイスに気づいたロイネも、残念そうな目だ。倒せたのは良かったけど、武器がなくなった。


「まさかここまでとは……オルトの身体能力ってどこまで伸びるんだろうね」


 俺もびっくりだ。これがどの程度なのか、自分の身体能力が、例えば冒険者の中でどのていどのものなのか、比較材料となる知識がないからわからない。だけど、ロイネや他の人の驚きようを見ると、すでにかなり高い身体能力になってるんだろう。




 遺跡からドンカセに戻る途中、俺たちは、今後どうするかを相談した。


「他のメイスを買っても、ゴーレムと戦ってたらすぐダメになるだろうね」


 ロイネが呆れたように笑う。

 確かにその通りだ。そして武器は安くない。少し考え、俺はギルドで見たあの巨大なメイスを思い出した。あれなら大丈夫な気がする。


「少し時間がかかるけど、ドルトンメイスを使えるように訓練するってのはどうかな」

「いいんじゃない? この依頼は焦る必要ないしね。でも、あれを身体能力だけで振り回せるようになっちゃったら、ちょっと人外の身体能力になっちゃうかも」

「そこまで?」


 身体能力が高いと言っても、普段はわかりにくいんだよね。普段の行動は今までとさほど変わらないけど、力をいれるとどこまででも力が入るって感じになってる。限界はあるけど。


「多分、あれ、アーティファクトだと思うんだよね。大きなメイスだけど、それ異常に重く感じたでしょ?」

「感じた。アーティファクトって、古代文明の遺物みたいなやつだよね?」

「そうそう」

「ドルトンって人は、そんな貴重なものを、置きっぱなしで行くんだ」

「重すぎて欲しがる人がいないんじゃない?」


 うーん、そうなのだろうか? 使えなくてもコレクターに盗まれたりするんじゃない? いや、持っていけるものなら持っていってみろって感じかも。もしくは、ギックリ腰って言ってたから、持って行けなかっただけかも。まぁいいや、使っていいってことなんだから、使わせてもらおう。




 俺はその日からドルトンのメイスを借りて、ギルドの訓練場で素振りを始めた。その重さは、まるで大きな鉄塊を振り回しているかのようだったが、俺は構わずに素振りを繰り返した。疲れ果てるまで振り、3時間ほど眠り、また素振り。それを続けた。


 そのサイクルを3日。俺は、超重量のドルトンメイスを、片手でも振ることができるようになり、両手なら野球のようなスイングで、いい風切音が出せるようになった。

 その様子を見ていたギルド職員や冒険者たちが、驚愕の目を俺に向けた。聞くところによると、ドルトンはメイスを使うために生まれてきたようなスキル構成をしていて、生まれ持った体格もあり「このメイスを使いこなせるのは世界広しと言えど、俺が一番だと豪語していたらしい。


「あんた凄いな。ドルトンよりいい音させてるよ」


 俺のスイングを見ていた冒険者に呆れ顔で褒められた。

 頑張ったからな。素直に嬉しい。


「あんたがいれば、瓦礫撤去もなんとかなりそうな気がするぜ」

「いつからやるんだ?」

「オルトがドルトン以上にやれるなら、瓦礫撤去も捗りそうだ」


 凄く期待されてる気がする。いやされてる。これは期待を裏切れない。というか、うまくやれる自信がある。振ってたらなんとなく分かった。このメイスは凄い。硬いものを叩くために造られたメイスだ。これならゴーレムも簡単に砕けるだろう。


「じゃぁ明日からやります」

「よし、じゃぁ人を集めとくか。期待してるぞ」

「はい!」


 期待されるのっていいな。頑張ろう。


「なんかオルトに追いつかれそうな気がしてきた」

「追いつく?」

「ランクよ。もしオルトが、ここのゴーレムを処理できちゃったら、間違いなくCランクに昇格よ」

「そうなんだ!」

「そりゃそうでしょ。そんな戦力をDランクにしとくわけないじゃん」

「俺、冒険者になったばっかりだけど」

「Cランクまでは、実力と実績があればすぐに昇格できるの。そこから先は、昇格条件と昇格試験をクリアーする必要があるけどね」


 冒険者の多くはCランクだ。Cランクの中で実力差はあるけど、そこから一歩抜け出して上のランクに行けるのは、本当に実力のある人だけってことなんだろう。しかし、俺としてはCランクになれたらそれで満足だ。

 冒険者として仕事の制限の無くなるCランクってのは、冒険者全員の最初の目標であり、一人前の証拠だ。でも俺のとりあえずの目標は、ロイネの役に立つ存在になること。知識不足、経験不足で迷惑はかけるだろうけど、戦力や荷物持ちとして役に立つ存在になりたい。役に立つ奴だって思われたい。

 そのためにも、ゴーレムをぶっ壊して、役に立つところを見せ、可能ならCランクに昇格して、ロイネに世話になってる男から、ロイネの役に立つ仲間に昇格しよう。



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