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005 オーク討伐

 ギルドでの一件から一夜明けて、俺はオーク討伐に挑むことになった。場所は、ゴブリン討伐を行なっていた森の奥。ゴブリンの生息域を抜けた先に、奴らの縄張りがあるらしい。

 ゴブリンを倒しながら奥に進むと、森の木がまばらになり、大きな足跡や粗暴にへし折られた木々が目立ちはじめた。


「もうオークの縄張りよ」


 ロイネが告げる。

 その顔に緊張の色はない。ロイネはオーク程度なら余裕で倒せるらしい。

 さらに進み、開けた場所にたどり着くと、巨体で緑色の皮膚を持つ豚顔の魔物、オークが姿を現した。

 ゴブリンとは比べ物にならない体躯は威圧感が半端じゃない。身長が2m30はあるな。体の厚みが人間のそれじゃない。


「オルト、焦る必要ないからね。オルトは多分、オークの攻撃じゃ死なないから」

「え……いきなり俺?」

「怖いの?」

「怖い」

「素直ねぇ。じゃぁ参考にならないと思うけど、私が先に倒してみせようか?」


 俺は大きく頷いた。打撃耐性が高いから死なないと言いたいんだろうけど、本当にそうでも怖いものは怖い。あの巨体がどんな動きをするのか、あの拳にどんな威力があるのか、考えただけで怖い。

 俺の常識的な思考では、この体格差は戦うべき相手じゃない。横綱と一般人の戦いだ。


「行ってくる。見ててね」


 ロイネがオークに向かっていく。

 まっすぐ向かっていったロイネにオークが気づき、鼻息を荒くして襲いかかる。ロイネは軽快な動きでオークの攻撃を躱し、いなし、その隙に背後へと回り込む。

 オークの防御力は高い。半端な攻撃では心臓に穂先が届かないと言ってた。ロイネはどんな攻撃で倒すんだ?

 と思ったら、オークの口から、槍の穂先が突き抜けてきた。その槍が抜き去られるとオークが大量の血を吐き、その動きを鈍らせる。その隙に、ロイネが足場の良い場所を選んで数歩下がり、そこから一気に踏み込んでオークの胸を突いた。


「ンゴゥ」


 詰まった断末魔の悲鳴をあげたオークが、ゆっくりと倒れ、ゴブリンの時と同じように、黒い煙となって消えていく。魔物って、不思議な存在だな。あれだけの質量があったのに煙になって消えるとか、どういう仕組みだ?


「私の場合はこんな感じ。弱点を突いて動きを鈍らせて、その後に急所を貫く流れよ」

「凄い! 手慣れた感じに見えた」

「ありがと!」


 ロイネの動きにもあらためてファンタジーを感じた。多分スキルの存在しない世界の人間には、再現が難しい動きだと思う。

 見えてない角度からの攻撃も当たり前のように躱してたのは、きっと警戒スキル、そして最後の突きでみせた加速は、槍術スキルがあるからだろう。ちょっと羨ましくなった。俺もなんでもいいから戦闘スキルがほしいぞ!


「次はオルトよ。オルトの場合は、そのメイスでしつこく叩けばなんとかなると思うわ」


 ロイネが魔石を拾いながらそう言う。アドバイスが適当な気もするが、やるしかなさそうだ。




 さらに森の奥で、二匹で行動しているオークを発見した。一匹はロイネが先行してあっさりと処理する。


「オルト。出番よ。遠慮なくやっちゃって」


 ロイネが槍についた血を払いながら、俺に微笑みかける。俺のために整えられた舞台だ。

 残された一匹のオークが、怒りに満ちた咆哮を上げる。


「ンゴオオオ!」


 俺はメイスを構え、そのオークと向き合う。ロイネが最初に見せてくれた戦闘を参考にしようと、自分なりに考えるが、あれを真似るのは無理だ。

 オークの攻撃を器用に躱し、弱点をついて仕留める。今の俺に、そんな器用な真似はできない。俺にできるのは、ただメイスを振ることだけだ。


『オルトは多分、オークの攻撃じゃ死なないから』


 ロイネの言葉を信じよう。正面から行こう。弱点なんて知らないから、届く場所にメイスを叩きつける。そこだけに集中だ。

 近づいてきたオークが、俺を叩き潰そうと拳を振り下ろす。俺はその拳にメイスを叩きつけた。


 ドグシャッ!


 鈍く、肉と骨が砕けるおぞましい音が辺りに響く。オークの拳が、まるで粘土細工のように粉砕され、肉片と骨片を撒き散らす。

 オークがよろめくが、すぐに反対の拳が振り下ろされた。それは以外にもゆっくりに見えた。そして、その拳にもメイスを叩き込んだ。


 ドグシッ!


 凄まじい音と共に、もう一つの拳も砕け散る。動体視力も良くなっているらしく、狙ったとおりに当てることができた。


 両拳を失い、オロオロと困惑するオーク。その隙を見逃さず、俺は一気に間合いを詰めた。そして、オークの膝にメイスを叩き込む。


 バキャッ!


 膝を砕かれたオークはバランスを崩し、巨体が大きな音を立て地面に倒れ込んだ。俺は倒れたオークの頭にメイスを振り下ろす。


 ゴキャッ!


 頭蓋を砕かれたオークが、声を上げることもなくビクビクと数回痙攣して動かなくなる。


 「やった!」


 狙い通りに事が進み、見事オークを倒せたことで、俺の体内が高揚感で満たされた。最高の気分だ。俺は喜びに満ちた顔でロイネを振り返った。

 すると、返ってきたのは、血まみれになったロイネの笑ってない笑顔だった。

 彼女はその微妙な笑顔で親指を立てた。


「……やったね。色々と」


 その顔は、オークより恐ろしく見えた。


「あ……ごめん」

「いいよ。離れなかった私も悪いしね」


 やっちまった。初のオーク戦で他のことを考える余裕がなかった。きっと俺がうまくやれなかった時のために、近くに居てくれたんだろう。

 ロイネは魔物の血で汚れるのが嫌い。もう一度、俺の頭と心に刻んでおこう。






 オーク討伐を終えてギルドで魔石を売り、宿に戻って水浴びをした後に食事を取る。

 ロイネは自分を鍛えることに本当に熱心で、仕事での疲れが足りない時は、きっちりトレーニングを行なってから、また水浴びをして寝る。そして、寝る前になるとロイネは毎日の儀式のように俺に頼む。


「オルト、加護をお願い」


 俺がロイネの肩に触れると、加護が発動し、うっすらと光を纏う。そして彼女はあっという間に眠りに落ちていく。実に寝付きがいい。そして朝までぐっすりと眠る。

 加護を使って寝ると、明らかなオーバーワークであっても、翌朝には筋肉痛も疲れもないスッキリとした目覚めになるらしい。それは俺も一緒だ。いや俺の場合は、どんなに疲れても3時間で完全復活して目が覚めるから、ちょっと違うな。


 その夜も、俺はいつものように夜中に目覚めた。窓から差し込む月の光が部屋を照らす。横を見ると、ロイネの豪快な寝相が月明かりに浮かび上がっている。

 毛布は足元に追いやられ、腹部から引き締まった腰のライン、そして丸く大きなお尻が露わになっている。健康的で、それでいて女性らしい柔らかな曲線。それを見てると男の本能が刺激され、ムラッと下腹部が熱くなるのを感じる。

 おっと、命の恩人に失礼な目線だ。


 少し前のギルドでの出来事が頭をよぎる。あの時、顔傷の男が俺の打撃耐性に驚いて去っていった時、ロイネが見せたちょっと意地悪な笑顔、それでいて安堵しているような笑顔。可愛かったな。この豪快な寝相も可愛い。思春期だったらムラムラして眠れなかっただろうな。今も眠れないんだけど。

 でも、こんな可愛らしい女性が、あんなデカいオークを余裕で倒すんだから驚きだ。もう見慣れた光景だけど、あんなの日本じゃ考えられない。そんな強い女性と二人で過ごしてるってのもすごい状況だよな。俺は運が良い。この世界に転移した時、ロイネが俺を見つけてくれなかったら、あの場で死んでただろうし、この楽しい生活もなかったからな。本当に感謝だ。寝相見てムラムラしてごめん。トレーニングに行ってきってきます。


 ベッドから離れ静かに宿から出て、近くの空き地へと向かう。空き地でトレーニングしながら考える。

 俺の癒しの加護は我ながら良いスキルだと思う。だけどこうも中途覚醒が続くと、朝までぐっすり眠れるロイネが羨ましくなるな。癒しの加護を他人に対して使った場合、効果が1時間程度で中途覚醒はしないっぽいけど、俺は常に加護を受けてる状態だから、3時間くらいで完全回復してしまうのが、良いところであり欠点だ。

 この加護、もしロイネにずっと触れてたらどうなるのかな。つまり……添い寝のようにずっと触れていれば、ロイネにも俺と同じような効果がでる?


 そのことに気づいた瞬間、邪念を払うように首を振った。


 女性に興味がないわけじゃない。むしろ興味がある。だからこそ、この考えは危険すぎる。これをロイネに伝えたら「添い寝がしたいから、そんなこと言ってるんじゃないの?」って、変な風に思われるに違いない。

 恩人であり、この世界で一番大切な存在であるロイネに、そんなスケベな男だと思われたくない。ロイネは俺のことを、聖職者か聖人だったと思ってところがあるからな。その純粋なイメージは保ちたい。いや保たなければ! 

 冒険者として独り立ちすることも、さほど遠くなく可能になると思うけど、俺はロイネと一緒にいたいからな。


 俺は湧き上がる煩悩を消し去るように、トレーニングを続け、疲れ果ててから宿へ戻り、そのままベッドに倒れ込むようにして眠りについた。



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