011 Cランクへの昇格
早朝のギルドは、ほとんど人がいなかった。冒険者の多くが、朝早くからダンジョンに行っちゃったらしい。
私は受付カウンターから少し離れた場所で、オルトが昇格の説明を受けている姿を眺めていた。
オルトは職員から、気に入られたようで、あれこれ聞かれ、昇格の説明が進んでない。もうオルトに目立つなってのは無理ね。でも、なんでだろ。困ったことにならないか心配してるのに、すごく誇らしい気分。
「オルトさん、この度はCランクへの昇格、誠におめでとうございます!」
職員の声がホールに響き渡る。冒険者になったばかりなのに、もうCランクだ。
オルトは嬉しそうに、何度も何度も頭を下げてる。高く評価されても、あの腰の低さは変わらないみたいね。冒険者っぽくないけど、私はそういうところも好きかも。偉そうな奴ってギルドの職員からも嫌われるしね。
「オルトさんなら、経験年数さえ満たせば、すぐにBランクになれるでしょうね!」
職員の説明が、次の昇格の話になった。期待されてる証拠だ。多くの冒険者がCランクで終わるから、Cランクになった時に、Bランク昇格の説明をされる冒険者は、ギルドの職員から見ても才能がある人ってこと。
私も期待されてたから、説明してもらえたし、そのおかげで評価の高いベテランパーティーから、誘ってもらえた。
でもBランクへの昇格は、簡単じゃない。Cランクでの活動期間が最低でも3年以上必要になるし、経験豊富な試験官との模擬戦をクリアしなければならない。
この試験は生半可な実力じゃ突破できない難関だ。多くの冒険者がCランクで終わるのは、その試験の壁が高すぎるからだ。
私のCランクになってからの活動期間は、そろそろ3年目になる。ソロになってから雑魚狩りばかりしてきたから、あまりいい経験を積めていないんだけど、オルトのおかげで身体能力だけならBランクでやっていけるくらいにはなってるはず。
ちょっと前の私には、Bランクなんて夢のまた夢って感じだったけど、今の私なら模擬戦を突破できるかも。
「え、ダンジョンアタックしないんですか? オルトさんなら大活躍間違いなしなのに!」
「すみません、俺は転移トラップの影響で記憶の混乱があって、実は本当の名前すら思い出せないんです。なので、あちこちを巡って、記憶を取り戻せないかなーって」
「それは……気の毒に。残念ですが、そういう事情なら。でも、記憶を取り戻せたら、ぜひこのドンカセでダンジョンアタックに挑戦してください!」
引き止められそうになった時の、対策が役に立った。職員が凄く残念そう。あんなの見せられちゃ、そうなるよね。
オルトは身体能力だけなら、どうみてもBランクを通り越して、Aランクに到達してるように見える。特別なメイスを使ったとは言え、ロックゴーレムの胴体を粉砕だもんね。しかも、打撃スキルもなしに。
もし今のオルトがBランクの昇格試験を受けたらどうなるんだろ。試験官との模擬戦は、力自慢でも技術がないと話にならない。どんなに力が強くても、攻撃を当てられなければ意味がない。相手の動きを読んだり、的確な判断を下したりする経験がなければ、試験官には勝てない。それは知ってるけど、オルトって私の攻撃をかなり上手に防御できるんだよね。スピード特化の私の攻撃を。もしかしたら、すでにBランクの模擬試験も突破できる実力があったりして。
「どうぞ、こちらがCランクのギルドプレートです」
銀色に輝く、ギルドプレートが職員からオルトに手渡される。
私も、あのオルトみたいな早さで成長できたらいいのに。癒しの加護で、私の身体能力はかなり向上した。でも、オルトの成長と比較したら常識の範囲内にも思える。
その差は、効果の持続時間だってことは、オルトと一緒に過ごしてて分かった。オルトが加護を私に付与してくれても、それが持続するのは1時間ちょっと。でもオルトは寝てる間ずっと効果が継続してるっぽい。そりゃ差がでるよね。効果がありすぎて、夜中に目がさめることを苦にしてるっぽいけど、私はそれが羨ましい。
寝ている間、ずっと加護を付与してもらえたら……私もオルトみたいに急成長できるのかな。でも、寝ずに加護を付与し続けて、とは言えない。
添い寝して一晩中触れ合ってたら、癒しの加護が継続するかも。
そんな考えが、ふと頭をよぎる。
オルトに試してもらおうか? いや、さすがに恥ずかしい。オルトが私のことを大切に思ってくれているのはわかる。
でもそれは命の恩人への態度だ。私を「女」として見てるのかはオルトの態度から分からない。私のお尻が好きなのは視線で分かるけど、それ以上の感情があるのかどうかが微妙なところ。
もし私に興味がなかったら……私から添い寝してなんて言って嫌がられたら……辛すぎる。
やめとこう。オルトなら、もっと強くなりたいって言えば、寝ずに癒しの加護を付与してくれそうな気もするしね。
しかし、今回は目立ちすぎた。というか、彼のあの規格外の身体能力は、今後も何をやっても目立つことになる。オルトは真面目だから、頼まれたことは手を抜かずに頑張るしね。
きっと求められるままに頑張って、もっと目立つことになる。そうなると「癒しの加護」の秘密がバレてしまうのは、時間の問題かもしれない。
「では、今後の活躍も期待しています」
「ありがとうございます」
職員とオルトが頭を下げ合っている。
この腰の低さ、何度見てもなんかいいよね。ずっとあんな感じだといいな。オルトにはあの雰囲気のまま、高ランクになってもらいたい。そのためにも私が気をつけよう。
オルトの人柄と自由、そして私だけの特別な成長は、何としても守りたい。
そして、可能なら男女としてのパートナーにもなりたい。こんな気持ちになったの初めてかも。
自分のボロボロになった防具を見る。
これじゃだめね。オルトに選ばれるためには、少しは見た目にも気をつけなきゃ。




