戦闘員、異世界に立つ
ファンタジーものを思いついたので書いてみました。
深い森の奥深く、黒岩閻魔は意識を取り戻した。
肺を満たすのは、地球とは異なる湿った土と草木の匂い。
見上げれば、不気味なほど明るい二つの月が、幻想的な光を森に投げかけている。肌に触れる夜風はどこかぬるく、周囲の木々は見たこともない色彩をしていた。
「異世界なのか⋯⋯」
爆発の衝撃と、意識が途切れる直前に感じた強烈な光。
ジョーカーの本部で噂されていた転送実験。それが失敗し、自分をこんな場所へ送り込んだのだろうか。
組織への報告の途中だった。
あの場所は、自分のような行き場のない人間にとって、唯一の居場所だった。
戦闘員としての地位を与えられ、生きる術を教えられた。
研究の内容など知らなかったが、組織には恩がある。
もしこの転移が実験の失敗によるものなら、本部がどれほどの被害を受けたか分からない。
原因が究明され、技術が確立されれば、ジョーカーがこの世界に進出してくる可能性も考えられる。
それは、俺が地球に帰れる道と組織の勢力拡大の機会になるかもしれない。
情報収集は、組織への忠義を果たすための第一歩だ。
閻魔は静かに立ち上がり、周囲の状況を警戒しながら歩き出した。
幸い、ジョーカーでの潜入任務で培った戦闘術やサバイバル様々な能力が、この状況で役立ちそうだ。
作業員、接客業、そして料理人。特に料理の腕は、いついかなる状況でも食料を確保し、生き延びるために不可欠だろう。
コミュニケーション能力も、潜入には必須だった。流行りの映画やドラマ、アニメにも目を通していたおかげで、ゴブリンやオークといったファンタジー生物の知識も多少はある。
ゴブリンは弱く、オークやオーガは手強い、ドラゴンに至っては災害レベル程度の認識だが(苦笑)
実際に森を彷徨ってみると、その程度の知識で十分だとすぐに理解できた。
遭遇した複数のオークは、現実世界で鍛え上げた閻魔の戦闘術体術で容易く沈黙した。
力は強いが力任せで隙だらけ複数の利点の連携する程の知能もないし対処は簡単。
注意する点は仲間が殺られても動揺しない点だろうか?
この世界でも、自分の戦闘能力は通用する。それは、組織のために役立つ力を失っていないという証拠だ。僅かな安堵とともに、使命感が湧き上がってきた。
歩き続けるうちに、じめじめとした沼地に出くわした。
そこで、地球のウナギによく似た魚が蠢いているのを見つけた時、閻魔の腹は久しぶりに強く鳴った。
道具が無いから今は食べないがいずれは食してみたいな、先ずは白焼きかな?(笑)
組織での実験で毒物に耐性があるで何でも試しに口にしてみたが毒々しい見た目ほど毒がなく美味しい。
この世界にも、組織にとって利用できる資源があるかもしれない。
数日が経ち、ようやく人の手が加わったと思われる痕跡を見つけた。
踏み固められた地面、折られた木の枝。
注意深く進むと、小さな木造の小屋が視界に入ってきた。
「すいません誰かいらっしゃいますか?」
小屋から気配は感じるから1人ほど居るのは分かっているが異世界でのファーストコンタクト相手に警戒されたら何も始まらない。
住人が扉を開けると、穏やかな表情をした男がいた。
尖った耳を持つ彼らを見て、閻魔はすぐにエルフだと理解した。
「……旅の方ですか?」
流暢な、しかしどこか耳慣れない言葉で、男性が話しかけてきた。まるで、最初からこの言葉を理解できていたかのように。
「ええ」
閻魔は努めて平静を装い、頷いた。
「道に迷ってしまいまして」
自己紹介をした後、閻魔は彼は薬師で、珍しい薬草を求めてこの森に一時的に滞在していることを知った。
エルフといえば、賢く、古の知識を持つ種族というイメージがある。
下手な嘘を語るより異世界から来たと素直に話すべきと考え語った。
閻魔の話を、エルフの夫婦は驚くほどあっさりと受け入れた。彼らの祖先もまた、違う世界からこのグレイテールに迷い込んだ種族なのだという。
魔物を含め、異世界からの来訪者は珍しくないらしい。
そして、この世界のシステムとして、迷い人には言語理解能力が与えられ、持っている能力がスキルとして認識されるのだと教えられた。
さらに、全員ではないが、「ユニークスキル」と呼ばれる特別な能力を与えられることもあるらしい。
「スキルの確認方法は、【ステータス】と念じるのです」
エルフの男がそう教えてくれた。言われた通り、閻魔は心の中で「ステータス」と唱えてみた。
すると、彼の目の前に、半透明の青白い文字が浮かび上がった。
★★★★★
名前:黒岩閻魔(25)
レベル:15
HP:250/250
MP:173/173
筋力:90
耐久力:45
敏捷性:37
魔力:69
幸運:10
スキル:
言語理解ー
戦闘術 Lv.6
隠密 Lv.5
料理 Lv.7
サバイバル Lv.5
毒耐性Lv.3
観察眼Lv.3
ユニークスキル:
調味料精製Lv.1
ティームモンスター:
ナノスライム(新種)Lv.1
★★★★★
信じられない光景が、彼の目の前に広がっていた。
これが、この世界の力なのか。
自分の能力が数値化され、スキルとして認識されている。
調味料精製のユニークスキルはこの世界で日本料理が食べれると安堵した。
「これが、ステータスです」
閻魔は、驚きを隠せない表情で呟いた。エルフの夫婦は、穏やかに頷いた。
「ええ。あなたも、この世界の住人としての一歩を踏み出したのですよ」
こうして、異世界グレイテールに降り立ったばかりの悪の組織の戦闘員、黒岩閻魔は、組織への忠誠を胸に、エルフの薬師からこの世界の基礎を学び始める。
彼の心には、故郷への帰還という願いとともに、この異世界の情報を組織に伝えるという新たな使命が灯っていた――。
お読みいただきありがとう御座います。
評価とかしてもらえるとモチベーション上がるので良かったらお願いします