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ミステリショートショートシリーズ

「ウミウシ」

掲載日:2025/04/17

嘘が常套手段だったが、同時に。

「割れる」ことも、必定になってきたのかもしれない。もはや。


「仏さんですがね」


と刑事。


「また、殺られ方が同じでしたよ」


「さすがに。今度こそは」


と浜口。

彼は非公式で、刑事を手伝っている。

私立探偵のようなものだ。


「残して行ったものです。奴が。ほら」


浜口が指先で摘まんでいるのは、糸くず。

派手な色をしている。橙。


「この糸くずと、殺し方の程度で、大体分かりました。方角は」


しゃがんでいた浜口は、左を指差した。立ち上がる。

二人は、走り出す。







仏、と呼ばれた。

今日あった遺体には、銃創。

弾痕が、たった一つ。

両目の間の、第三の眼だ。


それが黒い穴となって、一点だけ。

ただ、遺体の発見場所は毎回違う。当然だ。


浜口も刑事も、「奴」がしょっちゅう住む場所を変えているというのを、心得ていた。


「住む場所じゃなければ、変わらないものがありますからね。『仕事場』です」


当初、「奴」は大きな会社で従業員を束ねて、纏めあげながら過ごしていた。

その時にも彼には、嘘が常套手段だった。

コンサルタントとして。


「潜んでいるはずです。今」


浜口が先導して、辿り着いたビル。

夜。二十三時。

明かりは?


「ありますね。あの窓。不自然だ」


と刑事。







はめられたのかもしれない。

と、彼は思った。


殺し方で割れるというのは、もはや必定か。

今回は、少々抵抗されたのもあった。

窓の外を見る。やはり……。


「奴」は身を潜めたものの、少々の明かりはもう、ビルの外側から見えてしまっているだろう。

本名も、住所も、割れることなく過ごしてきたが、ここで、か。

「ウミウシ」として、何人殺ってきただろう。


そろそろ、引き際か。


嘘は、言葉として出た瞬間に、蒸発するのが早い。

それは、どの嘘でも同じだった。


自分のためにつく嘘。

相手を甚振るために、つく嘘。

保身のため。

攻撃目的。

プライド目的?


「ウミウシ」の場合は、保身目的が多かった。

そして、彼自身は何を言ったのかも、よく憶えていない。


だから、紙とペンは彼にとっては、最も重要だった。

嘘は書き留めない。

コンサルタントとして引き受ける、仕事の数々。

中でも多かったのは、「殺し」の案件だった。


殺し方のあでやかさから、呼ばれた名前。

「ウミウシ」は、必ずサイレンサーを添える。


仕事は的確。

一つ一つこなす。

終える。

殺した者の名前と数なんて、思い出せもしなかった。

加えて、彼自身のついた嘘も。







本名も、住所も、沢山「ウミウシ」にはあった。

暗殺屋としての正体は割れないが、一部ネックもある。


殺し方が、一辺倒。

白くて長い魅力的な、印象深い指。

加えて、大きな会社を持っていれば、「動かない」部分が出来てしまう。


だから、彼は「個人」になった。


それなのに、はめられたか。







「さて」


と浜口は言った。


「大捕り物ですよ」


刑事はその言葉のあと、紙をペンを用意する。


皮肉なもので、身を潜めている「ウミウシ」も、紙とペンを用意しては。

何かと書きつけている。

  

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